コウフク±㌻/私は賢者のように賢くなれない。

かめわらじ
@tatamiwaraji

4、極楽堂と、黒猫と、お使い。

 魔法のマグル界は冬。

 だが、今回も衣装箪笥を通って季節ぶっつりと無視した春から夏にかける丁度中間地点の微妙な時期の『日本』にいるダドリーは何処かの街にいた。

 その街は『上院じょういん』と呼ばれ、その街の外れにある薬屋のお店『極楽堂』の前にダドリーと暦が立っていた。

 薬屋を知っている街の者たちには、『地獄堂』と恐れられ通り名となっている。

 二人は上院の街には当然見かけない子どもであり、雰囲気も変わっているため何処か浮いてしまい、早くも噂がたっていた。


 ダドリーは、大きめのスポーツバッグを肩に提げ、肩まで伸ばして結んだ黒髪に、瞳は薄い灰色。日本人とは違う顔立ちを隠すように水色の野球帽子を深めに被っている。腕の中には暑さでダレた狼っぽいオス猫ほどの大きさの狗を抱えていた。

 もう一人は、瞳の色は灰色。脚まである白灰の髪を結い上げて、黒の野球帽子を深く被っていた。スポーツバッグを持つ子とは違って彫りは浅く日本人に似通っていた。


此処ここ……だね」

「交番に聞かなくても、一発でわかったかなこれ」

「……だよね」

「秋さんのお店とどっこい?」

「いや、こちらの雰囲気の方だな。リベザルでも引くよきっと」


 二人は子どもには似合わないひきつった笑みを浮かべて、あはははと空笑いし、どちらともなく暖簾を上げてくぐった。


▼〇▼〇▼


 バスで『上院』と言う街に着き、目的のある街外れの薬屋へと足を向かせた。

 今回も春雪さん監修の『暦の用事』だった。正直、それに私を巻き込むのやめてほしい……。そうは言っても私が、断れる立場ではないので胸の内の事は言わないけど。

 さて、初めて来た土地のため、土地勘の無い私らはすぐ道に迷った。

 けど駅前辺りにいけば、交番くらいはあるかとそっちに引き返ししばし歩いた。

 途中でこんびにえんすとあに寄り、暑さでダレる大上をすぽーつばっくの中に突っ込んでから店内に入り飲み物やらお菓子やら軽い物を買ってから派出所に。

 一応、中を確認してから、


「こんにちわ」

「あ……こんにちわ」


 と声をかけて入れば、何か雰囲気的にガラの悪さが隠せない眼鏡をかけたおまわりさんだけがいた。

 おぉ、元やんきーが居るっ!


