ジェミニの夢

六十月菖菊@兎団子里
@sixtymonth

第4夢

 飛ぶ、跳ぶ、飛び跳ねる。

 軽やかに空を駆け抜ける。

 まるで鳥にでもなったかのように。


『……叶夢、地面に降りるヨ』


 後方の生徒たちを引き離し、そろそろ先頭集団に追い付く頃合。その先に見えたコースの曲がり角の手前で夢見は叶夢にそう呼びかけた。

 途端、残念そうな声が上がる。


「でもおねーちゃん、これめちゃくちゃ楽しいのです! 忍者みたいでカッケーのです!」


 叶夢が“個性”を使えるのは他人の想像に対してだけである。加えて姉と身体を共有している現状では、“個性”を発動できる機会は非常に少ない。

 だから久しぶりに“個性”を使い、水を得た魚のように生き生きとしている片割れの様子に、夢見は申し訳ない気持ちになる。できることなら思う存分に“個性”を使わせてやりたい。

 しかし自分たちの“個性”は決して万能ではなく、限界が必ず存在する。後半に控える種目の為にも、なるべく力は温存しておかなければならない。

 この体育祭への出場は他でもない、唯一の肉親たる眠瀬叶夢の為に決めたこと────だからこそ眠瀬夢見は、心を鬼にすることにした。


『……ダメだヨ、最後まで持たないからネ』

「ちぇー、なのですー」


 不満そうにしながらも姉の指示に素直に従う。


「よいしょっと」


 夢見の想像により創造された足場がスロープに変形する。それに合わせて、叶夢は滑り台の要領で地面へと滑り降りて行った。


「って、アレは……!?」


 驚愕し目を見開き、目の前のものに釘付けになる。


「入学試験のときの仮想敵だ!」


 次のステージの障害物は────仮想敵の群れだった。

 叶夢はヒィィィィ!!と戦き、ジリッと後退りをする。


「あ、アレは確か────おとーさんが昔、特訓とか抜かして我が家の庭で幼くか弱い叶夢たちに無理やり戦わせたデカブツなのですよ!?」

『ア〜、叶夢が大嫌いだったアレだナ? アレに一日中追いかけ回されテ、すっかりロボット嫌いになっちゃったもんネ』

「トラウマ再びなのです!? あのネズ公、今頃きっと観客席で発作でも起こしていやがるのですよ!」

『ヤレヤレ、父サンの悪癖もここに極まりだネ。叶夢、どうすル? “個性”を使ってもいいけド……』


 他種目の為にも“個性”は極力使わないでほしい。

 そんな意味を込めて片割れに問うと、嫌そうな顔のまま頷いた。


「うう……分かってますよ、おねーちゃん。みなまで言うな、なのです。やってやるのですよ」


 トップを独走する轟焦凍は瞬く間に仮想敵を凍りつかせ、倒れたそれにより他の選手が巻き込まれている隙に、次の障害物へと進んでしまった。


「あの特待生野郎に追いつくには、仕方ねーことです……!」


 叶夢は意を決してトラウマに向かって駆け出した。

 助走を兼ねたその走りから、勢い良く跳躍する。

 その跳躍力は夢見の想像による強化ではない。幼少期から根津校長により鍛え上げられ、叩き込むように備えられた、叶夢自身の身体能力である。


「ていやぁぁぁぁ!!!!」


 ドゴッ!!!!


 ヤケクソと言わんばかりに咆哮し、仮想敵の頭に飛び蹴りする。頭を大きく潰されたその巨体が進行方向へ傾き倒れるのを利用して、次の標的に同じように飛んでは蹴り、飛んでは蹴りを繰り返す。


「あと一匹ィ!」


 そう叫びながら最後の一体には回し蹴りを見舞わせ、地面へと難無く着地する。そしてそのまま、止まることなくまた先へと走り出した。


「つ、疲れたッ、のです……!」

『お疲れサマ〜』


 苦しそうにしながらも走り続ける。

 目指すのは────トップを走る、その背中だ。


『上出来、上出来。よく出来ましタ』

「当ッたり前なのです! この体育祭が終わった暁にはチョコレートケーキワンホールをおとーさんにご所望するのです! おねーちゃん、一緒に食べましょうね!」

『ハイハイ』


 身体を共有している以上、“一緒に”というのは到底不可能なのだが、そんなことは二人とも重々承知している。


「約束なのですよ!」

『うン、約束────』



 Boooom!!!!



 後ろからの爆音に、思わず叶夢は振り返る。


「げぇっ、アレは……!」

『アッ……』


 爆豪勝己がすぐ後ろに迫ってきている。どうやら、爆発で上へ飛び仮想敵を乗り越えたらしい。


「────便乗させてもらうぞ!」


 更にその後ろから────問題はやって来た。


「ああああああああああああ!!!!」

『ウオッ、叶夢速イ! 速いヨ! いきなりどうしたのサ!』

「アイツにだけは────あの鳥頭だけにはッ、抜かれたくねーですッ! 抜かれてたまるかなのですーッ!」


 自分でもくだらないと思っている見栄のためだけに加速する。先程までの息切れなんて、何処かへ飛んでいってしまった。


『はやいはやいはやい────! 眠瀬叶夢、今までにない全力疾走だ────!!??』


 プレゼント・マイクの実況すら耳に入らないほどに、スピードを上げて走っていく。


「なっ……!?」


 常闇踏陰は茫然とした。

 眠瀬叶夢が己を見た途端に顔を青ざめ、速度を格段に上げて逃げるように走り出した決定的瞬間を、見たのである。


「……ダークシャドウ、見たか?」

『アア、見タゼ!』

「……俺の顔が恐ろしかったのだろうか?」

『サァナ!』


 少し。否、割と大きなショックを受けながらも先を急ぐ。

 すっかり小さくなってしまった眠瀬叶夢の背中を追いかけつつ、次のステージを目指すのだった。




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