ジェミニの夢

六十月菖菊@連日深夜のテンションで頭おかしい
@sixtymonth

第1夢


 泣き声が聞こえる。声なき声で泣いている。


「随分と意地っ張りな泣き虫だナ」


 飄々と、揶揄するような口調で嘯きながら薄らとした笑みを浮かべる。


「おイ、そこの泣き虫クン」


 声をかけてやると、暗がりで丸くなっていた何かがビクリと反応した。


「……誰だ」

「アタシは通りすがりの女の子だヨー」


 適当な言葉ではぐらかす。明らかに誤魔化せていないのだが。


「アタシなんかのことよりキミだヨ、キミ。どうしたんだイ、悲しいことでもあったのかイ? お気に入りの本を無くしたカ? 好きな子にフラれタ? それとも」


 そう、それとも。


「……いヤ、これはよそウ。アタシとしたことが不謹慎過ぎたゼ」

「……?」


 言葉の真意に気付いていない少年は首を傾げるのみだ。何にせよ、不快にさせずに済んだことにひとまず安堵する。


「それでだナ泣き虫クン、ここで会ったのも何かの縁。良かったラ、話してみてくれないかネ?」

「……お前には関係ない」


 ぶっきらぼうに言ってこちらを拒絶する少年に、盛大に溜息を吐いてみせた。


「キミ、聞こえなかったのかイ? 言っただろウ。何かの縁だっテ」

「……縁」

「そウ、縁だヨ縁。言い様によっては奇縁とも言うがネ」

「奇縁……」

「だってそうだろウ? こんなところデ、こんな風に出会ったアタシ達は奇縁以外の何物でもないのサ」


 だって、ここは。


「ここは夢路。どこにも存在しなイ、いつ消えるかも知れない夢のまた夢。ここで何が起きようが知られようガ、夢から覚めてしまえば何もかもが無かったことになるんダ」


 だから早く楽になってしまえよ。


「……」


 ほとんどダメ押しのつもりで言ってみたが、少年はどうやら観念してくれたらしい。

 暗がりから現れた風貌は黒い鳥のようだった。


「良い面構えじゃあないカ。カッコいいゼ」

「……そう言うお前はクマが酷いな」

「個性の反動で不眠症になりがちなのサ」


 美人じゃなくてごめんネと言うと、悪くは無いと返ってくる。


「俺は良い面構えだと思う」

「……良いことを言うネ、キミ」


 泣き虫クンと言うのは今後一切やめようと心に決めた。


「やっと顔を合わせられたんダ、自己紹介しようじゃないカ」

「俺は常闇踏陰だ」

「よろしく常闇クン。アタシの名前は────」


 名乗り上げようとした途端、世界は暗転する。

 夢から覚める、時間切れの合図だった。




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