Magenta 2 ・万里視点

 ▼103号室 万里side



 手渡したスマホを受け取ると、至さんは元の位置に戻ってソファーに座り直した。

俺に見せないように片手で遮って隠すようにしてっから、何をやってんのかは分からねぇけど。

指先を這わせて画面をなぞりながら滑らかな手付きでスマホを弄る至さんの横顔を、隣でぼんやりとしながら見ていた。


 手元に視線を落としているせいで、少し伏し目がちになっているマゼンタ色の瞳。

至さんの些細な表情の変化にさえも惹かれて魅了される。charmの固有スキルとかオートで発動してんじゃね、この人。

 

 触れたい、抱き締めたい、キスしたい。無意識に湧き上がる感情を無理矢理に抑え込む。


「おし、オケ」とか何やら一人で納得しながら、マゼンタ色の瞳を眇めて満足気にほくそ笑み、ソレを俺に返却してきた。こういう表情をする時の至さんは、悪い企みを実行した時のやつだな。ったく、今度は何をやらかしたんだ……。


「これで、20分前な」

「は?」


「ワンモア」

 

 状況を把握出来ていない状態の俺に対して、わざとらしく甘ったるい声で話しかけてくる。

上目遣いで誘うような仕草を見せて、煽るような挑発的な視線で至さんがリトライを申し出てきた。マジで、さっきから何なんだよコレ。


 戻って来たスマホを見ると、至さんによって画面の時計表示が手動で強制的に20分くらい前に設定し直されていた。


「何がしたいんすか、アンタ」

「ばんり。何も聞かずに、20分前のお前に戻って」

「無茶振り過ぎだろ」


 そんな事は、不可能だ。

 

 あからさまに作ったようなワントーン高い声色。口調も普段と違うし、何の演技をしてんだ。そう言うのも妙に似合ってて違和感ねーのがマジで凄げぇな。


「至の一生のお願い」

「あざと過ぎっしょ」


 胸の前で左右の指を組み合わせるようにして首を傾けながら、マゼンタ色の瞳を潤ませる。

んな事しなくても、充分可愛いつうの。つーか、その手には乗らねぇし。可愛いけどな、クソ。


「ふは、バレてたか」

「至さんの一生は、俺が貰う気で居ますけど」


「いいから、はよ。さっさと時間を巻き戻せ」

 

 チラリと赤い舌先を見せた後、一瞬にして邪悪な悪魔の化身に豹変しやがった。

『出来て当然』のように無茶な要求を突き付けてくる。横暴過ぎだろ。さっきまでの天使みたいな、あざとい可愛さはどこへやった。……しかも、また華麗にスル―すんのかよ。結構、際どい事を言ったってのにな。


 それにしても、20分前の俺ってどういう事なんだ。確か、至さんが俺に誕生日のプレゼントの話題を振って来た辺りか? 記憶に残っている会話を反芻しながら、回想をし始めた――。


▼△▼


『もうじきお前の誕生日でしょ、何かリクエストある?』


 隣に居る至さんから、声が投げ掛けられる。


 そういやそうだったか、なんて今言われて思い出したみたいな反応を返した。

本当は、すげえ楽しみにしてて。そわそわしてる、なんかガキみてぇだろ。『17歳』って年齢からして世間一般的に俺はまだガキに分類されるんだろうけど。至さんにはガキ扱いされたくねえな。ってので、興味がなさそうな振りをして見せた。

 

『ないなら、別にいいか』


 いや、欲しいモノはある。つーか、リクエストって頼んだら何でもくれる……訳はないよな。至さんだしな。下手な事を言ったらブン殴られる。「至さんが欲しい」つっても、簡単に手に入れられるとは思ってねーし。この人を攻略すんのは、流石に俺も余裕じゃねーわ。


『至さんの事は、自力で手に入れたいんで』


 正直、言って後悔はしていない。

自分の中でずっとモヤモヤと燻らせていた想いを吐き出して、至さんに直接伝えた事で少しスッキリした。なんつーか、至さんをプレゼントとして貰うってのは……違う。そんなノリじゃなくて。本気で、この人の全部を手に入れたいんだよ。


『すげえ顔』


 笑われるか呆れられるかスルーされるか、至さんの反応を色々シュミレーションしてたけど。「は?」って短い言葉を発して、至さんの王子様で綺麗な顔から凶悪な面構えになって、ガンを飛ばされた。(ふは、ガン飛ばしても可愛いなこの人)って内心思ってても言わないでおく。

今ここで言っても機嫌を損ねるだけだ。至さんの機嫌が悪くなるとメンドくせぇんだよな。


 スルー案件と判断されたのか、さっきの俺の発言に対して至さんからの追求はなかった。照れを隠すように、さり気なく話題を変えてみる。


『至さんが、俺にプレゼントしたいって思うものとかあります?』


 至さんが俺にあげたいと思う物とかあるのか、ちょっと気になった。至さんから「俺の為に」って貰えるモノは大抵のものなら嬉しい。こうやって、至さんの部屋で二人っきりでゲームをして過ごせている時間とか。俺にとっては大切で。ソレを越える、それ以上に欲しいモノなんか、至さん本人くらいしか思いつかねーよ。

 

