▼フコウ㍗きごう△/ 番外

かめわらじ
@tatamiwaraji

番外一方幼少編 2、「孤独で小さな白雪姫と、忘却のキミ。」

 とある最先端の科学を誇り人口の八割が超能力の学生で占める一大勢力都市───学園都市。

 その都市に存在する『超能力者レベル5』の頂点に君臨する少年がいた。

 少年はその地位をガムシャラまでに登り詰めた。

 誰にも勝らない最強な能力と持ち前の頭の回転の良さもあいまって、その地位に登り詰めるのもそう時間はかからなかった。

 かからなかったが……少年には物足りなかった。


 『最強』じゃ、足りなかった。


 『最強』じゃあ、駄目だった。


 『最強』じゃあまだ、『最強止まり』だった。


 止まりだから、少年は『上』を目指した。


 『絶対うえ』を。


 足りないから、更に、更に、更に、その『無敵うえ』を目指した。


 『超能力者レベル5』より『無敵うえ』の『絶対能力レベル6』へ。

 その上へあがる段階に少年は更に日に日に精神を削りながら、手を紅く赤く紅く染めていった。


 何故自分を追い込んでまで登り続けるのか。

 それにはそれをやってのけるモノが少年の芯になっていたから。

 揺るがない信念。

 不思議な力の右手を持つ少女を、自分の手でなんとしても守る。と、心に深く刻んだ誓い。


 少女そのものが少年の生きる糧だった。

 少女そのものが少年の希望じんせいだった。


 だけど、その大切な少女はある銀髪シスターを助けて記憶を失った。


 少女は『死んで』しまった。

 記憶だけ、死んでしまった。


 けど、少女は少年と最初に会った記憶がないことは、

 この少年は───誰よりも、彼女よりも知っていた。


※※※※


 初めてその少女と出逢ったのは、少年がある明るい瞳を持つ女性に手を伸ばされた温かさにどうすればいいかと戸惑っていた頃だ。

 少年には名字が二文字、名前が三文字あり、何処にでもありふれた名前で日本人らしかったそうだ。

 少年の外見は白髪赤瞳に透ける程白い肌。その外見とまだ発現して間もない未知数の能力から同年代の子達に遠ざけられていた。

 その少年が通っていた学校では口では言えない実験を行っていたようで、突如現れた瞳が明るい女性が買取りその流れで子ども達全て保護される。

 その経緯で─── 一時的に寮に居たのだが、同じくらいの境遇の子からやはり敬遠され、虐めにあっていた。

 それ故、見かねた女性が少年だけを知り合いの『病院』に一時的に移させた。

 検査も兼ねるから丁度いいだろう、と。

 他の子達は次々と引き取り手や、学校の推薦枠で色々と手引きして数を減らしていたのだが、彼だけは誰も扱いにくいらしく───今後どうしようかと他の研究員と会議しているようで保留中。

 少年は転々と身を移している為に今は学校には通っていない。学友はいるとしても、この特異な外見で敬遠されているのでトモダチすらいなかった。

 なので、少年は数日病院の個室に引きこもっていた。

 そんな少年の様子に今後の精神と身体の健康面が心配になった研修中の医者(まだ少女)が居た。

 少年は研修中の医師に、五分でもいいから散歩してきたら? と『強制すすめ』られた。

 勿論少年は嫌がったが、その研修医師(まだ少女)は許さない。

 初めて視線だけで射殺さん眼光を受け、この研修医師に逆らうのは止めた方がいい。と本能で危険を感知し、涙目になりながら結局従った。

 後に、明るい瞳を持つ女性と知り合いで彼女の計らいだったと知ることになるが───まだ先の話だ。

 少年は最初嫌々散歩をし、自分では二日しか持たないだろうと思っていたが、意外に持続。

 前より自分から活気ある場所に良く足を止めて眺めるようになったのだ。あれだけ病院内で人気が多いところを避けていた子が。

 散歩時間も、一時間と長い時もあれば十分と短時間とまちまちとしていったが、それでも毎日散歩に行っていた。

 小さな事ではあったが、気づかない本人にしてみればそれはそれで大きな進歩だった。

 そんなある日のこと。

 人気ひとけから離れた公園を通りかかると、


「うぇぇぇぇえん! ハマった、ハマったぁぁぁあ!!! 誰だよぉ、こんな所に古典的な落とし穴仕掛けたのー!!! というか、なんで穴?! しかも、本格的に深い穴っ! 一体何を捕まえるつもりだったんだよぉ! イノシシいるのかっ、イノシシを捕まえて鍋にでもしたかったのかっ! 学園都市は科学の最先端なのにイノシシいるのかよーっ」


