▼フコウ㍗きごう△/ 番外

かめわらじ
@tatamiwaraji

番外一方幼少編/1、「カワイイ林檎を手にした小さな白雪姫は。」

□×■×□②


 灰色、灰色、灰色、灰色、灰色、灰色、灰色、灰色、灰色、灰色、灰色、灰灰灰灰灰灰灰灰灰…………。

 あれから何日が経った?

 覚えがない。

 覚えがないが、どうでもいいか。

 世界が灰色過ぎて……感覚が、もう分からない。

 いやそもそも、俺は窓もない簡素な部屋に閉じ込められていた。灰色も感覚も何もない。

 ベッドに横たわりながら、俺は曖昧な頭で思考する。

 手首には拘束の意味の、手錠がかけられていた。

 俺の能力で世界は簡単に滅んでしまうから、その手を封じめる為なんだと。

 なら、このまま『感情』を『喪失』した今のように、生きていけば───人は傷つかない。


 あんな目を向けて、こない。


 すれば、アイツとあの人の顔だけは鮮やかに思い浮んだ。


 あの人やオマエがあの時、近くに居てくれたら俺を、止めてくれたのかな?


 思ってもアイツはここに居やしないし、あの人だって───俺を、俺を───「化け物だって、思ってる……」


 だから、来ないんだ。


 俺を認めてくれた女研究者は、きっと責任を被りたくないから逃げた。

 まさかこんな『化け物』になるなんて、思っていなかったから。


 だから、だから、だから、だから、だから、だから、だから───

 無性に死にたくなった。

 『化け物』なんて、生きている意味なんてない。

 生きている、意味なんて……『どけっ!! あの子を何処に閉じ込めたっ! まだほんの子供を閉じ込めるなんてどういうつもりっ! オマエらはそれでも年齢を重ねた大人なのかっ!!』


 スピーカーから聞きたかった声が、俺の耳をくすぐった。

 俺は横たわっていた身体を、起こす。

 乱れるスピーカーから彼女の怒声が、響いた。


『あの子は『化け物』じゃない! まだ、大人の善悪なんか分からない、大人が責任を持って護ってやらなきゃいまだほんにいたいけんな可愛い子供だ!! 可愛いあの子が、アンタ達がしたことが怖かったから手を振り上げて逃げたんだと何故分からないっ!!! 分かりもしない癖に、よくもあの子の心に傷をつけさせることをしたなっ! この報い───ただじゃ返さないっ』


 普段のからかう優しい口調や静かにたしなめる声音ではない、聞いたことのない怒りの声に───俺は戸惑った。


 それから───スピーカーからは惨状を物語る研究員らの阿鼻叫喚あびきょうかんが響いた。

 俺は一体あの人が何を起こしているのか想像出来なくて、響いてくるスピーカーをただ呆然と聞くしかなかった。

 十分もしない内に、スピーカーは静かになって───俺は初めて焦った。

 もしかしたら、あの人が……!

 その先はイヤな解答で俺は、真っ白になりかけた。

 俺は大事な人を、また本当に失ったんだと。


 ―――俺なんかのせいで……っ!!


 だけど、ガチャガチャとノブが揺れてから、地震がきても耐えられるドアが───破壊された。

 ドォォオン、と。


 バッッッダン! とドアが倒れた先に、あの人が肩で息をしながら足を上げて立っていた。

 明るい髪は埃や血糊ちのりで色が変わり、あちこち生足からは血が滲み、白衣はボロボロに焼けて黒ずんでいる。

 ベッドに座り込む俺の側へ駆け寄り、手にしたサバイバルナイフで手錠を切断した。

 たかが金属なんかで切断すらできない、特殊な手錠を。

 それを断ち切ったその人に呆然とする俺に、


「ごめんね。ちゃんと、君の話をちゃんとあの場で聞いていたらこんな事にならなかったのに。ごめんね、ホントごめん……」

 分かっていたのにぃ……とあの人は子どもみたいにボロボロと大粒の涙を流しながら、サバイバルナイフを投げ捨て、───俺をむぎゅっと抱き締めた。


 能力を封じられていない、俺に。


「なんで、アンタ……骨が」


 驚愕するあの人に、


「私、君と似たような能力を持つ紫野郎に戦い仕掛けられて死にかけたことがあるの。だから、まだまだ君の子供だまし能力なんかじゃ、骨程度じゃ折れないよ」


 俺の能力をあの人は、『子供騙し能力』だと言いやがった。

 あの人は、周りが『化け物』と騒ぎ立てて怪獣扱いをして怯えたのに、俺を「君はただのほんの子どもだよ」と言っていた。


「私、君の保護者になるよ。───もう、君にこんな思いさせないから」


 あの人は、愛しそうに俺に笑んで抱き締めてくれた。

 『化け物』なんかじゃなくて、ただ、俺をどこにでもいる子どもとして―――扱ってくれた。


 凍らせた思考が、じわじわと氷解していくのを自覚した。


□×■×□


 その後、あの人こと『川田常斉』は研究施設から俺を抱えて連れ出した───追撃するなみいる追手を全て蹴散らして……平穏な日常へ戻り、俺が『川田常斉』と暮らしだした頃。


