▼フコウ㍗きごう△/ 番外

かめわらじ
@tatamiwaraji

番外一方幼少編 2、「孤独で小さな白雪姫と、忘却のキミ。」

■□■□②


 二週間くらいしてから少年は少女に逢いに行った。

 それはもう、勇気をかなり振り絞って───。

 でも、会いに行った少年は……───


 逃げるようにその病室を飛び出した。


※※※※


 少年の保留状態は相変わらず持続中で、瞳の明るい女性が働く研究施設の寮でたびたび一緒に食事をし始めてから二ヶ月が経過した。

 女性の言い付けで今晩の御飯の買い出しに出掛けたある日、キミドリ色のランドセルを背負って歩くあの少女『カミジョーとうま』を見かけた。

 正直驚いた。あれだけ酷く捻れた足だったのに、元怪我人の片鱗すらなく───普通に歩いていた。そして、目の前まで来たのに、少女はこちらを見向きもすることなく擦れ違った。


 少年の外見は決して、普通とは違い目につく。

 だが、少女はそれすらなく通りすぎた。

 まるで、知らない通行人の一人のように。


 少年はこの2ヶ月間少女の姿がちらつき、少女の声が聞きたくて無意識に探していた。

 捜してもしょうがないのに……と『分かって』いながら。

 『分かっていても』つい、その後ろに手を伸ばしても、少女は『やはり』振り返りもしなかった。


 あの時の研修医に友達の作り方のアドバイスを少しだけでも耳を傾けておけば良かったと後悔した途端、何故か視界が、ぼやけた。


□■□■


 いつもなら明るい瞳の女性が背を向けて作る料理の後ろ姿を眺めるのがそれとなく好きなのに───今日はそれすらも上の空。それに、今の食事も心にあらずで、盛られたご飯を機械的に口に運ぶのみだった。

 その様子を見た彼女はもぐもぐと箸を進めながら、


「───で、どうしたの」


 先程の話題のついでと何気なく聞かれ、は? と顔を上げると、


「ここのところ、随分上の空だから何かあったのかと思ってね。どうかしたの?」

「………別に」

「このツネさんとの食事、つまらないかね」

「………そうじゃ、ねーよ」


 ふーんと相槌打ちつつ、


「もしかして、失恋?」


 突拍子もないことを口にした。


「はァ?!」

「だって、凄く傷ついた顔、してからね」

「して、ねェよ」

「えー、そうじゃなきゃツネさんがいるのにそんな顔しないはずなのに……うむ、じゃああれかね。例の女の子とケンカでもしたの? あれから一切話題に上がらないし」

「話題にする話でもねェだろ……」

「そうかなー」


 子どもみたいに目は輝かせて、やっぱり失恋なの?! と無遠慮にグイグイ的外れたことをしつこく聞いてくる。

 人の気も知らねェで面白がりやがって! と睨むと、それこそ彼女は、「やっぱり図星なんじゃないっ」と手を叩いてもっと面白がった。

 クソッと遊ばれている感じがしてイラつく少年に、彼女はふと真面目な顔をして、


「君さ、ケンカしたまんまでいいと思う?」


 ケンカしてはいないのだが、当て外れた失恋から離れるならと少年はそれに乗っかった。


「…………あっちが相手すらしねェのにどうにも出来ねェだろ」

「それってさ、『言い訳』だよね?」

「あァ?!」

「その子に対してどうにも出来ないなら、その子を相手にしなきゃいいじゃない」

「意味わかんねェよ。『ケンカ』は当人同士の問題なのに相手がいなかったらただの一人相撲だろ」

「君が一人相撲をしてるんじゃないの? 何あったか知らないけどさ、彼女は君の事一切合切相手にしてないんでしょ? なら完璧君の一人相撲じゃない」

「!!」

「その一人相撲のケンカの極意にいいこと教えてあげる。」

「ひ、一人相撲ケンカじゃっ!」

「ケンカの相手が欲しけりゃ観戦客巻き込め」

「は?」

「一人でずっと相撲とってる馬鹿馬鹿しくない? ずっといもしない相手を想像して睨めっこするの。もう、想像しただけで馬鹿丸出しだよね。……ぶはっ! やば、ツネさんツボにはまったっ! うはっ、うはっはっはっはっはっはっ!!」


 腹を抱えて大笑いした。足をバタつかせるから椅子がガタガタと揺れ動いた。

 少年は一人で悩んでいたのに大人な彼女に大笑いされて、涙目になって怒りに頭が真っ白になった。


「このっ、人の気も知らねェでズケズケと! 恩人か知らねぇけど流石のアンタでも、そこまで虚仮こけにされるいわれはねーェぞっっ!!」

「はーい、もう私巻き込まれたー」

「は?」

「ツネさん観客だったけど、君に巻き込まれちゃったから、仕方ない。そのケンカ買ってあげましょう!」


 コイツ、何言ってんだ? と胡乱げな目で見ると、彼女はそんな視線すら眼中になく、折り畳まれたメモ用紙を少年の前にスッと出してテーブルに置いた。


「はい、これ」


 なンだよとイヤイヤ開くと、彼女が入院している病院名と通院する日が書かれていた。


「手術してから二ヶ月くらい経過してんでしょ。通院してるならその子の『親』が定期的に来てるだろうし。まだ子どもでしかも治りかけなら特にねー。あぁ、君と同じくらいに目が離せないこと」