 しかし、それは絶対に口に出さなかった。

 ぐったりした大上を抱えながらそのおまわりさんに聞く。


「あの『極楽堂』っていう薬屋さん探しているんですけど、何処にあるかわかりますか?」


子狼か狐っぽい大上にギョッとしたが、すぐにおまわりさんの顔に戻って、


「『極楽堂』? ……ああ、『地獄堂』の事か」

「「『地獄堂』?」」


 暦と私が同時に言うと、おまわりさんは目尻を下げて苦笑した。

 あ、意外にいい人かも。


「知らないのかい? この辺りの街では『地獄堂』で通るほど有名だよ。この街の外れにあるんだ」

「へえー。私たちここに来たばかりなんで初めてききました」


 ねぇ。と暦に促せば、彼もそうそう。と相づちを打つ。


「そうか。それは災難だ。いや、知らない方がまだいいかな」

「? 何ですかそれ」


 変な言い方に私は首を傾げると、おまわりさんは、悪い悪い俺の独り言だ。と頭をかいてかわされた。

 私と暦は互いに目配せしたが、わからないまま。


「初めてこの街に来たって言うなら、道に迷ってここにきたのかな」

「ええ……見事に迷いました」

「ははっ、そうか。待っていな、今この街の地図をコピーしてやるから。そこらへんの椅子適当にかけて」


 そう言うと、おまわりさんは立ち上がって地図をコピーしに奥へと姿を消した。

 あー、ずっと歩き通しだったから足が痛かったのだ。なので、おまわりさんのお言葉に甘えさせてもらうのだった。


▼〇▼〇▼


 一息つくと、おまわりさんがコピーしてくれた地図と、気を利かせてお茶を二つと大上用の水を持ってきてくれた。


「その様子だと相当歩いて疲れたろ。街外れだからまだ歩くことになる。ここで一休みして行きな」


 にっこりと笑って、私たちにお茶と大上に水を振る舞ってくれた。

 意外ではなく、凄くいい人でした。

 しばし、そのおまわりさん――三田村みたむら巡査(気さくな感じでそう三田村と名乗った)にお昼までご馳走になった。

 お昼までご馳走になるとは……と辞退したが、三田村さんは快活に笑って、まあ食っていけといってくれた。

 なんと太っ腹なおまわりさんなのか。


 結局、あれから一時間くらい派出所に居てしまった。


「あ、そろっとパトロールの時間だ。長居させて悪かったな」

「いえいえ、凄く親切にしてもらって……こちらこそ有難うございます」

「今の子どもにはない丁寧さだ。あいつらに見習わしてやりたいよ」

「『あいつら』って、三田村さんが話に出てくる『町内イタズラ大王三人悪』のことですか?」

「そうそうそいつら。見かけても無視して構わないから。いや寧ろ関わらない方がいい。その方がお前たちのためだ。あいつら、ろくなことしかしやがらないからな」

「はは……、忠告有難うございます」


 そう言って私たちは交番の外に。

 三田村さんが自転車のぺだるに足をかけた時、暦がこんびにえんすとあで買った品物をごそごそと漁ると、


「良かったらこれ差し上げます」


 お菓子が入ったひと袋を差し出した。


「いや貰うわけには」


 結構な量に、三田村さんはそう言って断るが、


「おまわりさんって、結構ハードそうだし疲れると思うから、甘い物体にいいんですよ」


 ま、貰って下さい。お礼ですから。と、笑顔全快で差し出す。

 三田村さんは少し唸ったが、暦の笑顔にコロリと騙されて、


「まあ、有り難く貰っておくよ」


 観念して笑いながら受け取ってくれた。

 ………暦何かあの袋に入れたのか?

