鰭を奪われた人魚

沙羅/和葉@12/31誕生日/喪中
@aobiyori_sara


 気づいたらそこは、慣れ親しんだ海の中ではなく、滅多に寄りつかない渚だった。

 頬の下にある砂が、波にさらわれていく。

 どうやら、自分はうつ伏せで横たわっているらしい。

 橙色に染まる濡れた視界の中で、何があったのか思いだそうとする。

 否。やはりやめよう。思い出したくない。

 尾っぽの先にある痛みに気づいて、思考を強制停止させた。

 息を一つ大きく吐き出し、身をよじって自身の下半身を確認する。

 腰から下は、魚の尾だ。腰まで伸びた桜貝に似た色の髪と同じ色の尾っぽがある。

 が、先端にあるべき鰭(ひれ)が無くなっていた。

 無くなっているというより、奪われたと言った方が正しいか。

 鰭と尾っぽを切断する形で、刃の跡が残っている。

 そこから絶えず血が流れていて、意識を朦朧とさせた。

 尾っぽから上半身へと、視線を移す。

 上半身は人間のものだ。

 二本の腕と、首と、頭。

 服と呼ばれる物は一切身に付けておらず、素肌である。

 羞恥心は込み上げて来なかった。

 それ以上に、泳げなくなってしまったという悲しさの方が心を埋め尽くした。

 鰭がなければ、上手に泳げない。

 深い深い海の底にある自分の住処まで戻れない。

 かといって、この下半身では陸にもあがれない。

 このまま、自分はどうなってしまうのだろう。

 海の水に触れる限りでは、ここは自分の知らない海岸だ。

 自分を助けてくれる知り合いはいないだろう。

 このまま血を流し続けて、誰にも知られぬままひっそりと死んでいくのだろうか。

 いやだなあ、それは。

 凄く寂しいではないか。


「どうしよう…………」


 じわりと、目の奥が熱くなる。

 横たわったまま、ぎゅっと目を閉じると、ぶっきらぼうな男の人の声が頭上から聞こえた。





end

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#rtした人を自分の世界観でキャラ化するツイッターでやった企画です。