コウフク±㌻/私は賢者のように賢くなれない。

かめわらじ
@tatamiwaraji

2、散りゆく枯の葉は。

 大上衣装箪笥に食われる事件後、暦は衣装箪笥を何度も何度も点検し、研究した。

 暦が衣装箪笥に執着なまでに熱中した。

 大上衣装箪笥に食われる事件で倒れていた暦を起こしたところ、胸ぐらを掴まれガクガク揺さぶられながら説明を求められた。鬼気迫る顔で。

 私とは別に暦は転がり続けたのだという。これは怒るのは、仕方ない。

 私は暦の威圧に根負けして、『ナルニア国物語』のあの冬の国に居たという話をした。

 そう、その話をしてから、だ。

 衣装箪笥に毎日毎日飽きもせずに解明してやろうと熱中しだしたのは。

 こいつ、意外にふぁんたじー好きだったのだ。あの大陰陽師とか大好きいう、変わり種だったのだ。

「うわぁ………」と少し引いた目で見たら、無言で蹴りを入れられてしまった。

 微かに涙目だったのは、ショックを受けたからだろうか?

 フン、まぁ私をバカにした事もこれで流してやるのだから、丸く収まって両成敗だ。

 暦は時たま理不尽に箪笥にタライを落とされ気絶しかかることがあっても、奴の不思議への解明をやめることはなかった。

 その止めなかった執念というのが、私だけが何処かへ行ったという事がもっと理不尽だからだ! ときている。


 なんだそりゃ? 仲間はずれにされた子どもの理屈か。


 自分だってあっちゃらこっちゃら行っているくせに、全くワガママ坊っちゃんだけはある。

 それで暦は子ども染みた理屈と執念で、ついになんとか自分達の意思であっちらこっちらへと行かれるようになった。

 意味の分からない数式と、意味の分からない理論構築を紙にありったけの量を一心不乱に書き出した時は頭が可笑しくなったと心配したが、それはこの衣装箪笥の制御方法だったらしい。

 とは言っても、衣装箪笥の意志が百だとしたら、暦が制御するに十になるかならないかだった。

『どこでもドア』みたいになるには、衣装箪笥と今後格闘していくしかないようで。

 あぁ、それでもこんな形までにこぎ着けた暦って、やっぱり何だかんだ言いつつ、奇才研究者タイプだったんだなぁ……。


▼〇▼〇▼


 さて、今回も『あの大きな衣装箪笥』の経緯があって私は、紅葉が赤々と色づき散り舞うど田舎の『日本』にいた。

 今回も、私と大上だけだ。

 今年の紅葉は赤々と一層染まったようで、立っている木の下は落ちる紅葉でいっぱいになるだろう。私はあの踏むとカサカサと鳴る枯れ葉がたまらなく好きなのだ。

 そんないい秋日和に、駅通りを歩いていた。

 私はぶかぶかめの黒いこーとに、ふーどを被る頭には狼と狐が混ざり、大きさはオス猫くらいの体躯の生き物を乗っけ、右手には小さな花束、左手にやかん。

 田舎とは言え中心的なところの駅前周辺、こんなやかんを手にした子供がいたら、注目の的(まと)だろうけど、ちょうどサラリーマンの方や学生がはけた時間帯のため、歩く人もまばらで見ている人は随分と少なかった。

 私は懐かしさに目を細めながら駅を遠ざかり、目的の場所へひたすら足を進めた。


▼〇▼〇▼


 目的の神社に辿り着くと、小さいが立派なお社に買ってきた花を供える。

 その際、神酒(罰当たりだけど、あったのはやかんしかなかったのでそこは勘弁してもらいたい)を器に注ぎ、納めた。

 その小さなお社の前で気が済むまで立ち尽くした。

 屋根がついても、裸足であがった足の寒さは防ぎようがない。

 足裏が凍りのように冷たくなる。


 私の頭の上に乗っかる大上は、私の気が済むまで待ってくれた。


 寒いのに。凍える程寒いのに。


 だけど、寒さを感じる身体に反して、涙は止まらなかった。

 私は君の前まで、傲慢な自分など演じられそうにない。


▼〇▼〇▼


 久々に我が家を訪れてみれば──国に国宝なんちゃらか歴史建築物文化遺産として寄贈されてしまったようで、我が家はなくなっていた。

 私は縁側に座り、良く手入れされた庭を眺めた。

 私が居た頃よりも、ずっと綺麗に整えられた、見事に色づいた紅葉が舞い散る庭を。


 私が魔法界に転生してから、ようやく此処ここに訪れた。


 妹達が住んでいた世界。

 私が転生する前にいた世界。


 私の家族に、墓はない。

 墓はないが、昔からこの土地に幅を利かせてきた『あの旧家』はその圧力を持って小さな神社を建たせ、その昔からの権限で代々を通して家族全員全てを奉って貰っている。

 つまり、かの藤原道真や安部晴明のように神様化させるのだ。

 とは言ってもそんな大事なことではない。

 小さな、小さな神様ズといったところだ。

 まあ、全滅した今となっては、生前の彼女の代で絶って久しく───本当の神様になってしまった訳だ。


 そのお社は神社に二つ建たせてもらっている。

 本堂は代々の先祖や父や妹達が眠るところ。

 小さなお社は、最後に残ってこの時代に生をまっとうした、君だけは家族とは特別に離れて眠って貰っているお社。


 君が死んだと聞かされたのは、私が魔法世界に転生してから十年後の事。つまりは、一年前に聞かされた。

 あんな家族が惨殺した目に遭って……、彼女は生き抜いた……。


 私が最期に宛てた言葉通りに、病魔に侵されたボロボロの身体の命が、尽きるまで。

 あの『旧家』での呪われた血筋と共に、伴侶を共にすることなく独り朽ち果てるまで。

 君は、強靭な精神を持って、あの家の代々の当主より誰よりも当主らしい人間で、君の代で絶ってくれた。

 これで私達のような被害者は、もうこの世界に出ないはずだ。

 彼女が命を持ってして、絶ってくれたから。


 そして、かつて彼女が病魔に侵されながら死ぬまで眺めていたであろう立派な幹を持つ紅葉の木を見上げる。


「すまない……」


 口にしたところで、君はもう、帰っては、来ない。

 妹達も、だ。


 彼女達の笑顔を見ることも出来ない。

 只、私と離れていれば、幸せでいられる。

 だから、手に届かない存在だとしても、私は君達の幸福を願う。


 何もかもが途絶えた現実にあるのは、君の姿ではなく散りゆく枯れ葉だけ……。


 私が去った後も、彼女がいつも“孤独”の中で見ていた景色の庭先の枯れ葉が舞い散る。

 その長年私が課した“孤独”のせいで君は“絶え切れない孤独”に毒されて、君が君でなくなってしまったのを表わすように、散ることを止むなんて知らぬと木の葉は何処までも健気に最後の一枚になるまで、落ち続けた。

2015/07/07

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