 あれ、なんか企んだ笑顔だよ。害はないとは思うけど。


 私は未だに企んでいる笑顔を浮かべる暦に引きつつ、腕を引っ張った。

 これ以上、三田村さんに害をもたらさないためである。


「じゃ、私たちはいきます。本当にお世話になりました」


 そう言って暦共々に軽くお辞儀をした。


 おまわりさんは笑って、


「いいっていいって。そうそうあいつらに何かされたらいつでも俺のところに来い。遠慮はいらないぞ」

「はい」


 じゃあな。道中気を付けろよと言って彼は自転車にまたがり、私らに手を振ってぱとろーるにするため去っていった。


 こんないい人がいるんだ。

 日本も捨てた物ではないと再認識したのであった。


▼〇▼〇▼


 コピーしてくれた上にその地図に道のりを分かりやすく線で引いてくれた道順通りに行くと、『極楽堂』に着いたら着いたで、そのお店の外観に圧倒される。


 右に大きく傾いたぼろい木造二階建て、正面入り口横のガラスケースの中には、脳みそはらわた丸出しの人体模型が飾ってあった。


 ……なるほど。だから三田村巡査は言葉を濁したのか。

 まあ、別にとある『深山木薬店』で慣らされましたから平気といっちゃ平気なんだけど。

 そんなこんなで、前回のお店とどっこい勝負な気がするが、こちらが勝る。

 何せ聞いた限りでは、江戸時代あたりから続いている薬屋なんだそうだ。

 そりゃあ、建物も右に傾くだろう。良く今現在までこの形で持ったものだと感心。これなら文化遺産になりそうだ。


▼〇▼〇▼


 暖簾のれんをくぐると、


「来るのがちと遅すぎたんじゃないかい……暦、つぐな……」

「「ッ!」」


 私と暦は同時に息を呑んだ。

 そんな小さい声で言ったに関わらず、耳元で恐ろしくしわがれた声をかけられた錯覚がしたからである。

 ばっと反射的に小刀を隠している背に手を回して身構え、暦もいつでも符を取り出せる体勢を構える。


 だが、もっと息を呑むことになった。

 正面にいたのは、おじいさんなんだから。

 とうに百を越えているんではないかと思わせるような外見で、真っ白でボサボサの髪の毛、しわくちゃの顔にとんがった鼻、細いのにやたらとキラキラ光る目をしていた。

 そんないきなり来て殺気立つ異様な十前後の餓鬼共に、おじいさんは黒猫を撫でて笑うだけ。

 反射的とは言え、全く私らの殺気など受け流しているのである。


 このおじいさん、何者?


 おじいさんは私二人と大上を、じっくりと目を細めて眺め見た後、


「ほれ……そこに突っ立っていないでさっさと奥の間へお上がり」

 とそう言って立ち上がり、後ろの部屋と私らを促した。

 黒猫がおじいさんの後についていきながら、暦と私をみる。

 はよ、あがりや。と言わんばかりの親しさで。


 暦と私は、毒気が一気に抜かれて構えを自然に解いていた。

 なんていうか、拍子抜け。

 でも、あのおじいさんが並みならぬ只者ではないことだけはわかった。

 私らはおじいさんの言葉に従って、奥の間へとあがった。

 おじいさんはにやりと意味ありげに笑いながら、お茶を丸いてーぶるに出して。


▼〇▼〇▼


 あれから、『地獄堂のおやじ』(本人が『おやじ』と呼べと宣言したので、遠慮なく『おやじ』と呼ばせて貰っている)にこき使われっぱなしだった。遠慮なく。

 早朝だろうが、夜中だろうが、夜明け前だろうが関係なく使い走らせる。

 春雪さんの頼みを聞いて、人質条件としてこのおやじは私達を呼びこき使っていやがっているのである。

 なんだよ私達の人権完璧無視した条件は。

 得しているのは春雪さんじゃんか。

 それに、自分だけ得している春雪さんは笑いながら答えたそうだ。


『どんどんこき使ってくれおやじ。特に時限爆弾を抱える黒髪の方はちったなまっているから丁度いい。あはははは』


 なんて放任主義っ!


▼〇▼〇▼


 そして、一週間が経って更に三日目の夕方前。


「ちょっとさー……こき使い過ぎじゃないあのクソおやじ」


 私は目の下にくまをつくりブーブーと口を尖らせて、溜めていた不満を吐く。大上は私の頭の上に乗っかって、大あくびしている。

 自分には関係ないといつもこの調子だ。


「仕方ないだろ。あそこにうちらは人質として今居候いそうろうしている身だ。文句なんていえやしない。大体、人質となんだかんだ言いながらわたし達にそれなりに世話焼いてくれるじゃないか。はっはっはっはっ」


 そんな不満な私を快活に暦はたしなめた。

 そんな彼も私と同じく目の下に隈をつくっている。

 彼の口調と表情は激しく穏やかであったが、目は決して笑っちゃいない。

 私は彼のその様子に、口をつぐむ。

 昨日……いや、今日の深夜二時辺り、お使いっぱしらされた途中、正体不明な奴の襲撃にあった。そいつ、意外と手強くて私達は生傷が絶えず、結局は取り逃がしてしまった。


 彼はそれまでむすっとしていた。機嫌が悪いのは、何もそれだけじゃない。

 来た初日早々に、私は使い慣れた極小ないふとあの小刀こがたなを回収され、暦は一切の術を封じられてしまった。

 それでまともな戦闘なんて出来ようはずもない。

 お互いボロカスになって、おやじがいる『地獄堂』に戻り、少し横になれば朝七時丁度に黒猫のガラコに噛みつかれて起こされた。

 朝食後、休みを与えられる暇なくおやじの意味わからん指示に従って、何かを取りに行かされたり、品物を手に入れるのに駆けずり回された。

『地獄堂』に戻れば、『呪符』という目的に応じて、呪文を書き付けた紙札を作るために私は和紙を何枚も何十枚も、のーとを縦半分にしたくらいの大きさを切らされた。ないふを滑らせて。

