10年後に至るまでのお話

輝きは幽か彼方

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※イグニス前提のグラディオかと思えばイリスの話












遠く、白く光る花火が上がった。

「撤退の合図だ」

つい、仲間に言うような口調で言ってしまい、しまったと思ったグラディオの心境をソレイユは気付いた様子もなく「ええ」と短く返事をした。

暗闇がどこまでも続く寒空の下には明るすぎる合図に凍えた吐息が溶ける様がよく見えた。ソレイユは震えていた。

「大丈夫ですか」

「どうということはありません。早く戻りましょう」

そっけなく言う。

「姫様がこんなとこで風邪引いちゃ、国民が悲しみますよ」

「……私がどうなろうと、代わりなどいくらでもいます」

レスタルムの中での“姫様”とは大違いだ。

あそこで毅然と立つ彼女は、温かく絶望する人々を包む。消して諦めてはいけないと前を見る。世界を救う真の王は戻ってくると、信じ続ける。皆に希望を示し続ける、あるべき統治者の姿。

「別に説教する気はないが、あんまりそういうことは言うべきじゃない」

「……そうですね、少しどうかしていました」

素直に謝罪するソレイユの横顔に納得の色はない。

かつて、彼女の兄も度々拗ねた態度をとっていたこと、その度に自分もカッとなっていたことをグラディオは思い出す。青かった自分に少し恥ずかしいような気分になってくる。あの頃は俺も若かった。なんてそんなこと思っている場合ではない。

「ほんと、ノクトと似てますね」

「こんな状況下で言われるのは、本意ではありません」

「一応、拗ねてる理由は聞きますよ」

「拗ねてなどいません」

「ノクトもそう言うと思いますよ」

「……」

「ま、あなたはあいつよりちょっとは素直なんでしょうけど」

「……グラディオラス」

黙りこくった姫様の頑なさを、グラディオはかつての自分では考えられない根気強さで解いていく。

その証拠に、一の字に結んだ桃色の唇が少し緩んでいる。

「私のやるべきことは、兄様が…真の王が戻ってくるまでの間、国を守ることです。その為ならば王の真似事もしましょう。でも、時々恐ろしくなるのです。もしも、兄様が戻ってこなかったら」

「ノクトは戻ってくる、必ずな」

「何の約束もないのに」

「んなもんなくても、あなたはあの時、聞いたんでしょう。10年後に王は戻るって」




あの時、というのはノクトがクリスタルに飲み込まれた直後のときのことだ。

どこからか、男が喋るよりももっと低い、地を這うような声がソレイユの耳に届いた。

――王はこれより力を蓄えるために眠りにつく。10年の後に来るべき決戦の時に備えて――

あとからその場に居たソレイユ以外の三人に聞いても誰もそんな声を聞いてはいなかった。けれど皆当然のようにその言葉を信じ、王が戻ってくる日まで帰るべき世界を守っていた。

ノクトを除いてルシス王家唯一の生き残りであるソレイユもまた、皆の期待に応えるべく、必死になった。まずは何より、不安定であった魔法の力を自分のものにするためグラディオ達が受け持ったハンターの仕事に無理を言って同行する荒療治に出た。これにはイグニスとイリスが強く反対したが、本人の意志が固く、最後には折れるしかなかった。特にイグニスは、自分もまだ生活もままならないと言うのに彼自身もハンター仕事に同行すると言って聞かなかった(その甲斐あってか、今では日常生活では一人でいても支障がない程に暗闇の世界でうまくやっていた)。

他にも、レスタルムの内外問わず人々の慰問を精力的に行った。ある時には、防衛線の前線までやってきて供についていたイグニスの目を盗んで(変な言い方だが)衛生兵の手伝いをやってのけた。

「あの子は肝が座ってるねー。あのくらいの歳の子はシガイにやられた傷を見ると悲鳴を上げて逃げ出すもんだけどね。なんて、今はそんなこと言ってる時代じゃないか」

というのは、その時の医者の談。



あれから3年。こんなにも待ち遠しいのに、まだ3年か。そう誰もが思わざるを得なかった。

「恐ろしいのです。兄様を希望にこうして顔を上げて前を向いて生きていけている。けれど、その希望が潰えたらと思うと、私は、何を、どうやって救えるというのだろう」

「……姫様と同じぐらいのノクトが似たようなことでうじうじいイジケてたのを思い出しましたよ」

「兄様が?」

「ルナフレーナ様が亡くなって、イグニスは目をやられるわ、あなたは帝国に拐われるわ、色々参ることが重なったときですよ」

「ああ」

思い出すようにソレイユは目をつむる。遠く、懐かしいオルティシエの潮風がどこかから香ってくるような気がした。

「あいつはあいつで思うことがあったんだろうけど、その重みは王にしか背負えねえ。誰かが理解できるようなもんじゃねえ。今でもそう思う。一人でも、立ち上がって歩かなきゃいけねえ時に何してんだって、本人にもだいぶキツく…まあ色々言ったけどよ。……辛かっただろうよ」

