コウフク±㌻/私は賢者のように賢くなれない。

かめわらじ
@tatamiwaraji

4、極楽堂と、黒猫と、お使い。

▼〇▼〇▼②


 翌日の金曜日。

 たまたま、おやじが休暇を貰ったので、大上を抱えて暦と外で必要な買い物に出掛けていたら、途中で知り合いの中学生とバッタリ。

 その先々のバス内にて知り合い『上院中学校』転入した中学生が、小学生三人らに牛フンを撒かれるという被害を受けたそうだ。

 その親しい知り合い中学生……もとい、仮にΑさんとしよう。

 Αさんはその帰りがけに、仲間の一人が何でもこないだ小学生をいじめて五百円巻き上げたことが発端らしく、Αさんは関係ないのに巻き込まれてそんな甚大な被害を受けたらしい。

 彼に会った時は、すでに身綺麗になっていてその欠片も臭いもなかった。

 何でも、その後、午フンを綺麗に取り除き根こそぎまず外の冷たいホースの水で洗い流せるだけ流し、速攻でお風呂に入って、『地獄堂』で買った石鹸で洗い流せるだけ流したら綺麗になったんだって。制服はクリーニング屋に出したら、大丈夫だろうと言っていた。

 何とも災難ですね。と私と暦はそうΑさんに返すしかなかった。

 その後、道端で話すのも何だからと近くにあったお店に入ってお茶し(その際バッグの中に大上を入れて隠した)、そのΑさん宅まで遊びにいくことになって、久々のゲーム機でその人と三人で遊びほけ通した。