 俺は自分からなかなか『上条当麻』と連絡を取れないでいた。

 自分の好意が、───あの人とは違う異性の好きだという好意に戸惑い、更に───『化け物』という目を向けられるのが怖くて彼女に、逢えなかった。

 その上で『イラッ』として手を出しなかねない自信がなかったのだ。


 当麻とは距離を取り、逢わない日々が続く。


 でも、逢いたい、会話したい気持ちだけは募っていって───


□×■×□


 『上条当麻』と『初めて対面』した公園に無意識に足を運んでいた。


 ぼんやりと穴にハマっていた『最初』の出逢いを思い返して───胸が苦しくなった。

 また、……『あの時』みたいに俺を忘れてしまうのだろうか。

 もう、振り返る事もなく───


「シロくんっ!」


 なのに、一番守りたくて、いつも傍に居て欲しいと思っていた、『上条当麻』が───目の前に居た。

 肩で息をしていたところを見ると走り回って、こうして俺を捜し当てたらしいのだ。

 汗だくになって、まで。


 俺を覚えていた当麻の様子に、安堵して正直に──心から嬉しかった。

 だけど、俺は「近づくな!」とあらんかぎり喚いていた。

 当麻が、怖かった。

 当麻の瞳を見るのが、怖かった。

 アイツも俺を『化け物』と心の中で思っているんじゃないかとぐるぐる思考が回って。


 なのに、アイツはツカツカと近づき俺と接触してきた。

 ギョッとして、一歩足を後ろに引き───


「もうこンな俺に構うなっ」

「君が構わないで欲しくなくても上条には関係ない。君の感性の問題だ」


 俺の塞き止めていたものが、簡単に切れた。

 視界が滲む。


「……………ッ! ───まだわかンねェのかッ! 平和ボケポンコツ無能力レベル0! オマエなんか簡単に捻り殺せるンだァ! 何で俺なンかを捜してまで会うに来るンだっ! 俺は……俺は『化物』なンだよ! あの学園都市の一件でわかるだろ! 俺はな、この学園都市すら捩じ伏せるほどの能力者だっ! だから、とっと俺の前から失せろォ、何の能力を見出だせなかった無能力レベル0! 虫を殺すほど、俺は暇じゃない!」


 渾身の怒鳴り声が、周囲に響いた。

 俺はそれでも周りを気にせず、酷いことことを言い切った。

 俺の罵声の木霊が辺りに響く。


 もう後戻りは、利かない。


 俺の頭の中は、真っ白になった。

 オマエは余りにも、無表情のまま、何も口にしないで、俺を見ていたから。


 オマエは最後まできっちり余韻が収まってから、───閉ざしていた口を開く。


「上条は実際そこに居なかったから、分からない」


 それだけ。

 あれだけの罵声を浴びて、それだけしか言わなかった。


「……ハッ。周り見て尚オマエは理解出来ない馬鹿だったンだな」

「そうね。馬鹿だよ、上条は。認めるよ。周りにも、言われている。だって、君の言う『無能力レベル0』だから」

「…………ッ」

「でも、『馬鹿レベル0』だから、──理解できるものがあるよ」


 彼女の瞳は苛烈な怒りに、満ちていた。

 その眼差しに臆してまた後ろに下がる。


「君はさ、人一倍臆病者で、優しい心の持ち主で、誰よりも傷つきやすい『ただの人間』なんだってこと」

「……何イッテンだオマエ。マジで脳が死んでるほど馬鹿だったのか?」

「君は正直な人だから、嘘をつけないんだよ。どんなに悪ぶって酷い言葉をつけていようが、君は本当に正直者。上条はそれを一番知っている。馬鹿レベル0な上条でもね。だから、君は───『可愛い』んだよ。世界で一番正直で人一倍臆病者、優しい心の持ち主で、誰よりもかれよりも傷つきやすく繊細で、まるで、雪のように儚いあの白雪姫みたいだよ」


 当麻は笑顔をみせながら、俺をバカにした。

 一番しないやつだと思っていたのに……まさかの猛反撃だった。


「……ケンカ売ってンならテメェでも容赦しねェぞ」


 凄む俺に、実力差が分かりきっているのに君にケンカなんて売れないよ。と肩をすくめる。


「でもさ、上条……本当の『化け物』知っているよ」


 当麻は苦笑いして、そんな事を口にする。


───俺なんかよりの、『化け物』? それも、本物?


