狼は叫ぶ

焼き茄子
@kr__nr2

「それで何も見えなかったのね」

「うん」

次の日になって、昨日居なかったイーサンがフェイドの家にやってきた。アピアは出かけていて、家にいない。イーサンはヴェルを撫で回していた。すると1回手を止めた。

「ひとつ思ったのだけれど、それって、あの子はモンスターだからじゃない?人間じゃないんだよね」

「…うーん、でもその話一理ある」

「…あーあ、なんかフェイド目覚めてからずっとあの子の話、気分転換にどこか行きましょ、フェイドもう動けるんでしょ?」

イーサンは立ち上がった。

「…でも今ウォレスいないからもし他のモンスターが出て来たりしたら…それにまたもう一人の僕が姿を現すかも知れない」

「そんなの、逃げればいいじゃない」

「ええ…」

「ほら行くよ、ヴェルも行こう」

イーサンはフェイドの腕を引っ張り、家を出る。

「何処へ行くの?」

「そこらへんを歩き回るだけ、それでもいいでしょ?」


ヴォルフ族の村を出て、道の無い、生い茂った草をかき分けながら歩く。木漏れ日が美しく輝いていた。草を踏む音、風で葉っぱが擦れる音、小鳥の鳴く声が響く、また、すこしずつ、水の流れる音が聞こえてきた。

「よし、着いた!」

川に着いた。淡い緑色に染まっている水は底まで透き通っていて、また、太陽からの光が乱反射してフェイドの目には眩しく感じられる。中に魚達が優雅に泳いでいる。

「うわぁ、こんな綺麗なんだねここ」

「うん、時々来ているのよ、食料調達にもなるし」

「へぇ」

「さて」

イーサンは川の中へ入った。一緒にヴェルも入る。川の深さは膝より下へんである。

「フェイドもおいでよ」

「うん」

その時だった。

【ドドドドド】

「なんの音…?」

「さあ…」

フェイドとイーサンは目を合わせた。

「うわぁあああっ」

橙色の髪の一人の少女が飛んできた。川の中へそのままダイブする。水しぶきが二人とヴェルにかかった。

「?!」

その直後空にファイアバード(炎でできた鳥)が飛んでいった。

「ううっ」

少女は起き上がった。イーサンは少女に近づいて声をかける。

「あっあの…大丈夫?」

「?!もっもう許してっ私はっ」

少女は酷く怯えた。

「落ち着いて!!」

「ひいっ」

ヴェルは気にせずに魚と追いかけっこをしていた。


少女を川から出して話しを聞いた。

「あなたは…フィックス族の人?」

「……うん」

「どうしたの?あの状況から見たら、ファイアバードに追いかけられてたってことだよね…?」

「…わ、私、村から、フィックス族から追放された…」

「追放?!」

「えっ…フィックス族ってあのあそこの山のらへんで住んでいるんだよね?そこからここまでずっと逃げてきたの?」

「うん…そう、ずっと族長が作ったファイアバードに追いかけられて…私何もしていないのに……」

「何があったの?」

「フィックス族は…毎日信仰している神様に捧げ物として食べ物を用意していて…でも何故かその食べ物が無くなってて、そしたら皆…私が食べたなんて言ったの、私はしてないのに!!そしたら…」

その少女は泣き出してしまった。イーサンとフェイドは必死になだめる。

「あーあー泣かないで!えーっと…あっそうだ、寝床ないなら私の家おいでよ!」

「えっ良いの…?私追放された身なんだよ…??」

「良いよ良いよ、私はアライラ族だけど、族のみんな優しいし、受け入れてくれるよ」

「ありがとう…」

「あ、そうだ、名前言ってなかったね、私はイーサン」

「僕はフェイド、ヴォルフ族だよ」

「あなたの名前は?」

「……ごめんなさい、私、追放されたとき、名前を捨てさせられたの」

「名前を…」

「捨てる…?どういうこと?」

「そのまんま…今私に名前が無いの……思い出すことも出来ない、したら私は…もうそのうち族のみんなに忘れ去られるの…」

「酷いね…」

「じゃあ私が名前をつけてあげる!」

「えっ」

「空っていう意味で、ヒメル、どう??」

「そんなイーサン勝手に…」

「ありがとう!!嬉しい…!!」

「えええ」

「良かった!じゃあ、私の家に行こうヒメル!!」

「うん」

「えっ待っええええ」

イーサンと、ヒメルと名付けられた少女は手を繋ぎフェイドとイーサンが先程来た道を向かった。

「んも…ヴェル、行くよー」

その声にヴェルは反応し、川から上がった。首を振って身体中の水を飛ばし、フェイドにかかる。

「あーっやめてやめて、僕にかかるー!」

「そっか、名前かぁ」

「?!」

フェイドの後ろにもう一人のフェイドが現れた。ヴェルは威嚇する。

「あははーいつもヴェルはボクに威嚇するね」

「今日は…どっちなの」

「あー本体じゃないよ、ちょっっと危ないからね」

「そう…いつから居たんだよ」

「居たというか…見てた、かなぁ?ずっとね」

「うわ…」

「それで名前、いいね名前は、それだけでその人の存在をみんなは認めることが出来るんだよ、名前は普通なら一人一人、バラバラだ、だからわかりやすい、名前を聞けば、ああ、あの人だってすぐ顔や声、性格などが思い出されるんだよ、名前は素晴らしいね、あの子は名前を捨てらされたと言っていたけれど」

「何の用?僕の何かが欲しいんじゃないの?そんな雑談…」

「雑談なんてひどいなぁ、まあボクはね、名前が欲しいんだ、確かにボクは君で名前だって一緒だけれどそれじゃ混乱するだろう?だから、ボクに名前を付けてよフェイド」

「…名前、やだよそんな…君は僕だとかなんか言ってる奴に名前をつけるなんて、もう一人の僕に」

「冷たいな…別の世界では別の名前だけれどね」

「?何?」

「ううん、まぁほら、名前欲しいな、あー大丈夫、ボクが君になった時はちゃんとフェイドっていう名前になるから」

「なにが大丈夫だ…」

「…あーあ、つまらない」

「なっ」

彼は消えていた。

「…読めない奴、ん?なにヴェル、あぁ、大丈夫だよ、うん、行こう」

フェイドとヴェルは二人のあとを追った。