徐々に声が小さくなっていったグラディオの言葉に、ソレイユは泣きたくなった。

兄の背負っていたもの。ぼんやりとしたモヤのようなそれが、はっきりと輪郭を持ってずしりと背中に張り付いて苦しくなった。

「泣くなよ、ソレイユ様」

釘を差すように、グラディオは言った。

「泣いたりしません。私は、ルシスの王族で、真の王の妹なのですから」

「それでいい」

静かに、頭に大きな掌が乗る。裏腹に髪を梳かすような優しい手つきで撫でられたのだから、引っ込めた涙が溢れてしまいそうになった。ぐっと、喉の奥に力を入れてこらえる。

「そうやって、あなたは女性をオトすのですね」

「泣きそうな女を見ていると優しくしてしまう性でね」

「それではみんなあなたに惚れてしまうわ」

「姫様も?」

「ぶ、無礼ですよ」

「ははっ…!これ以上やったら、イグニスに炭にされかねないんで俺の方から引かせてもらいますよ」

「イグニスは関係ないでしょう!」

離れた掌から逃げるように、膨れ面のソレイユは早足になった。

「あんまり離れないでくださいねー。どっかのメガネがうるさいんで」

「イリスに言いつけますよ」

「それは勘弁してほしいんですがね…!」

ゆっくりとした歩調が駆けてくる音が闇夜の静寂に響いた。たったった、それだけで、グラディオの大きくて長い脚はソレイユに追いついた。

「なあ、姫様。怖くなったり、寂しくなったら、隣にいる誰かのことでも考えりゃいいんだ。別に希望がノクト一人である必要はない」

少し歩いた後、ソレイユをからかっていたグラディオは一変して、昔話をしていた時のような真面目なグラディオが顔になった。

少し先には、仲間の証であるランプが灯っている。あれはきっと合図をだしたイグニスたちの班だろう。

「俺達だって同じだ。ノクトだけの為に生き残っているわけじゃない。だからといって、理由の中にノクトがないわけじゃない。……あいつだって…、自分にしか背負えないものは、自分で背負うだろうさ。でもそうじゃないものは、隣にいる俺たちに分けてくれるだろうよ」

ソレイユは自分の隣でランプに片手を気安く上げる、王の盾の横顔をみた。微笑むその顔は誇り高く、恐れなどない。

(信じ続けるために、信じるのを休んでも、いいんだろうか)

目を細めてランプの光を凝らして見る。元気に、大きく手を振るプロンプトと、軽くランプの光を揺らすイグニス、それから耐えきれずこちらへ駆けてくるイリス。

この場に足りない一人のことを、皆心の何処かに置いている。それを懸命に守るために生きてる。

(私だけではないなんて、当然のことなのに)

「自分が恥ずかしいです」

「そう思うんなら、少しでも早く笑ってほしいもんですけど…!」

グラディオの小声だが必死な主張も虚しく、鬼の形相のイリスが仁王立ちで縮こまったグラディオを睨みつけていた。

「兄さん!ソレイユに何したの!?」

「人聞きの悪いこと言うな!」

「ソレイユ、平気?兄さんに何されたの?痛いところとか、ない?」

慌ただしく頭つま先背中まで見て、肩を揺らすイリスに、ソレイユはつい笑ってしまった。

「大丈夫です。少し、励ましてもらっていただけですから」

「本当?絶対だよね!?……すごく、泣きそうな顔してたから…。心配するよ」

「うん。本当に大丈夫だから。ありがとう、イリス」

お礼の言葉はゆっくり、自分にも彼女への感謝が身体に染み込むように言った。イリスの素直さに、とても救われている。それを思い返すととても気持ちが落ち着いた。

「イリスはどうして戦おうと思いましたか?」

「え、何?どうしたの急に」

「…いいから、答えてやれ」

グラディオの真面目な顔を見て戸惑ったイリスの顔が真面目な、王の盾の一員の引き締まった顔になった。

「急に聞かれると戸惑うけど、一番の理由は、大事な人を守りたかった…っていうのかなあ」

「おいイリス、それは俺初耳「あのね、ノクトもソレイユも、同じくらい、大事なの!ふたりとも、いつの間にか前に進んでて、いつも私は置いてけぼりで、もう、私の知らないところで大事な人が居なくなっちゃうの……いやなの」

イリスの俯いた足元に、涙の跡が見えたのは、ソレイユの気のせいかもしれない。それでも

「ありがとうイリス」

(そう言わなくてはならない。私はこの子いたから私に至れたのだから)

ソレイユは歳が近いから、とイリスと引き合わされた時のことを思い返した。向日葵のように笑顔のイリスと、年上なのに兄の傍から離れない自分の姿。彼女の純真さはその時から変わっていない。それがわかっただけで、ソレイユは救われた。

「私こそ、ソレイユには感謝しかないっていうか、その、いつもありがとうね」

照れたように笑うイリス。それから、と付け加える言葉は傍で微笑むグラディオに聞こえないほどに小声で。

「素直になるなら、本当に好きな人の前でもね」

ぎゅっと握られた手の温かさ。肩の向こう側にはゆるやかにランプを揺らす、イグニスの姿。あっけなくバレてしまったけれど、これが友のなのかもしれないと思ったら、熱を持ってかゆくなる後頭部もソレイユは悪い気はしなかった。








20170727(title:シュロ/http://syuro.sakura.ne.jp/)