「人の心が、一番の『化け物』だよ。何にもない無力な人でも、ただの可愛い幼子でも一瞬で、悪者や化け物に仕立てあげてしまうの。怖いよね、『あの目』」


 当麻は……知っていた。

 あの場になくても、『あの目』を向けてきた人々を当麻は知っていた。


「シロくんも、怖かったんだよね。『あの目』が。」


 そうだ、当麻もそういう経験を、していたんだ。

 『外』でそういう経験をして、その原因で脚があぁなって───『学園都市』に来たんだ。

 だから、ある記憶で障害を持ってしまった。


『一定以上の不運な出来事は、前後を含めたその期間の記憶から全て抜け落ちてしまう』


 そうでなければ、当麻の心が持たなかったからだ。

 当麻は不意に俺の頬を触れた。

 右手で。

 そして、バチっと音がして───


(え?)


 理解できなかった。俺に触れたなら、骨が折れる筈なのに。

 今情緒不安定で、能力に並がある状態なのに。


 でも、彼女は骨を折ることなんてなかった。


「なんで……オマエ、無事なンだ……? 骨、なんで折れないンだ?」

「あぁ、君みたいな能力者でも『不思議』なの? そうだね、……上条の右手は『不幸の右手』なんだよ」

「………は?」

「君の学園都市を捩じ伏せるほどの力を持つ能力でも、上条打ち消しちゃうの。とりあえず能力や奇跡だったら何でも消しちゃうよ」

「う、打ち消す? でも、オマエ下された診断が『低能力レベル1』ですらなく『無能力レベル0』で能力なんて開花出来なかっただんじゃ…」


 いつの間に? と首を傾げる俺に、当麻は苦笑いしながら違うよと首を振り、


「人工で開発される前から、この『右手の能力』は生まれつき。そしてそのせいで『不幸』も付属しているんだけどね……」

 さっきも財布落として心がさもしいよ……。とずぅん……と暗くなった。

 なるほど、……『不幸体質』という『異質』はそこから発生していたのか。


「不幸過ぎて嫌になる時もあるけどね───上条、『不幸』があったから君に逢えたよ。この『不幸』がなかったら、君に逢えなかったよっ」


 当麻はにっこりいつものように笑って言い放つ。

 俺は言葉を詰まらせて、何も言えなかった。

 紙一重の『不幸』中の幸い。


 俺がどうにかしたいと思っていた彼女の体質も、よくも悪くも───それがなければ当麻に逢うこともなかったかもしれないのだ。


 と、ガバッと急に当麻が抱きついてきた。

 急な行動に俺の思考はついていけなくて、ただその体温を感じた。

 右手をしっかり後頭部につけながら、


「いいか、君がこの先どんな悪者になろうが、悪党になろうが、下郎に成り下がろうが、なんだろうが、上条と君はトモダチなんだよ。上条のいいたいことはそれだけ」


 囁かれた言動は、酷い物言いだった。

 もっと他に言い方があるだろう。

 余りの酷い言い方に涙目になって呆然とする俺に、頭をポンポンと優しくあやすように叩きながら、


「君を───決して独りにしないよ。だから、溜め込むな。上条も、君に話す。いっぱいいっぱい君に話す。だから君も上条に話してね」


 俺は、彼女の首筋に顔を埋めた。

 涙に歪んだ顔をこれ以上見られたくないから。

 泣きたくないのに、次から次へと──涙が溢れて止まらなかった。

 当麻はずっといてくれた。

 俺が泣き止むまで、ずっとそうしてくれた。


 好きな人達がこんなにあったかいものだなんて初めて、知った。


 あの人や当麻が居てくれなかったら、俺は本物の『化け物』に成り果てていただろう。

 俺は───二人に救われた。


 救われて───救いたいって思った。

 いつか、あの人や当麻みたいにはなれないだろうけど、───俺の大事な人達だけは救いたいって。

 いつまでもあの人や当麻とずっと一緒に居たいから……。

2017/06/17


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