オレンジ

チコ@アイコン企画2/1締切
@kapikapi1414

 学校というものは本当に面倒なものだと思う。同じ歳の男女が集まり、集団生活をする。それはとても窮屈で、誰かが違った道を進もうとするのなら、それは異質なものとして認識される。

 だから、その空間の中で出来るだけ浮かないように、集団の中に入り込めるようにする。友達が多くいるように見せかける。それが大切だった。

 そう、昨日までは。昨日までの私はそうだった。



「あれ?そんな所でなにしてんの?」


 突然頭上から声が降って来た事にびっくりとして、私は目線を上げた。そこには同じクラスの及川徹が立っていて、私をまるで面白い珍獣でも見るかのような興味津々な瞳で見ていたのだから。


「別にー。休憩だよ」

「そうなんだ?何だか意外じゃない?美紗ちゃんがこんな所に一人で居るなんてさ」

「そうかな?私だって一人になりたい時だってあるよ。っていうかむしろ一人が好きだったりするし」


 そう応えれば及川徹は目を真ん丸にして、その綺麗に整った顔を少しだけ歪ませて言葉を発した。


「いつもクラスの中心に居るのに?」

「それは及川くんも一緒でしょ?いつもクラスの輪の中心に居るし、女子にもモテるしさ。うちの学校一の有名人じゃない」

「それは否定しないー」

「ちょっとは謙遜すれば?及川くんって変な人だね」

「##NAME1##ちゃんの方が変だと思うよ」


 それだけ言うと、及川徹は私の頭をぽんと優しく叩くと少し笑ったかと思うと「早く戻って来なねー」とだけ言い残して廊下を歩いて行った。


 誰も通らない旧校舎の中庭に面した窓の下。誰がが綺麗にしてくれている花壇。その季節事に変わる風景を一人見るのが好きだった。

 この場所に一人で来るようになったのはいつ頃の事だっただろうか?三年生になった頃?二年生の修学旅行前の事?いや、高校に入学してから少しした頃の事?


 何だか全てが曖昧で、毎日に現実感が無くて記憶がはっきりとしない。私はどこか欠陥のある人間なのだろうか?そんな事をふと考える。


 この場所は好きだ。いつもと違う本当の自分で居る事が出来るから。いつも笑って、友達の話しに頷いて、そして明るい自分を演じる。もちろんそんな自分自身は嫌いではないけれども、何だか別の場所から違う人物を見ているような気分になる。


 それは同じクラスの及川徹を見ていても、時折思う事で、でもそれはまったくの私の勘違いかもしれないけれども……。


 ああ、これからどうしようか?


 一人空を見上げながら考える。午後からの授業は単位の足りているもので、これといって絶対に出なければならないものでもない。受験にもあまり関係のかある教科でもない。出来れば今日はここでゆっくりとしていたいな……。真っ青な空を見ながら大きく息を吐き出した。

 その瞬間だった。遠ざかったとばかり思っていた聞き覚えのある足音がすぐ背後まで迫って来る。そして音が止まると同時にまた頭上の窓から見覚えのある顔がひょこりとでも効果音が聞こえるかのように華麗に出て来たかと思うと、笑った。


「##NAME1##ちゃん、まだここに居たんだ」

「それはこっちの台詞だよ。及川こそ何してるの?午後からの授業、もう始まってるでしょ?」


 彼は私の言葉を聞くと、窓枠を華麗に跨いだかと思うと、私の隣へと軽く降り立った。近くで、隣で見る及川はやはりバレー部の主将だけあって、背が高い。少し見上げると、綺麗に整った顔でにこりと笑う。


「何考えてんの?」

「##NAME1##ちゃんと一緒にサボり」

「私はサボろうか考えていた所なんだけれど、一緒にしないで欲しいんだけれど……」

「まあまあ、そんなに連れない事言わない!」


 及川は私の呆れたような顔をまったく気にせずにいつもと同じように笑顔を作ると、私の隣へと座り込んだ。そして目を一回瞑ると、大きく息を吸い込む。


「良い場所知ってたんだね。ここって気持ちいい」

「そう、気持ちいいの。誰も居ないし、ここにある花壇だって勝手に使っていいんだよ」


 何だか及川が嬉しい事を言うから思わず饒舌になる。いつもは教室で当たり障りのない台詞を並べて、友達の話しに相討ちを打って、本当は自分は一人が好きだとか、こうして空を眺めたり、植物の世話をするのが好きとかって言えなかった。きっと言ってしまえばイメージと違うと言われるろうし、何よりも「##NAME1##っておばあちゃんみたい……」なんて言われてしまうと思ったから。


 と、一つ言わせてもらおう。「おばあちゃんみたいって」私とっては誉め言葉だからね。私はおばあちゃんととても仲良しで、小さな頃はずっと一緒に過ごした。共働きの両親よりもおばあちゃんの方が私の事をよく知っている。

 けれども、彼女達の言う「おばあちゃんみたい」は誉め言葉なんかじゃないことを知っている。だから知られたくないし、言いたくないのだ。


「どうしたの?いきなり考え込んでさ」

「ご、ごめん。及川があまりにも意外な事言うからさ、何だか色々と頭の中でいろんな考えが回ってた」

「そっかー」


 及川はそれだけ言うと口を閉じた。そして校舎の壁に背中を着けると目を閉じている。寝ているのかな?いや、起きてる?よね?


 綺麗な及川の顔。この顔に騙されて付き合いたいと思う子が沢山いるのだ。まあ、それは主に下級生だったり、他の学校の子だったりするのだけれど……。三年間一緒にいると、少しだけ残念な所が見えて来るしね。


 でも、やっぱり綺麗だ。光に透ける茶色の髪の毛。長い手足。まつげの長い大きいとはいえないけれども、男の子としては十分魅力的な目元。肌だって館内でのスポーツだからどちらかというと白くて綺麗。思わずその頬に触れたくなる。


 そっと手を無意識のうちに近づけた瞬間だった。寝ていたとばかり思っていた及川の片方の目がうっすらと開いて私と目があった。


「なにしてんのかな?##NAME1##ちゃん。寝込みを襲うつもりだった?」

「そ、そんなワケないでしょ?!」

「そっか、残念。俺は美紗ちゃんに教われてもよかったけれどね」


 及川はそういって笑うと、また目を瞑った。