『んー、そうだな……"全自動俺を風呂に入れる機になれる権利"』

『え、』

『冗談』


 俺だけにじゃなくて他の奴にも言ってんだろうし、至さんが本気でそう思ってる訳じゃないのは分かってんだけど。笑いながら軽く聞き流して、いつも通りにゲームをしている俺でいるつもりが、上手く演技が出来なかった。「冗談」だと言われた言葉が突き刺さる。


「ば~んり」

「うぉ!?」

「イイ反応、キタコレ」


 間近で至さんの声がして我に返った。ハッとして気付けば、目と鼻の先に至さんの顔がある。マジで近過ぎだろ! こんなに至近距離で見られて居て全然気付かない俺も、どうかしてんな。回想に浸り過ぎてたのか……いや、ビビり過ぎて変な声が出た。心臓が止まるかと思ったわ。

 

 突然の不意打ちに素で驚いた俺の反応を見ながら蕩けそうな甘い笑みを浮かべて、すげぇ嬉しそうな顔をしてやがる。ああもう、んなヤバイ表情見せ付けられたら押し倒したくなんだろ。


「……さっきから何なんすか」

「ミッションがクリア出来ないんだよ。クソ」


 不貞腐れて悔しそうに言いながらソファーの座枠に背を向けて凭れさせ、俺の両膝の間で床の上に座り込むとスマホを操作し始めた。至さんが、そんな苦戦するとか何のゲームをやってんだ。背後からスマホ画面を覗き見ようと左肩側に寄って肩口に顔を近付けると、ふわふわとして柔らかいミルクティー色の髪が俺の頬に触れた。シャンプーの匂いが鼻先を掠める。


「なんなら、サポしますよ」

「俺の脳内鯖で挑んでるソロミッションだから、無理」

「はあ……?」


 良く分からねぇけど、至さんは今、脳内鯖の中でソロミッションに挑んでいるらしい。


「何と戦ってんだよ」

「バンリってやつ。こいつがしぶとくてKILL出来ない、マジウザ。クソが」


 スマホ画面を睨み付けながら短く舌打ちを鳴らして形の良い綺麗な唇の先を尖らせると、俺の脛を目掛けて軽く肘打ちをしてきた。(クソ可愛)とか思いながら油断している所へ物理攻撃を喰らわされて思わず眉を顰める。何もしてねぇのに攻撃されるとか理不尽過ぎだろ。

 

 まあ別に、いーっすけど。拗ねてる至さんが可愛いし。その辺で相殺な。つーか、どっかで聞いた事のある名前っすね。


「打倒、せっつばんり」

「俺かよ。つか、何の勝負をしてるんすか」


「最初の目的は、万里が誕生日に欲しいモノの情報を入手するつもりだったんだけど、今は違うフラグが立って別のルートに入ったっぽいわ」

「え?」


 改めて言われてから思い出した。そういや俺、誕生日プレゼントに欲しいモノを聞かれてたのに、まだ何が欲しいか答えてなかったな。今の状況はそう言う雰囲気じゃねーし。完全に、言うタイミングを逃した。時、既に遅し……。


「お前が事ある毎に揶揄ってくるから、俺も何かムカ付いてさ。仕返ししてやろうと思った」

 

 ……などと、供述しており。


「揶揄ってねぇし」

「ウソだろ」

「マジ」

「マジか……」


 本気で言ってんだよ。つーか、俺の本心に気付いててスルーしてたんじゃなかったのか。見事にスルーされてっから脈無しなのかと思ってた。唖然としている至さんの反応から察すると今までの事は全部、面白半分に冗談で言って揶揄ってると思われてたのかもな。全く本気にされていなかった事実を思い知り改めて決意を固めた。

 

「まあ、俺が挑んでる方の勝負は勝たせて貰いますんで」


 至さん、アンタを俺じゃないと駄目にしてやりたいんだよ。こうなったら、絶対に手に入れてやる。9月9日、俺の誕生日に至さんに告白するつもりで居たしな。有言実行にしたくて成し遂げようとしている事を言葉にして告げた。


「は? お前が何に挑んでるって?」


 俺からの威圧的な視線と同時に勝利宣言とも受け取れる発言を耳にして、至さんの色素の薄い両眉が上向きにつり上がった。これって、HELL級のボスと対峙した場面で至さんがマジになった時に見せる表情だよな。外面エセ王子様な時の柔らかい表情とは打って変わって……正直、ゾクゾクする──。


「至さんに、挑んでるんすけど」

「上等。言ってろクソガキ、叩き潰す」

 

 言えば言い返す、やればやり返す。互いに退かず譲らない緊迫した攻防を繰り返している応戦状態に至さんとガチバトルをしているような、この雰囲気がたまらなく面白くて昂る。

凄みを含んだ声色で俺への不穏な返答の内容にさえも可愛く思えてしまうのは、この人に対する俺のフィルターが致命的な不具合でバグってんのかもな。


「へいへい、返り討ちにしてやりますよ」


 至さんとこうして居ると、止め処なく込み上げてくる感情を抑え切れずに、自然と頬が緩んで笑みが零れる。ふはっと声に出して笑いながら、だだっ子を宥めるように至さんの柔らかい髪を優しく撫でてやった。


▼ 【To Be Continued......】













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