 と悲痛そうに叫ぶ子どもの声が。

 困っているのは確実なのだろうが、叫んでいる内容がどうにもずれているので悲壮感が感じられない。

 しかし、子どもの流石にこんな場面はなかったのでどうしようかと思案していたところ、


「何が学園都市だ! 何が科学の最先端だっ! 何が古典的に古いことも迷信なんて一切信じてなくて乗り物は空を飛んでいるだよ! 父さんの嘘つきー!! ここの住人なんか普通に地面歩いているし、普通に車で渋滞しているし! 外と変わりないよ!! えぇぇぇぇぇん、可愛いナギナギに何日も逢ってないのにー!!」

 みぎゃぁぁぁぁあ!!!


 あまりにも身の上を悲痛そうに説明しながら泣き叫ぶので、逡巡してからその穴まで駆け寄る。

 すれば、本当に大分深い穴だった。

 一体何を罠に嵌めようとしたんだと思う程の深さ。イノシシは知らないが、これを掘って仕掛けたやつは相当性格がこじれているだろう。

 可哀想になってその落とし穴へ頭を突っ込んで覗き見ると、大きな目は涙と鼻水でぐしゃぐしゃの女の子。

 すんっと鼻をすすってから、少年と目が合うと───


「だじゅげでぇ゛ぇ゛ぇ゛ー」


 随分な涙声でSOSを求められた。


■□■□


 なんとかして引っ張り上げると、随分と髪が長い女の子。

 黒髪で瞳も当然ながら黒い。

 自分とはやっぱり違うから、助けたとしても嫌悪されるかも知れない。


「ありがとー、命の恩人」


 少年のその特異な外見なんて気にもとめない様子で、その子はお礼を言った。

 初めて誰かに、ありがとうと心からお礼を言って貰えた。

 にっこりと親しげにしてくれて、少年は照れながら戸惑いつつ、別に…とだけ口にする。

 少年が通っていた学校では、友達の作り方を誰にも教えて貰えず、どう対応したらいいかわからなかったのだ。

 簡単な声の掛け方までわからない少年には、他の子どもとの友達の築き方なんて絶壁。

 友の築き方が絶壁の少年は、次はどうすればいいんだろうと悩んだ横で───


「うわぁぁぁん!」


 また悲鳴を上げる少女。

 なんだと目を向けると、一匹の犬が何かを口にくわえていた。

 それを指差しながら少女は喚く。


「カミジョーの松葉杖ー!!」


 そう、あれは『外』よりも二○年も三〇年先に発達した科学都市に不似合いなまでの木の松葉杖だった。

 どうやらあれは彼女の持ち物であるらしい。

 だとすると少女は───彼女の足元に目がいった途端、ギョッする。

 傍目はためから見てもわかるほど酷く捻れた片足。

 少年が片足に視線が釘付けになっていると、少女は何とかして立ち上がり、


「待ってぇ! それがないとカミジョー歩けないのー!!」


 と追いかけようと足を走らせようとして───顔面からスッ転んだ。

 そして松葉杖は犬に持っていかれた。

 固まる少女カミジョーは、手を伸ばしたままミルミルうちに涙目になり、


「うわぁぁぁぁああああん! 不幸だぁぁぁあ!!!」


 と倒れたまま大泣きした。


■□■□


 えぐえぐと顔を砂だらけにして泣くカミジョーに、少年は「ほら」とハンカチを差し出す。

 彼女はおずおずと受け取りつつ、


「君、優しいね……」

「そんな事、ねェよ……」


 少年は戸惑いながら、手を差し出す。

 何? とキョトンとする少女に、


「立てねェだろ」


 彼にとってその行為は当たり前であったが、彼女は何故か目を丸くした。

 うん? と訝しむ少年だったが、


「う、うん」


 と嬉しそうな笑顔で頷かれて手を取った。

 あの瞳が明るい女性の次に自分に向けられた同年代にしては初めて笑顔だったので固まりかけつつ、立ち上がらせるのを手伝った。

 彼の目立つ外見にやっぱり目もくれずに、「本当に、ありがとう」とまた礼を言われる。

