にくきもの

緋寄@(^q^)🍎
@Enph_hiyo12

最終章

――鏡花ちゃん、此れから僕が寝言で可笑しな事を云っていても其れは忘れて。全部寝言で戯言だって思って。


此の言葉が鏡花の耳にずっと残っていた。けれど彼はそれ程多く何か寝言を云ったわけではない。鏡花が訊いたのはだた一言だけ。「お母さん」だった。

 式部から清原の大まかの身の上話を聞いていたので彼があの状態で母親の事を想い出すのは少し考え難かった。其れでもあの時の寝言は確かに本心だった筈。

 清原の傷は探偵社に連れ帰ったあと与謝野に治療しても貰ったため完治した。しかし何故か彼はまだ目を覚まさない。何か精神的な何かで目覚める事を拒んでいるのだろうと与謝野は云っていた。


「鏡花ちゃん。大丈夫?」


医務室に敦が入って来た。鏡花に飲み物を持ってきたようで彼女は其れを少し抵抗し乍らも受け取った。


「まだ、目が覚めないんだね。清原さん」

「私のせい……」


敦も、あの場にいた太宰も国木田も、誰も鏡花を責めないが、彼女自身ずっとそう思い詰めていた。

 あの時、鏡花の意思に関係なく夜叉が動いたのは、元は彼女の異能が母親のものであったからだ。彼女に夜叉が移る前、彼女の母親は「鏡花を守りなさい」と命令した。その命令を夜叉は遂行しただけなのだ。あの時、清原のむき出しになった殺気は鏡花に向けられていた。


「あんまり、深く考えたら駄目だよ。清原さんはきっと何とも思ってないだろうし」

「それでも…っ」


彼女は下唇を噛んだ。敦は今はそっとしておこうと医務室を出て行った。


「清原さんは……私が、厭なの……?」


あの少年の異能は相手の心の闇を引き摺っている者の弱味に漬け込み操る能力。なら、自分が彼の闇に関わっているのは明白。何故なら「まず一番に闇の権化を殺すように出来てる」とあの少年が後に証言したから。

 自分は好きな人の闇。其の事実は何よりも辛かった。


「……おかしい、んだ……ずっと」


鏡花は声に反応してすぐに清原の顔を見た。目は開いていないが口が動いている。


「ころすことに、しゅうちゃくが…なかったのに……さいきんはいやなんだ……はじめてで、こわくて…ぼくがぼくじゃなくってるみたいで……にくらしい……つらい」


彼の口が歪み、じわりと瞳から涙が零れる。閉じた瞼から流れ出て止まらない。


「きみがぼくをいちどころしてくれた……だから、すこしわかった、よ」


翡翠色の瞳は、涙で潤って宝石のように輝いていた。そして弱々しい動き乍らも手が鏡花の頬へ向かう。


「あのよる、きみがぼくのてをにぎってくれたことが……ぼくのいきるもくてき……だれかにそばにいてほしかった…さびしいひびをうめるために……」


其れを認めるのが嫌だった。それは心の闇だった。あの少年は其れを異能を使って増幅させ清原を操ったのだ。


「……此れからは寂しい思いなんてさないっ」

「しつこいのは、いやだよ…?」


清原は安心したように再び目を閉じた。其れはまるで母の膝の上で泣きつかれて眠る子供のようだった。






「お世話になりました」


与謝野や福沢社長に向けて清原は頭を下げた。再び目が覚めた彼はすぐに身支度を済ませ特務課に向かうという。他にも太宰や国木田、式部にも礼を後日したいと云っていたのを鏡花は訊いた。

 「じゃあ、鏡花ちゃんが何処行きたいか訊くわ」と式部が云っていたのでそのうち彼女から何処の店が善いか訊くことになるだろう。


「そう云えばアンタ……鏡花に迫られてるって本当かい?」

「……誰から其れを?」


与謝野が清原と肩を組んで何か話始める。


「式部だけど?」

「紫織さん……」


清原は厄介な事を云われた、と溜息を付いた。与謝野は其の様子を見てほくそ笑んだ。


「まあ頑張りなよ。あの子結構積極的だからね」

「頑張りたくない……」


清原はまた溜息を付いてそそくさと探偵社から離れて行った。けれど彼は少し笑っていた。何時もより断然、自然に。







けど、こんな世界だから、無暗に死ねないよ。



END

著作者の他の作品

陽月様宅の企画、「文豪学園」の三次創作。※本編の設定から多少いじり、一部派...

橙オレンジ様宅のアーネストと清原とのうちよそ。公式キャラは出て来ません。