こちら、”handcolor社”幸せ事件簿です

柿さん@動画師(制作待機2)
@kaki_cbque_2525

ファイル1;消えたアイスの謎(後編)

 ルナは一つ深呼吸をして、ドアをノックした。数秒もたたずにどうぞと返事がかかる。失礼しますと一声かけるルナは先ほどをうって変わって真剣な表情で前を向く。


「わたしのアイスを食べたのはあなただったんですね」


ワンテンポ置いて言葉を続ける。


ハンカラ社長


ノートパソコンをそっと閉じるハンカラ社長は口を開いた。


「ルナちゃん、例え僕たちのような仲でも言っていいことと悪いことはあるよ」

「いえ、社長がわたしのアイスを食べたということを証明できる次第なので」


ルナはハンカラ社長の元へ一歩近づいた。まずは、と口を開くルナ。先ほど、かむから預かってきたMP4ファイルの動画を見せる。


「この動画、一見すると普通の動画ですが画質がいつもより落ちています。すなわちそれは、プレミアム会員用のエンコードではなくて、一般会員用のエンコードをしたことをあらわします」


ルナは違うエンコードを行った二つの動画を並べた。


「並べて見ればその違いは歴然です。そして、このエンコード。一般会員用で行えば、プレミアム会員用のエンコードより、5分も早く終わることは十分承知ですよね」


そう、画質音質をより綺麗なままで維持しながらファイルを書き出すエンコードはそれなりの時間を要するが、画質音質を犠牲にしたエンコードは手早くかつスリムに終わるのだ。


「このエンコードの終わる時間の差を利用してハンカラ社長は、冷凍庫のアイスを食べたんですね。カップアイス一つなら5分もあれば十分でしょうし……」


ハンカラ社長は苦い表情になって一言呟いた。


「でも、エンコードの時間差を見つけただけでは僕が食べたという証拠はないよ」

「それがあるんですよ、社長」


ルナはさらにもう一歩近づくと、ハンカラ社長の胸ぐらをつかんだ。


「なっ、何をするんだ!」

「ここ、アイスのシミが出来ちゃってますよ、社長」


 ネクタイに一箇所だけある不自然な歯磨き粉のようなシミ。これはアイスを食べこぼした際にできたものだろう。少しだけバニラビーンズの匂いが漂う。

 春宮が言っていたコンフェクショナリーな匂い。これはきっとネクタイについたバニラの匂いだったのだ。


「ごめん、僕が食べたよ」


ハンカラ社長はぐったりと肩を落として謝った。冷凍庫に一つだけ光り輝いていたアイスの魅力に耐えられなかったんだ!と叫ぶ社長。

 ルナは苦痛の表情で社長を見下ろす。


「わたし、わたし……すごく楽しみにしてたんです。なのに、なのに、社長がアイスを食べちゃうなんて……!」


ルナの頬を涙が伝う。涙の粒がオフィスの床に垂れる直前、ドアの開く音が社内を包んだ。


「ただいまぁ〜」


のんびりとした声で入ってきたのは保冷バックを肩にかけたじろだった。


「じ、じろちゃん……?」

「あー、ルナちゃん、おはよう〜!アイス買ってきたよ〜。はいどうぞ」


そう言ってのほほんと差し出したのは、バニラ味のハーゲンダッツのアイスクリーム。


「ルナちゃんは確かこのアイスが好きだったよね〜」


ハンカラ社長はパルム〜、と言ってじろはアイスを手渡している。


「なんで泣いてるのか気になるけど、美味しいものを食べると笑顔になるよ〜」

「うわぁん!じろちゃん大好きっ!」



この日を境に、社内の冷凍庫にはたくさんのアイスが常備され、アイスの蓋や箱にはそれぞれの名前が書かれたそう。

 めでたしめでたし



(終わり)