 どうすればいいのか分かんなくて、黙ってそのまま肩を貸し、ベンチまで座らせた。


「おんなじくらいの子にこんなに優しくされたの、いつ振りかな…」


 少年はその言葉に驚く。

 優しくされないなんて、まるで、───少年のようではないか。

 でも、ツッケン態度の少年と違ってちゃんとお礼を口にできる少女は、人とのコミュニケーションがあるようにが……。

 しかし、少女は唐突に少年に向かってこんな事を問いかけた。


「君、『迷信』とか信じる?」


 意味をあぐねて首を傾げると、


「そーだね……『黒猫を見たらよくないことが起きる』とか『夜に口笛を吹くと蛇が来る』とかかな」

「ンな非科学的なのある訳ねぇだろ。つか、言ってる意味わかんねェ」

「あははっ。だよねー。本当にここじゃそんなんだねー。うわーい、流石科学最先端都市」


 何故か嬉しげに万歳しだした。

 でも、大体その様子を見て───少女の言動に納得した。


「……さっきから言動変だけど、オマエ『外』の人間か?」

「あー、やっぱりカミジョーの発言浮いてた?」


 それ以外でも浮いているのだが、少年は躊躇い口をするのははばかり、


「…かなり」


 だけに、した。


「やっぱり田舎者臭は押さえきれませんかー。うむ、学園都市の都会人には敵いませんなー」

「オマエ、ここに来たのはその脚、治すためか」

「うん、『外』じゃダメだからここに来たの。ここなら治してくれるんだって! 後何日かしたら手術するのっ! あ、でも……失敗したら……」


 少女は失敗した時を想像したのか、直ぐに悲痛に変わる。

 微かに涙目になったのは『外』の水準が低い医療でそんな脚にされたからだろうか。


「そんな脚にするくらいの『外』と違って失敗する確率は断然低いだろ」

「そんなに『外』とこっちの医療って水準違うの?」

「駆け離れている」


 ほげーと変な相槌を打ちながら、「凄いね、学園都市!」と瞳をキラやかせる。

 その年相応な純粋の笑顔に、少年は顔を赤くした。


「で…でも、『手術』受けに来ただけじゃねェよな」


 それだけじゃ、この学園都市には入れない。

 ここは子どもを超能力に開発する都市だ。

 少女は見たところお金持ちという訳ではなさそうだろうから、ここに編入して来たのが妥当と見た方がいいだろう。


「そうだよ。その為に学園都市に入って、手続き済ませた。入る前の色々の手続きが面倒くさかったって父さんも母さんもげんなりしてたもん」

「ふーん。学校は?」

「まだだよ。だって歩けるようになんなきゃ意味ないじゃん。それでカミジョーの調子を見てから決めるんだって」

「……へェ」


 なら、今少女は少年と同じなのだ。

 何処の病院で入院しているのか気になって───少年は違和感に、動きを止める。


(なンで俺、コイツの通う学校気になったンだろ?)


「君いい人だから、学校に行くなら君と一緒だったらいいな」

「え?」

「だって、学園都市に来たばかりで友達いないし。顔見知りがいた方が落ち着く」


 ねっ! と少女は少年に笑いかける。

 そこに同年代が浮かぶ侮蔑や、嫌悪はない。

 少年は誰かに対等に扱われて───どうすればいいかわらなくて固まった。

 だって、誰かに『一緒に居たい』なんて言われたことがないからだ。

 そんな少年の様子などお構いなしに、


「ねぇ、何処の学校に通っているの? 教えてくれたらカミジョー、父さんにそこにしたいって頼むから。え、やっぱりカミジョーみたいなヤツと一緒はイヤ? なら、組は別にして貰うよ! それならどう? あー、でも君が嫌なら近場の学校いいかもね。放課後会って遊ぼうよっ! 買い食いとかしたいねー。楽しそっ」


