▼フコウ㍗きごう△/1~4

かめわらじ
@tatamiwaraji

終幕「へいおんがいちばんっ!」

 8月30日。

 凪が入院することになった。

 命に別状がなくてホッとして泣きたくなった。

 そして───


「おねちゃーん! この上条凪さんにリンゴ剥いて!」

「はいはい。」

「あ、ついでに剥いたら食べさせて! 俺今動くのダルいんですっ」

「はいはい。」

「それと、夏休みの宿題手伝って! まだ日記と算数と作文終わってない!」

「流石にそれは自分でやれ! というかなんでまだ終わってないの?!」


 ぎゃーすかっと会話が出来るくらいに元気!

 両親も揃ってそれはもう喧しい!

 そこはいつもの家族風景のようで、『日常』が戻っていた。


●●●●


 凪のプリン食べたーいの要望に答え、近くのコンビニに行くため個室から廊下を出ると、死んだと思われた土御門が長椅子に座っていた。


「土御門……」

「カミやん、元気にしてたぜよ?」


 ニヤリと笑う土御門はあちこちに包帯を巻いていた。


 何故、生きているのか?


 上条はとりあえず右手を拳作ってその頬を殴ってみた。めり込んで陥没させたい勢いで。


「がぶっ! い、いきなり殴る?! 驚きもなく、何故、生きているのかという説明も聞かずに直結に殴るコマンド選択?!」

「あ、ちゃんと当たる。幻覚じゃないや。で、何で生きてんの。上条さんとても驚き過ぎて幽霊を見たかのような顔になってます」

「何故、説明的?! というか棒読み口調で全く無表───くっ、ちゃんと説明しないと第二破が飛んできそうだにゃー……」


 土御門が凪にした事が主な原因であるのは明白な態度。彼は冷や汗をかきながら、ジリジリと上条から下がる。


「……ちゃ、ちゃんと説明するですたいっ。そしたら殴らんでくれよカミやん!」

「うん。だから、なんで生きてんの」


 はよしろや。と目で促すと土御門はサングラスを無意味にかちゃかちゃ何度もかけ直しながら、


「カミやんにほら、オレは超能力者だから回路が違い、魔術を使うと死んじゃうとかはウソなんですにゃー! ほ、ほら、土御門さんは基本的ウソつきですし?」

「分かった。殴る」


 土御門はパタパタと激しく両手を振り、


「違う違う! 今のは確認して聞いただけっ! 説明はここから! 土御門さんのチカラは貧弱レベル0肉体再生オートリバースってヤツでね、ホントは魔術も四、五回やっても大丈夫なんだけどメンドイしそんな事を正直に言ったら教会からギリギリまで魔術を使えって催促さるし、正直かったるかったんですたいのごめんちゃい♪」


 テヘン! と舌を出して冷や汗かきかきにおちゃらける土御門に、上条はたっぷり十秒無表情のまま無言。

 流石にこの上条当麻の突き刺さる視線に耐えられなかった土御門が手を振り、彼女の名を呼ぼうとして、


「か、カミや「学校が始まって顔を合わせした一週間一日一発ずつ殴られるのと、今最大全力で殴って全て水に流すとして解消されるのどっちがいい?」

「ちょ、カミやん?! その目はもう殺し屋の目ですよ! というかもう拳を握りしめてるからそれカウントに入るグバァァァア!!」


 土御門を容赦なく殴り飛ばしてから、上条はコンビニへひた走った。

 今日も上条当麻はいつもの日常をひた走る! おわり!


※※※※


 そう………終わりのはずなのに、


「おい当麻。ボケッとするな。進んでねーぞ」

「う、うん。ごめん」

「と言うかオマエに前に言ったはずだよな? 『溜めるな。夏休みは始まったと同時にやれ』って。明日しか夏休みねーのに何やってたんだよ。入院は言い訳だからな」

「………分かってるよ」


 『おわり!』ではなかった。

 『御使堕しエンゼルフォール』から一日が経過し───日常が戻った8月30日。

 夏休み終わりの一日前。


 不幸な事に、病院から自宅に戻った上条はあるものを見つけてしまい、半狂乱に陥った今、外行き用の帽子とサングラスを装備した一方通行アクセラレータに勉強を見て貰っていた。

 キャンピングカーを改造したような現代風の屋台の横に置かれたパラソルつきのテーブルにて、勉強中。

 実はそこの屋台でホットドッグを一方通行アクセラレータに買って貰ったのだが、値段にびっくり。

 なんでも世界一高いホットドッグ屋で、一個二〇〇〇円。

 とても食べられん! と首を振ったのだが、「あァ、マスタード苦手だったか当麻は。じゃ、捨てる。何がいい?」と素で言い出したのでありがたく頂いた。

 くっ、貧乏学生の上条にはとてもぶるじょわの感覚はなれない!

 更に飲み物や冷えぴたまで買って貰い、教えて貰っている立場なのに奢られっぱなしで肩身が狭いなと思う上条だった。

 一方通行アクセラレータが奢ってくれて至れり尽くせりなのだが、


「う゛ぁ゛ー、宿題……、終わんないよー……」


 額に冷えぴたを張り付けながらも、もう投げ出したい気分だった。

 だが、一方通行アクセラレータの教えがいいのか、『超能力カリキュラム(初級編)』やら古文、現文、歴史などほぼ終わったのだが………数学が大の苦手であるのか発覚し大苦戦中なのだ。

 うだーとテーブルにうだれる上条に、


「そこ、間違えてンぞ」

「えっ、何処?」


 一方通行アクセラレータはため息を吐いて、間違えた箇所に指を差す。


「これも違う。後これもな」

「チクショー!! 因数分解って何ですか! 数学の分際で答えが二つもあるってどういう事なんですかーッ!! なんで答えは一つじゃないんですかー!!!」


 頭を抱えて叫ぶ上条に、


「オマエが間違えるからだろ」


 一方通行アクセラレータ団扇うちわあおぎながら冷たく突っ込む。

 そこで上条が一方通行アクセラレータが見慣れない団扇で扇いでいることに気付いた。


「ねぇ、それって海の家にあった団扇だよね。微かに潮臭いの」

「あァ」


 一方通行アクセラレータが絶対しないだろう行動に、上条は何だか気になって、身体を起こして好奇心満載の顔を鼻先まで思いっきり寄せる。


「なんで持ってきたの? 団扇気に入ったの? 『外』そんなに珍しかった? 海始めて見たから記念に持って帰ってきたの? ねぇ、色々あったけど一方通行アクセラレータは楽しかったの?」


 首を傾げて顔を間近に寄せられて愉しげに聞く上条に、一方通行アクセラレータは目元をサングラス越しに真っ赤にしてちょっと引け腰になりながら、


「……まァ、それなりにな」


 満更でもなさそうに頷く。

 その返答に上条は満面の笑みを浮かべて、


「そっか! 上条もね、一方通行アクセラレータと海で遊ぶの楽しかったよ! また一緒に行こうね一方通行アクセラレータっ」


 と無邪気にそんな子どもみたいな事を力一杯言うのだ。

 一方通行アクセラレータはその言葉を違う意味で取りかけて、真っ赤になって噎せかける。

 『御使堕しエンゼルフォール』の事件を無事解決した、二人のつかの間の日常が、そこにあった。

【異世界海辺物語編完】2016/11/07

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