「あ、アンタ……」

「『ケンカ』はね一人でやったってつまんないからね。早くケンカ出来る相手ちゃんと掴んでおけ。ツネさん、君のしけた顔を見ながらご飯食べたくないから」


 それまでツネさんとの食事会なし。とそう突き放すと、食べ終えた少年の食器を回収し流しに置いた。

 スポンジに洗剤をつけながら、鼻歌を歌って。

 まるで、少年のこれからを映画でも鑑賞する客のように。


■□■□


 彼女が書き記した日付に、あの病院に足を運んだ。

 恐々彼らが居そうな階の待合室に顔を覗かせると、


「父さんなんかハゲちまえっ!」


 子どもの甲高い罵声が響いた。

 そちらへ目を向けると、二、三歳の幼児が父親らしき男性に口をへの字にしてツンケンしていた。

 父親は幼児の両肩を押さえながら罵声に微かに涙目になりつつ、叱る続行。


「なぎっ! どうして父さんを悲しませる言葉しか言わないんだッ」

「おねちゃんと一緒に暮らしたいのに却下したの父さんのくせにっ! このクソ親父!」

「こらっ、親に向かってクソ親父はないだろっ」

「あぁ?! 何処の知らないお姉さんに鼻の下伸ばしながら道案内してたじゃんっ」

「な、なぎっ! なんて不名誉なことを被せるんだッ! か、母さんに聞かれたら厄介事だから絶対に口にするんじゃないぞっ」

「じゃあ、俺の小さな頼み聞いてくれる?」

「おぉ、なんだ。お菓子たくさん買っては流石に駄目だぞ。虫歯になるからな」

「おねちゃんと学園都市で暮らしたい」

「その頼みは小さくないぞなぎっ! だから、何度もダメだと言ってるだろ。聞き分けがない子だな」

「じゃあ母さんに言う」

「止めてくれなぎっ! どうしたら父さんを困らせないでくれるんだ」

「おねちゃんと暮らさせてくれるなら困らせないよ」

「やりくちがどんどん巧妙になっていく!」


 叱っているのではなく丸め込まれている。

 しかもそのループが続く。終わりが見えなさそうでその場をそっと離れた。


 ………確かに居た。あの父親は知っている。

 名は『上条刀夜とうや』だ。

 久々に見たが、まだまだ自分の子に手を焼かされているのは舐められているからか、甘やかしたからか。

 多分、後者で前者は甘やかしたのが原因だろう。

 それにしてもニ、三歳だろうか、口が達者なのだが、とても口が悪い幼児だった。

 顔は何となく少女に似ているのは、兄弟か姉妹か分からないが血の繋がりある家族なんだろう。すると、あの生意気幼児が『上条凪』。

 確か『ナギはとてもかわいい子』とあの少女は言っていたがどうしても生意気にしか見えない。

 なんせ、父親に向かって『ハゲろ』、『クソ親父っ』だ。あれだけ口が達者だとある意味で将来有望だろう。

 しかし、曖昧にしか話していないというのにここまで特定するなんて───


「アイツ……調べたのか?」


 あんな顔して研究者だしな……。

 と少年はひとりごちる。

 どうも……研究者には見えなくて油断してしまうのだが、彼女はあれで相当な腕前だと聞く。

 だからこそ、『置き去りチャイルドエラー』問題に取り組む、財源があるんだろうが。


「あら、あらあらっ!」


 ビクッと身体をびくつかせる。


「あなたはあの時の、『当麻』さんの見舞いに来てくれた可愛い子っ!」


 目の前の若い女性は、二児の母『上条詩菜しいな』だ。

 対面はニ度目だが、どうみても………見た目が若すぎる。まだ二十代に差し掛かったような感じだが……。

 あの父親は、犯罪に手を染めて少女を生ませたのだろうか?