 勝手に話を組み上げて、既に放課後はどんなことして遊ぼうかと膨らませて楽しそうにしていた。

 少年はそんな普通である事前提で接する少女に、やっぱり戸惑って何も言えなかった。


 なのに、少女は随分と楽しそうにして───少年の胸があったかくなる。

 少女を通しての、学校生活に憧れを抱いた。

 この少女なら、そんな生活も夢ではないかと。


「なァ……」

「ん?」

「オマエ、名前は?」

「え、カミジョーだよ」

「いや、苗字じゃなくて下の」

「あぁ、名前ね。カミジョーはね、カミジョー「とうまぁぁぁぁあ!! 何処にいるんだとうまぁぁぁあ!! もし居るなら返事をしなさぁいっ」


 そこで激しく誰かの名前を呼ぶ男の声が割り込んだ。

 とうまとは誰なのか知らないが、少年がその男性にイラッとしたのは事実だ。

 何処のガキが居なくなったんだ? そそっかしいなら、ちゃんと見ておけよ。と内心邪魔をされた不満を溢すと、


「あれ、……父さんだっ!」


 嬉しそうに言う少女。どうやら、少女の父親らしい。

 そうか、……そのガキはこれだったのか。足が悪いのに、…よく動き回れたもんだ。


「父さーん、カミジョーここだよー!!」


 その声に、一人の汗だくの男性がこちらへ必死に走ってきた。

 少女と少年が座るベンチ前までがはがはっと死にかけた息をして走り止まる。

 少女の父親は、精悍で理知的な面持ちをしていて、何処と無く少女に似ている。

 今は髪が乱れ、汗がダラダラだ。

 だったが、少女を見つけて安堵な笑みを浮かべて───何か無い事に気付いて、少し焦った表情になる。


「とうまっ! ……松葉杖はどうしたんだ……?」

「犬に持ってかれた」

「なんだと?! あれ、あんなアンティーク過ぎる見た目に反して高いのにっ!!」


 やっぱり、『外』でもあれは流石に古典分野で、顔が蒼白になっているのはあれで相当な金額らしいが───当の彼女はにこにこしているだけでその事は分からないようだ。

 父親も彼女の様子に力を抜き、


「まぁ……後で捜しに行くか……。でも、とうまに怪我がなくて良かったなぁ」


 よしよし。と怒ることなく少女の頭を撫でる。

 目に入れても痛くない育て方をしているらしい。

 なんだか、少年は眩しいものをみている気分になった。


「これうちの父さんね。父さんこの子がそこの落とし穴から出して助けてくれたの」

「え?! あんなとこに落ちていたのか!」


 まさか、獣もハマったら出て来られないような落とし穴に自分の娘が落ちていたとは思いもするまい。

 むしろ、学園都市で今時あんな古典的な穴がある方が違和感しかない。


「あぁ、うちの子を助けてくれたのは君か。どうもありがとうね」


 またありがとうと礼を言われる。

 その年代の男性から少年は一度も言われたことがなくて、戸惑う態度を見せるだけ。


「とうま、もう戻らないとダメだ。手術が控えているんだから」

「そうだー。検査もしなきゃいけなかったんだよねー。もう戻らないと」

 もっと、見物したかったのにーと少女は頬を膨らませる。

 良くなったらいつでもしてあげるから。と優しい目で少女の頭を撫で、よいしょと抱きかかえる。


 ───行ってしまう。

 まだ聞いてないのに、行ってしまう!


 少年は慌てて、初めて大きな声を出した!


「お、おいっ」


 そんな自分にびっくりしたが、少女もびっくりした目をこちらに向けた。


「どうしたの?」


 えっと……と声を掛けたのに、なんと言えばいいのか困ったが、結局ストレートに言うことした。


「また、逢えるか」


 ようやく切り出すと、少女は大きな目をぱちぱちさせると、うん! と満面な笑みを見せる。


「会うに決まってるじゃんっ。でも良くなってもリハビリがあるから……、父さんどれくらいかかると思う?」


 微笑ましそうに見ていた父親が振られて、ちょっと驚いた顔をして───


「うーん……、随分かかる気がするんだがなぁ……。あぁ、そうだ」


 父親はスケジュール帳をポケットから取り出すと、そこに何かを書いてビリっと破った。

 その紙を少年に差し出す。

 少年は白黒しながら、おずおずとその破った紙を受け取って目を通す。


「この子は、この病院でしばらくお世話になるから、君の気が向いた時に顔を出してくれると嬉しいかな。では、この辺でこの子を連れて帰らないと私が看護師さんに怒られるから」


 少女は笑顔で、バイバーイと親しげに振り、父親も少年に当たり前のように手を振った。


「それにしてももうトモダチが出来たのか。良かったなぁとうま」

「うん! 学園都市で一人じゃないから大丈夫ってナギナギに言えるねっ」

「いやー……それはどうかな……。父さんしばらくあの子に口利いて貰ってないからなぁ……。今日も目すら合わせてくれなかったよ……」


 少年はその足が悪い少女を抱えた父親の背が小さくなっていった後も、いつまでも見つめた。


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