 暦はその私が切った丁度よい大きさになった和紙に、墨をすわせた筆を持って丁寧に書かされていた。一枚、一枚。

 それが一段落した後夕方になりかけているっていうのに、イラズ神社に行かされた。

 用事は、とりあえず焦げ茶色の着物を着た人物に薬を届けよ。とのこと。

 私らはブーブー言う気力なく、大上を連れてイラズ神社へと大人しく赴いた。

 寝不足気味の重たい足取りで。


 だが、神社には行ったが境内けいだいに入ることはなかった。

 その鳥居の前の階段に座り込んで、例の『焦げ茶色の着物の主』が手を振って待っていたのだ。


 その人物に薬(何の薬か不明)が入った紙袋を渡して、代金の代わりに品物を頂戴する。

 私達とおやじの言伝てで会う人は大体物々交換が支流だ。

 大概品物の中身は謎だけど。


 そのひと(暦が言うに人ではない妖怪なんだって)は、ニコニコ笑い何故か私らの頭を撫でた後、銀の鎖のぶれすれっとを二つくれた。

 そのひとが言うに、


「今日は貴方たちにとても酷い災難が降りかかったでしょう? 大事に大事に身に付けなさい。そうすれば、今よりは幾分マシに深い傷を受けることは少なくなるから」


 暦は、はっとした顔をしていた。予想外だったらしい。

 私らは礼を言い、その見極めたひと(何の妖怪かは知らない)と鳥居の前で別れた。


 別れた後、すぐ鳥居を振り返り見たが姿はなかった。

 最初から居なかったみたいに、イラズの森は静かで。


▼〇▼〇▼


 イラズ神社を出て、イラズの森を歩いている道中にガラコと遭遇。

 私や暦を見るなり、超特急で飛びついてきた。

 最初、ガラコは暦の肩に乗っかっていたけど、その内に私の肩に飛び乗った。今は私の腕の中にいる。

 飛び乗る時、頭に乗っかる大上を少し警戒して、様子を窺っていた。大上とはちょっとした上下関係があるみたい。大上が雑に尻尾振ってからガラコが飛び乗ってきたから。

 今は機嫌良くゴロゴロ喉を鳴らしているけど、さっきまでイラズの森を歩いていた時は、「ヒヒヒヒヒッ」と愉快げに人の声みたいに笑っていた。

 ………ちょっと気味悪かった。

 でも、金色の目はかわいいわ。毛並最高。長い尻尾は美しく。文句ないほど、満点過ぎる黒猫。

 だから、人のような声で笑っていようが私の心は変わらない。

 ガラコ、最高に可愛い!


 ぎゅうと抱き締めると、ガラコが機嫌悪そうに鳴いた。少し苦しそうだった。

 そして、噛みつかれた。

 だったのではなく、苦しかったそうだ。

 大上が翻訳してくれたのでわかった。このやり取り………魔女の宅急便のキキとジジなったみたいでちょっと嬉しい。だけど、大上が黒猫じゃなくて狗で、私が魔法使いじゃなく、只の人であるのが残念だ。

 魔法使いと黒猫なら、陰陽師の暦と釣り合えるのに。

 全くつまらない。


 ガラコは私の手を噛みついた後も、腕の中で大人しくしていてくれた。

 ガラコのお陰で、楽しく(?)帰り、『地獄堂』へと戻った。今日の夕食は何にしようかと暦と話し合いながら、暖簾のれんをくぐって。

 そんな、状態で私たちはある六つの目の視線に気づいていた。

 子ども三人が、イラズ森から出た後に私らの後をつけていたということ。


「てっちゃん……例の竜也兄が言っていた変わった二人とあの変な犬………? が、あの『地獄堂』の中に入って行ったよ」

「何であの子らが上院小に来てないのに姿を見かける理由がわかったね」

「ああ。あのおやじ全然口割ってくれなかったからな」


 つんつん頭、フワフワうさぎ頭、サラサラ黒髪頭の小学生がそう交わしていた事は知らなかったけど。

 後に、噂で聞いていた『町内イタズラ大王三人悪』だと知るのはまた後になる。


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