 あまつさえ、その宅で夕食までご馳走になってしまった。

 今度また遊ぼうと約束を交わして、満足しながら『地獄堂』へ向かう道中。

 パトロールの巡回をしていた三田村巡査とこれまたバッタリ。


 そのときは、夜九時なるかならないかだった気がする。


「小学生がこんな遅くまで遊ばない」とか注意を軽く受けたけど、結局は『地獄堂』の前まで親切に送って行ってくれた。

 久々に楽しく遊んで満足して、あっつい風呂に入って、さあ寝ようかと私に与えられた部屋に入った途端。

 黒猫のガラコが、噛みついてきた。

 私に。

 ガラコは私に噛みつくだけ噛みついて、隣の部屋の暦の方へ勢いよく駆けていった。

 隣から彼の痛々しい悲鳴が聞こえたが、私はおやじが部屋に置いていた何の傷でも消える塗り薬を塗って聞かぬふりを。

 ガラコの夕食を作らなかった結果の制裁なのだから。

 ドタドタと騒ぎまくる音を聞きながら、明日は何をつくれば機嫌良くしてくれるかと考えながら大上を抱えて就寝。


 その日、彼ら『町内イタズラ三人悪』を聞くだけで見かける事はなかった。


▼〇▼〇▼


 土曜日。

 本日は、六時から(ガラコの尻尾攻撃で)起こされ、朝食を作った。

 今日の担当は私。

 ガラコの分も作りましたが、彼女は不機嫌そうにむしゃむしゃと食っていました。

 睨むような視線を感じながら、静かな食卓。

 誰も一言も朝食は発しませんでした。

 それから、おやじに言われて店内の掃除を任された。暦と何故か大上まで連れ別件で途中から、店を抜けたけど。

 店を抜けようとした暦にやっぱりガラコは噛みついた。

 一人で店内を掃除しながらの合間に、責任をとって機嫌を悪くしたガラコを渾身を込めてなだめまくった。

 何故なら、いざって時にガラコが居ないと死ぬかもしれないから。

 あのおやじの無茶ぶりの難題を掻き分けてこられたのは、ガラコのお陰が大きいのだ。

 あー、私ら、このガラコにもう頭上がらないわ。


 そんなガラコをなだめて、尻尾でビシバシと撃退されている中、おやじが唐突に話しかけてきた。


「ツグや……ふたつ池を知っとるか?」

「うわ、痛いって! ……『ふたつ池』って、なんか最近桜並木などあしらって整備してやったら長い遊歩道の終着点地の事? それがどうした訳」

「あそこにお前たちをいつぞや行かせたろう。嫌な感じと哀しい感じがしたと言っていたじゃろ」

「……うん。暦なんか『無理』とか言って池のそばにある桜の木には一切近寄らなくて私がそばまで行く羽目になって、行くとそんな気分に陥った」

「根元に死体が埋まっとると話したのはそれから帰って来てからじゃったか」

「そうだよ。忘れたわけ? こっちは具合悪くてガラコにおぶられて帰ってきたんだから。それ見て笑ったのおやじだし」

「ひっひひひ! そうじゃったそうじゃった。あれは酷く不様だったのおツグや」

「………それで、その根元の死体が何?」

「今晩に、その死体の女が来るだろうよ」

「それって………。おやじはそれで良いの? おやじわかってるんでしょう? あの女の人が本当にしたいこと」

「それでも助けにはなっとる。ツグやこれも道じゃ」


 そう言っておやじはひひひっと笑った。

 私は何とも言えない複雑な気持ちに陥ったが、何も言えなかった。

 道と言えば、人がとやかく言えて直せたりどかせたり壊せたり出来るモノでもない。

 大体女の気持ちは、わからなくはないのだ。


 だから、波長が合いすぎてあそこで具合が悪くなって動けなくなってしまったわけだけど。


 それからおやじとの会話は途切れて、私はガラコの機嫌直しと店内の掃除にいそしむ。

 今夜でその女の人との会話を交わすのは、最後になるって事か。

 まあめそめそと泣くことはなくって、笑顔でいるのはある意味でいいこと。

 ようやく、自由になれるんだから。

 それが、その殺した男を復讐するため──だとしても。


 その日の夕方辺り過ぎやたらと、街全体が騒がしたかった。

 どうやらおやじが言った通りに、桜の根に絡まれに絡んだ死体を日の目に出来たようで。

 ふたつ池周辺の大騒ぎは一週間ばかりも続いたのであった。


▼〇▼〇▼


 日曜日。

 私はおやじに言われて店内を大掃除しながら、ある事を思い返していた。

 昨日の晩のことを。


※※※※


 おやじの言った通りに、いつもの水色のワンピースを着た女の人が訪ねてきた。

 一気にぞわりと空気が変質した。

 私はいつものように、


「いらっしゃい」


 と変わらずに声をかけた。

 女の人はこくりと私を見ながら頷くと、店の奧に座るおやじの前へ。


「やっと自由になれたの……これから男に会いにいくわ……」


 そう言って彼女は、にっこりとわらう。

 おやじの前でにっこりとわらって。


 おやじは何も言わずに、只女を見るばかり。

 彼女はしばらく無言でおやじの前にいたが、くるりと私の方に向く。


「フフ………今まで私に付き合ってくれてありがとう……。貴方のその心配してくれる気遣い私は大好きだったの……」


 さっきとは全然違う華やんだ笑顔を浮かべて去っていった。

 彼女が居なくなった店内は、妙な肌寒さだけを残して。


「おやじ……あれで良かったのか本当に……」


 そう私が呟いてもおやじは何も言わなかった。

 只、


「店仕舞いしようかの。ツグ、暖簾のれんを」


 それだけを言って立ち上がり、奥の間へと足を運ぶ。

 私はおやじの言う通りに、『薬』と書かれた暖簾を下げる。

 閉めようとたてつけの悪い戸と格闘していると、暗がりの外に水色のワンピースが視界の隅に見えた。

 はっとしてそっちの方に顔を上げると、彼女が。

 よくも悪くもすこぶる晴れやかな顔をして、こちらに手を振って───消えた。


 只、『地獄堂』の薄暗い明かりだけが、こうこうとその誰もいない道を照らしているだけ。


▼〇▼〇▼


 …………昨晩の事を思い返しても、何となく納得が今でもいかない私。

 そうぐるぐる思いを巡らせて、気味の悪い棚をたきでばたばたとさせると、


 バサッ

「ブッ」


 顔面に何かが落ちてきて被さった。

 慌てて振り落とすと、がさりとして床に落ちた。見れば紙袋。


「?」


 昨日掃除したはずだから、こんなのはなかった。

 いつの間に?

 拾い上げて、中身を見る。

 それには、季節外れもいいことの沢山の綺麗な桜の花びら。

 そこに、二つ折り畳まれた白い紙。

 がさがさと袋から取り出して紙を開くと、


「いつもわたしのはなしをきいてくれてありがとう いままでずっとひとりだったから でもあのこたちのおかげでかぞくのもとへかえれます」


 と可愛らしい文字で書かれていた。

 それを読んでもやもやした何かは一気に飛んでいった。


 どんな形であれ、彼女は──救われた。

 それだけの、話でいいじゃないか。

 私は笑みを溢して、その紙袋に入った桜の花びらを手にとって眺めた。

 そして、今日も一日街は騒がしかった。


▼〇▼〇▼


 月曜日。

 おやじに言われて暦と大上を頭に乗せた私は朝早くからイラズの神社に赴いて、薬を届けに行っていた。

 また例のあのひとだ。

 おっきな肉まんを貰って、イラズ森をぶらぶらしながら、そのひとと一花咲かせて楽しく話していた。

 気がつけば、小学生らが既に学校に登校していた。時間はとっくに過ぎていた。


 あー、おやじの朝食作ってない。ついでに一番ヤバイのはガラコのご飯。

 私らは慌ててそのひとと惜しみながら別れて、『地獄堂』に向かった。

 勿論、登校中の小学生らに鉢合わせしないように、道を見極めて走って。

『地獄堂』に着くと、ツンツン頭の小学生が一人勢いよく飛び出した。

 私らとすれ違う時、


「おはよ!」


 と急ぶれーきをかけて片手を上げて元気よく挨拶された。


「「お、おはよう」」


 二人して戸惑いながら、ツンツン頭の小学生に返すと、にんまり満足気に笑って走り去っていった。

 その後を、


「待ってよぉ、てっちゃん」

「てっちゃん一人だけ先に行くなよ」


 フワフワうさぎ頭の小学生とサラサラ黒髪が追いかけて『地獄堂』から飛び出してきたが、やはり私らとすれ違う時に、急停止して、


「おーはよ」

「おはよう」


 と、挨拶された。

 おはようと返せば、やっぱり彼らはにっこり笑って、『てっちゃん』と呼んだツンツン頭の子の後を追いかけていった。

 そんな怒涛のように、その三人は駆け去っていった。

 何が何だわからず、彼らが去った後をぼけっと眺めたが、ある現状を思い出して、慌てながら『地獄堂』へと踏み入れる。


 だけど、中に入ってみれば、案の定ガラコに噛みつかれた。容赦なく。

 そして、私らは今日もおやじにこき使われるのだった。容赦なく。


 小学生らが元気よく登校している中、私らは朝食作りに勤しんでいた。

 ガラコの視線を背に受けながら。

 それから、『町内イタズラ大王三人悪』に挨拶されて以来から彼らと何かしら顔を合わせることになったのである。


 登校する子供らの声が今日も元気よく太陽の下で響いていた。

2015/07/07


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