BL「組長のご飯係」本編完結

しおり*創作アカ
@ss0usaku

(6)フレンチトースト

「フレンチトースト、というものが食べてみたい」


ある晩、正からお願いされた。


「今までパンはよく食べてきたものだが、フレンチトーストは食べたことがないんだ。一度作って欲しい」

「いいよ。じゃあ、今週末のおやつにしようか」

「ああ、ありがとう」


ということで、今週末のおやつに、フレンチトーストを作ることになった。


米とパスタとパンばかり食べて生きてきたという正。だけど、ふりかけをかけたり、ジャムを塗ったりするくらいしか食べ方を知らなかったという。

初めに好物だと聞いていたボンゴレビアンコも、名前がかっこいいから好きだと言っていただけで、実際まともに食べたことはなかったのだという告白を最近受けた(ボンゴレビアンコという名前がかっこいいかどうかという問題はここではさておく)。


要するに、まともに調理された食べ物というものを今まで口にしてこなかったらしい。それは米でも、パスタでも、パンでも同じだ。単体で食べたことはあっても、料理としては食べたことがないんだって。



そんな正にフレンチトーストを作ってあげる。うん、素敵だな。甘くて美味しい、ふわふわとろとろをプレゼントするよ!



さて、週末。隣には正がいる。

最近、正は暇なときには僕が料理をしているのを観察したり、手伝ったりしている。

とっても正直にいうと、邪魔だなと思うときもなくはないけど、かわいいし、「一緒」って楽しいから、僕も喜んでやっているわけである。



で、フレンチトーストだけど。


「正、卵割るのと牛乳計るのとどっちがしたい?」

「卵が割りたい」

「おっけー、じゃあそこに3つ割ってね」


正と一緒に作ることになった。下ごしらえは超簡単だしね。

そう、それから、正は最近卵が割れるようになったのだ。すごい!包丁もちゃんと持てるようになってきたし、我がパートナーは大変な進歩を遂げているのだ。えっへん。



液を作り、パンを分厚く切る。パンに液をひたひたに浸したら、しばらく寝かせる。



「どれくらい待てばいい?」

「どうしようかな、休憩がてら30分くらいにしようか?」

「意外と長いんだな」

「好き好きってやつかな。一日かけて漬け込む人もいるんだよ」


某ホテルの絶品フレンチトーストは漬け込む時間が長いことで有名だよね。


「一日もかけるのか……」

「そうなんだよ、一回食べてみたいよね。そういえば、正とは外食にいったことがないな」

「ああ、そうだな。外食も好まないんだ。しかし、食べられるものも増えたし、一度太郎以外の人間が作った料理にもチャレンジしてみるのも悪くはないかもしれない」

「じゃあ、デートだね!」

「デート……」


ぽーっと赤くなる正。デートという言葉にくらくらしている。37歳だけど、正は意外にも初恋ボーイ、結構うぶなのだ。しかも相手はかわいい僕。そりゃ嬉しかろう。ぽーっとなるのも分かるよ。




「まあそれはさておき、そろそろ焼きますかね」

「あ、ああ……で、デートについてはまた今度計画をたてよう」

「うん。じゃあ焼くよ!」



30分たったので、たっぷり液を吸ったパンを弱火でじっくり焼いていく。焼き加減の調節は難しいから、正は隣で見学だ。



「あまい、いい匂いがするな。この、香りはなんだ?」

「バニラエッセンスのことかな?僕、この匂い好きなんだよね」

「バニラエッセンスというのか。俺も好きだな」


大好きな匂いを胸一杯に吸い込みながら、じわじわパンを焼いていく。

片面が焼けたら、そーっと裏返して、もう数分。


「こんなもんかな?できたよ、さあ食べよう!」


定番、メープルシロップをかけて、紅茶も淹れる。お待ちかねのおやつタイムだ!


「いただきます」

「はいどうぞ」



フォークを入れたフレンチトーストは、表面はかりっと、中はとろとろしていて、内心ガッツポーズをした。うまく焼けているぞ。


「お味はいかが」

「パンじゃないみたいだ……とろとろしていて、ほんのり甘い。バニラエッセンスの香りも最高だ。本当に、これはパンか?」

「ふふふ、パンだよ」


かわいい!


「これがパンだなんて……パンにも、色々な調理のしかたがあるんだな。驚きだ、とても美味しい」

「それはよかった!」


嬉しい言葉、だけど悲しい言葉だ。

僕と出会うまで、ジャムをつけたパンしか知らなかった正。そういうパンしか食べられなかった正。そんな過去を思い浮かべると、とても悲しくなる。


「そういえば、サンドイッチとかもしたことなかったね。今度、また一緒に作ろう。好き具材を挟むんだよ」

「好きな具材か。なにがいいだろう」

「食べられるものも増えたから、一杯選択肢があるよ!一杯作って一杯食べよう!」

「そうだな、好きなもの、好きなもの、か」


ふ、と笑って、


「食べ物を『好き』と言えるようになったのは、太郎のおかげだ。ありがとう。サンドイッチ、楽しみにしている」


そう言う正に、心がちりっと痛む。


「楽しみにしてて!」


僕はたーくさん美味しいものを作ってあげよう。パンだって米だってパスタだって、美味しくいろんな味や食感になるんだよって教えてあげよう。


「ありがとう」


ちゅっと甘いキスをくれる、大事なパートナーのために。