心の声

今朝の車のラジオによると、世間はどうやら梅雨入りらしい。


真昼の日差しや上がりかけていた気温が、そういえば最近は落ち着いている気がする。


中途に開いた窓からは、涼やかな夜風。


そして今、僕の隣には、最愛の婚約者が静かな寝息を立てている。


さっきは少し無理をさせてしまったけど、今はもう、いつものように、深く深く眠っている。


寝ている時しか見られない、彼女のもうひとつの顔。


くるくる変わる表情も魅力的だけど、こうして安らかな表情を見るのも、僕は大好きだ。


この瞼の向こうにはどんな世界があるんだろう。


どんな物語を秘めているんだろう。


どんなに深く通じ合っていても、同じクリエイターだからこそ、手の届かない領域がある。


だから時々、不安になる。


僕でよかったのか。


君はちゃんと幸せなのか。


こんなに色々あったのに。誰より傍にいるのに。


貪欲な僕は、もっともっと、君のことが知りたい。



***



一度眠ってしまえば、君はなかなか目を覚まさないから。


悪いとは思ったけど、タオルケットを少しめくって――僕は君の胸元に、耳を押し当てた。



……心臓の音が聞こえる。君が生きてる音がする。



欲望のままに愛し合っていたときとは違う、穏やかで緩やかなリズム。


その音を譜面に導けば、どんなメロディーになるんだろう。


「……好き」


「……!」


真夜中の罪悪感を打ち消すように、今まさに告げようとした言葉。


どうして君の唇が、それをかたどったのだろう。


どうしても聞きたかった胸のうちを、どうして今、言葉にしてくれたんだろう。


肌越しに聞こえる君の心音は、相変わらず穏やかで。


僕のは破裂しそうなくらい激しくて。


君を起こしてしまわないか、気掛かりなくらいなのに。


「……僕も、好き」


そう言って、僕はタオルケットをかけ直した。


耳を押し当てたって、心の声なんて聞こえるはずもない。


それでも今、狂おしいくらいに君が愛しいから。


ふと触れた君の肩が、少し冷えていたから。


僕は君を抱きしめて、君が見ている夢の世界に、少しだけ嫉妬することにする。

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