 だとしたら、年齢が可笑しくなるので深く考えるのをやめにした。

 それにしても───


「えっと………」


 どう言えばよいものか。言いあぐねていると、女研究者の『先日はどうも。とかでいいのよ』がよぎった。

 なので、少年はその女研究者の言葉にありがたく乗っかることにした。


「先日は……どうも」

「ふふっ、こちらこそ。じゃあ、これをようやく返せるわね」

 はいと手渡されたのは、二ヶ月前に少女に貸したハンカチだ。

 母親が持っていると言うことは───僅かな期待をしてしまうが、最近の彼女のあの様子では流石に無い。と落ち込む。


「これは、あの時当麻を助けくれた子だね」

「あれ……だれ?」


 少年を歓迎する口振りの父親と、胡乱げな目をする幼児。

 両親はこうして覚えているのに、どうして少女は覚えてないのだろうか…。


「少し、話そう。母さん、すまないが凪を頼む」

「えぇ……分かりました。ほら、凪さんは私と一緒に当麻さんを待ちましょうね」

「むー……おねちゃん、早く終わんないかなー。そしたらね、おねちゃんにこの本読んでもらうのー」


 可愛いわねぇ凪さんと幼児の頬を突っつきながら、長椅子に腰かける。

 その間、少年は少女の父親につられて、母と幼児の楽しげな会話を背にしながらその場を後にした。


■□■□


 病院の中庭───ベンチにて。


 はい。と、少女の父親が買ってきたココアを渡された。

 ペコリと小さく頭を下げつつ、おずおずと受け取る。

 少女の父親は彼の隣に座り、あんことベークチーズの良くわからないチョイスの缶のプルタブを上げてゴクっと一口。

 やっぱり、微妙に口どけ悪そうな顔をしていた。どうしてそんなモノを選んだのだろう。

 少女の父親は顔をしかめながら、切り出した。


「あの時話そうと思っていたんだが、タイミングが悪かったね…。君にすまないことをした。せっかく当麻とトモダチになってくれたのに」

「………あの、どうして……彼女は……俺の事、」

「娘が君の事を覚えていなかったのは、『事故による後遺症』が原因なんだ」

「事故?」


 事故と言えば、少女のあの脚。

 でも何故、それが覚えていないに繋がる?


『君、───誰?』


 あの時と一転して、ベッドに横たわるあの少女の向ける目に親しみは何もなかった。

 なら、『後遺症』というのは、もしかして───脳の機能が?


「原因は───負った脚の、事故。首も痛めて、出血も酷く脚もあの状態。───そして、身体の後遺症だけではなかった。身に余る程の出来事で強い精神的なショックを受けてね。その事故以降『一定以上の不運な出来事は、前後を含めたその期間の記憶から全て抜け落ちてしまう』ようになってしまった」

「抜け、落ちる……」


 また、何か事故以上なことがあった……と言うのだろうか。

 それだから、少年の事は───忘却されて、しまった?

 少女の父親は、そのあった事は何も言わない。

 何も言わずに、続ける。


「あれは防衛の一種、なんだそうだ。心を守るためにね。心がダメになったら、人は人でなくなってしまうそうだから」


 少女は何故か、『迷信』を口にしていた。あの時はなんで学園都市の人間にそんな事を聞いてきたのか分からなかったが、今なら分かる。

 きっと、『外』での『迷信』で何かあったから──学園都市の人間に聞いたんだ。

 『迷信』なんてものは、学園都市になんか存在自体無縁であると。


「今は治療中でね。そこも少しずつ良くなってきているから、確実に、忘れていく事も少なくなるだろう」

「……。」


 少女の父親はすまなそうな顔をしながら、


「無理にとは言わないが、また会った時のように───うちの娘とトモダチになってくれるかい?」


 頼まれた。

 予想外に思わずは顔を上げて、少女の父親をみる。

 そこには、あの時と同様に柔らかい笑みを浮かべていた。


「あの子はあの日、本当に君とトモダチになれたことを嬉しそうに喋り通していた。『嬉しかった』という言葉は決して嘘ではない。───あの子はそんな大事な事に嘘を言う子ではないから」


※※※※


 あれから、更に一ヶ月と何週間後───少年がいつもの日課にあの少女が出逢った公園に足を運ぶと……


「また穴に引っ掛かったー!! 本日これで二回目だぞっ! 絶対誰か仕組んでるんだぁー!」


 少年が聞きたかった、声が聞こえた。

 それも、また何故か深く掘られた穴だ。どうして落とし穴があるか分からないが、また例のごとく引っかかったらしい。

 しかも二回も。


 そして、その穴から「カミジョーさん、不幸だぁぁぁあ!!」と泣き叫ぶ声が聞こえる。

 少年は小さく息をついて、笑った。


 また───ここから、始めればいい。

 それだけの話なんだから。


 そして、少年は同じようにして穴へ覗くと声を掛けた。


「今時、こンなチンケな穴に引っ掛かるなンざ、逆に曲芸だぞ」

「うるさいっ! カミジョーだってね、好きで引っかかってる訳じゃないやい! もう、風物詩なんだいっ……って、人?!」


 彼女はあの猫みたいな大きな目を、大きくして───


「そこの通りがかりの救世主! このカミジョーを助けてぇぇぇぇぇえ!!」


 涙声で少年に助けを求めるのだった。

 その行為がニ度目であるとは、微塵も覚えてはいない。

2017/06/17


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