ずぅっと、ずっと 第3章(最終章)

ゆ៎き៎こ
@yuki178115

第29話(主 結崎美紗)

目を開ければ1人で、閉じれば怖い夢が私を襲う。

どうせなら死んでしまいたいと何度思ったことか。

「ん……。」

太陽の香りがする。

気持ちよくて、ほわほわ。

ああこれは、干したての布団の香りだ。

いつもみたいな薬品の香りとは違ってとても落ち着くもの。

ここは、どこ……?

「主?」

恐る恐る目を開けると、人影が私の視界を覆っていた。

この髪の毛、この瞳、宗三さんだ。

「ぁ…。」

「大丈夫ですよ。無理に話さないでください。」

確か薬研さんを追いかけて必死になって雪道を歩いて、それで。

「やげん、さん、どこ……。」

でも、薬研さんはどんどん遠くに行っちゃって、もう追いつけなくて。

「今は席を外していますが、本丸にはいますよ。」


転んで、倒れて、動けなくなった。

置いていかれた。

1人になった。


涙と嗚咽が言葉の代わりに溢れ出る。

どうすることも出来なくて、手で顔を覆った。

「どうしました?」

寂しいのは嫌なのに、何故かこの感情は消えてはくれない。

心にぽっかり空いた穴が冷たい風を運んでくる。

苦しい。

逃げたい。

生きていたくない。

「主!!」

宗三さんの大声にそっと手を顔からどける。

宗三さんは、心配したように私のことを覗いていた。

「泣くことないでしょう。薬研はいなくなりません。絶対に戻ってきますから。」

嘘つき。

絶対なんて存在しない。

約束は守られないものだから……。

「何故そんなにも辛そうなのですか。」

私の頭を撫でるその手は、細くて頼りないはずなのに、とても暖かかった。

「薬研に会いたいですか?」

その問に必死に首を縦に動かすと、呆れたように笑ってから手を差し伸べてくれる。

「掴まってください。」

軽く差し出された手を握ると、想像以上に大きな力で体を引っ張られた。

抱き上げられ、視界が高くなる。

「本当は向こうを連れてくるほうがいいと思うのですが、貴方を1人にする訳にはいかないので少し我慢してください。」

ああ、優しさ、か。

「……わかりました。」

宗三さんの肩に顔を埋めて小さくそう言った。

ほんの少し顔が熱くなる。

嬉しいってこんな感じなのかな。

そのままそっと目をつぶって宗三さんにしがみつく。

宗三さん、本当に細いよね。

なんで私のこと持ち上げられるんだろうって不思議になるくらいに。

「薬研!入りますよ。」

引き戸の開く音。

宗三さんがしゃがんで、私を膝に座らせてくれる。

薬品の匂いに眉間にシワを寄せると、そこにいた薬研さんが可笑しそうに笑った。

「大丈夫か?大将。」

「は、い……。」

ああ、薬研さんだ。

追いつけたのか、な。

「ほら、いたでしょう?」

宗三さんのその言葉に、私はギュッと手を握って頷いた。

「はいっ!」

薬研さんが膝をついて私の顔をじっと見つめてくる。

あれ、今日はメガネなんだ。

それに白衣まで着てる。

「熱はまだ下がってなさそうだな。」

コツンと額を合わせてから、薬研さんはニッと笑った。

「解熱剤飲むか?」

「あっ……、でも、病院の、先生、ダメって……。」

「俺の作った解熱剤は、大将の体と薬に合うようにしっかり調節してる。相性はバッチリだし、すぐに飲めるぞ。用意するから少し待ってろ。」

頷くと、また笑ってから立ち上がり、混沌とした部屋を漁り始める。

宗三さんの方を見上げると、ふわっとした表情で目を合わせてくれた。

落ち着く。

人の膝の上って、ホッとして、それで……。

下を向いて体を小さくする。

もしここから離れなければ行けなくなったらどうしようって、何よりそれが大きかった。

温かさを知ったら、冷たさが際立つ。

私は何故かそれを知っている。

渡された薬を飲んで、しばらく薬研さんの部屋でくつろいだ。

2人がご飯食べてるところを眺めたり、思い出を聞いたり。

その後部屋に戻って、薬研さんと宗三さんの2人に挟まれる形で眠ることになった。

夜だ。

暗くて、しずかで、眠らなければならない時間。

「大将、寒くないか?」

「平気です。」

薬のおかげで熱は下がり、体は随分と軽くなった。

部屋も布団も温めてくれていたし、2人ともそばにいるからとても暖かい。けれど…

「おやすみ、大将。」

「おやすみなさい。」

月明かりも星明りもない今日。

ロウソクを消すともう真っ暗で。

目の前に手をかざしても見えないから、無論2人の姿なんて捉えることはできなかった。

遠い。

すぐ近くで眠っているはずなのに、姿も体温も見つけられない。

声をかけたり、触ったりしたら目を覚ましちゃうよね。

がまん、しなきゃ。

嫌だ、今までずっと1人で寝てきたじゃないか。

なんでこんなに寂しいの。

なんでこんなに冷たいの。

「寒い……。」

小さく呟いてから布団の中で丸まった。

体の震えがどうも止まらない。

結局その夜は眠れずに過ごしたのだった。

著作者の他の作品

二人の最期がこうであってほしい。今剣を中心とした、会話だけの物語。

ずぅっと、ずっとの第二章です。ややこしくなりそうなので新しく作りました。...