コウフク±㌻/私は賢者のように賢くなれない。

かめわらじ
@tatamiwaraji

3、人ではないヒト達。

 魔法のマグル世界は晩秋。

 しかし、今回は暦の用事とやらでなんとか衣装箪笥の制御を奪って、何処かの『日本』に居た。

 しかも、季節は、真夏真っ盛りで、暑いったらないのに坂を登っているのだ。

 夏の照り返しが凄くて、肌が焼かれそうに暑い。日本は湿気があるから、尚のことベタついて気持ち悪い。

 でも、日本だなあと分かるから、心のどこかで安堵する。

 しかし、本来ならもっと汗をかきまくって肌に張り付いたてぃーしゃつが気持ち悪さを増させて最悪な気分で坂を歩いるのだろうが、暦から貰ったで暑くなかった。

 その符は手首に巻き付け、それを隠すためにりすとばんどをつけている。

 多少の暑さは感じるが、風がくれば涼しいくらいだ。

 暦は符じゃなくてもリストバンドに応用出来ないか、試作段階中なんだそうだ。


 暦のお陰で暑さに弱くすぐへばる私でも、何とか坂を登っていた。暑さ軽減されていいが、やっぱりキツイことに変わりはない。


「この道で本当に合ってる?」

「合ってる。この先に外装が既に人を寄せ付けないようなお店があるんだ」


 へぇーと疲れに雑な相づちを打つ。

 ちなみに、今の私の格好は、すぽーてぃー。彼も平安の服装ではなく、現代のすぽーてぃーな格好。

 彼は野球帽子を深く被って瞳を見られないようにしていた。人の好奇な視線が嫌みたい。だけど、くるぶしまである白灰しらはい髪は事情により切れない故に長すぎて隠せないので、適当に結って伸ばしていた。それにより、歩く度に動いたり跳ねたりしてこの上なく邪魔そうだった。

 顔立ちと瞳が日本人でなく注目されるのが嫌で私も帽子を深めに被っているが、暦と違って肩まで伸ばした髪を野球帽の中に入れているから、全然邪魔にはならない。

 でも、そろっと髪を切ろうかと考えている。暑いと肌にへばりつくからね。


「暦はそのお店にちょくちょく世話になってるって訳か」

「………世話になっていると言うえば世話になっているけど、いつも雑用を言いつけられてこき使われるのが大半だよ」

「そー言えば、春雪さんが一番こき使われてたんだっけ」

「そうだね……あいつ、あの人に借り作りまくったどころか、何十年も一緒に暮らしていたみたいだ。だけど、ある日居なくなって大変迷惑をかけてしまった。で、その恩を仇で返した春雪共々罰としてわたしもこき使われてるって訳。わかった?」

「お前も苦労してんだな……」

「そりゃそうさ。つぐなんかより苦労しているよ。わたしからしてみれば君の方が繭にくるまれたように育てられた人間だと思うよ。前世を絶って全くの別物として」

「? それどーゆう意味?」

「………別に。何でもないさ」

「?」


 急な坂に上がるのを、気を紛らわせる為にダベっていたが、暦が妙な事をいって誤魔化したので空気が変な雲行きになりかけたところを、急に何かがこちらへ飛び出した。

 目立つ赤髪が目につき、そのままその子は暦に突撃をかます。


「ぐえっ!」


 カエルが潰れたような声を出し、その後咳き込む。

 突撃を食らわせた子は、


「暦、俺ずっと待ってたんだよ!」


 声を大きくして言った。暦は咳き込みながらも、片手を上げて待ってくれと制するが、その赤髪の男の子は止まらない。


「前より背が伸びた? 伸びたよねっ! でも、また縮むから関係ないけど、伸びて俺凄く嬉しいよぉー」


 嬉しそうに言って、暦の両手を取ってブンブン振る。

 横にいる私の事は眼中にないくらい、暦に会って嬉しいようだ。


「一日前に電話で、そっちにもう少しで行く。って連絡聞いたから張って待っていたのに」


 来るの遅すぎだよ。何かあった? とまるで自分の弟みたいに、心配して聞いていた。


「いや、ちょっと此処まで行く過程で凄く美味しそうなご飯屋さんにつられて巡っていたら、電車の路線間違えて」


 暦が珍しく素直に本当の事を伝えた。


「そんな時は『電話しろ』って師匠言ってたじゃん。電話してくれたら俺がすぐにでも迎えに行ったのに」


 赤髪の子はぷうと頬を膨らませる。


「本当ごめん、そうするつもりだったけど……電車に乗るなんて久しぶりだから、一緒に居た友人とテンパって気が回らなかったんだ」


 暦はすまなそうに言い切った。私を共犯にして。

 いや、お前がこの電車に乗ると美味いラーメン屋が軒並み連ねているんだっ! とか言うからいつの間にか見当違いな電車に乗っちまったんだろうがっ。

 それに赤髪の子は、『友人』のくだりで彼の隣にいる私に気付き、


「うわあ!」


 と悲鳴を上げて暦の背に回った。

 暦は十前後の子どもだから、隠れようにも小学校五年生くらいだから、どうみてもはみ出てしまう。それでもその子は隠れているつもりらしい。


「そ、その子誰?」

「一緒にそっちに来るよ。と伝えた友人だよ、リベ。ほら前に話した人間の」


 そう暦に紹介されても、隠れたまま。

 暦はこれには、しょうがないなあと苦笑い。

 私は暦から話は聞いていたから赤髪の子の態度に何ら感じ悪いとか思わなかった。寧ろ、微笑ましい。


「こんにちわ。暦と一緒に暫くそっちの『深山木ふかやまぎ薬店』でお手伝いすることになった『つぐな』。よろしく」


 と右手を差し出す。

 その子も、おずおずと右手を差し出し、


「俺……リベザルっていいます。……よ、よろしくっ」


 真っ赤な赤髪に負けない、真っ赤な顔をして。

 やっぱり重度の上がり症らしい。私は苦笑しながら、宜しくとその右手を握り返した。


▼〇▼〇▼


 リベザル(途中で打ち解けた)に案内されて(行く途中でアイスを購入した)、例の『人が寄せ付けない店』に着いた。


 本当に寄せ付けない外装をしていた。


 これで改装したというのだから、あな恐ろしや。私でも入りたくない。

 看板はその外見に合わせたのか、『深山木薬店』と書かれた木の板。その木の板にすみで書かれたせいか、雨風晒されたらしく、文字が解読不能な程に黒ずんでいた。しかも、その脇に貼り紙があり、


『どんな薬でも症状に合わせてお出しします』


 なんてかかれているものだから、余計に雰囲気の拍車をかけている。


「………」


 予想以上の外見に沈黙していると、横でリベザルと暦は当然と当たり前にドアを開けて入っていく。

 春雪さんの知り合いなら、こんなものかなと。

 類は友呼ぶ。ともいう慣用句がある。

 春雪さんに似たような人じゃなきゃいいなーとか現実逃避しながら、中へと踏み入れた。


▼〇▼〇▼


 用途不明な棚らを抜けていけば、茶髪の顔立ちが整ったひとがそこにいた。

 そのひとが、ここの店長の『深山木秋』。

 彼が外見に反して、曲者であることは暦から聞いている。

 彼は私が目の前に来た途端、表情を変えた。

 全くの無表情になったのである。

 間近で無表情にされると、迫力ありすぎ。無駄に整った人は特に、だ。

 彼は右手を軽く顎に添えると、こちらにぐいっと顔を近づけた。


「ユハルが言っていた新しい家族の……………」


 その後、凄く考え込まれた。

 それを見かねて、紅茶を運んできた背の高い物腰柔らかな二十代後半の『座木くらき』さんが、助け船を出した。


「『つぐな』君で「わかってる」


 ぴしゃりと遮って、言った。

 私は名前を覚えていてくれたことに、驚いた。

 どうでもいいという分類に属されなかったらしい。

 というか、関係ないけど春雪さん、ここではユハルって呼ばれてるんだなー。まあ、この際どうでもいい知識だな。

 秋さんは私をそれでも見ながら、首を捻り、


「君、本当に『人』か?」


 直球でと酷いことをいう。

 だが、顔の筋肉が強ばった。核心をついていたからである。

 秋さんはその微かな強ばりに、目を細めて目敏めざとく見咎めた。

 それを察した暦が割り込む。


「秋みたいな妖はすぐ勘づくように、『わたし人外』と近しいんだ。名はその為の楔。だから、あくまで人なんだけど、『あくまでは人なだけ』だから、あの迷い道を無視して突破できたわけ」


 秋さんはそれを聞いて、顔を離れ、髪をガシガシ手で乱暴に乱すと深くため息を吐いた。


「成程。存外ユハルは毎回変なものを拾ってくる」


 変なものって……ひど……。

 彼はそれから、


「うん、ユハルが連れてきたものは大概癖があるけど悪いものでもないし、良しとするか。紹介が遅れた。僕は秋。ここの店長で、ユハルを拾って育てた親……みたいなものかな。ま、よろしく、『つぐな』」


 満面の笑みを見せた。猫みたいに目を細めて。

 どうやら受け入れて貰えたみたい。

 私は嬉しくなり、


「はい、こちらこそよろしくお願います『深山木秋』さん」


 心から頭を下げた。

 例え外見が英国でも、根っから日本人さは変わらないみたいだった。


▼〇▼〇▼


 あれから一ヶ月経ちますが、やっぱり暑い盛りです。

 今日も、『深山木薬店』にてダベっています。

 本当は一ヶ月のつもりだったんだけど、リベザルに泣かれて長く滞在することにした。

 私は子どもに甘い。特に泣かれると。

 その滞在の間に、久方振りに楽しくて夜遊びばかりしていた。

 リベザルと人間を化かして遊ぶのは中々有意義だった。暦と私は転げて笑いまくった。


 人間と妖怪が共存出来るじゃないかと思ったけど、秋さん曰く難しいだって。

 確かに暦だって人間の外見しているのに、あの時代ではそんな外見の人間は妖怪として怖がりあまつさえ、殺してしまえとか言って切り殺しにくるか、術で滅されてしまう。


 昔はそうだったろうけど、今は妖怪が人間に怯えているんだって。

 だって見つかったら今の科学の事だ。メスで切り刻んでまで調べあげようとするかもしれない。

 確かにこれは……とてもじゃないけど共存は無理。

 落胆していれば、秋さんが言った。


『でもそれは本人の気持ち次第じゃないかな』


 ある一つの事件に巻き込まれたけど、その言葉を聞いて私の沈んだ気持ちがすっと晴れ渡った。


 人間であっても、

 妖怪であっても、

 心を持つ者。


 心を持つ者なら、いつかきっと分かり合える日は来る。


 私はここの世界で人間が忘れていた情を学んだ。

 ひとつだけ私は、優しくなれた気がした。


 いつか分かり合える日が待ち遠しいかもと密かに思いながら、照り返す日差しの暑さに目を細めた。


「つぐなっ! 師匠がスイカ食べようって! 早く早くっ! 暦もっ!」


 そう言って赤髪のリベザルが私と暦の手を取って、引っ張っていく。


 寿命が違っても、種族が違っても、友達にはなれる。

 だから、私は妖怪に偏見なんて持たない。

 それが今の私に出来ること。


 日差しは何処までも暑く、だけど、太陽は何処までも優しかった。

2015/07/07

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