コウフク±㌻/私は賢者のように賢くなれない。

かめわらじ
@tatamiwaraji

【賢者番外/ダドリー編】/1、通づる夢の衣装箪笥。

※▽※▽※②


 不思議な男の子に会ったのは、私が六つの時の出来事。


 私はいつものように裏庭で魔法を使っていた。

 私には当たり前で、それが普通の出来事だったから。

 なのに、その日は全く、………違った。

 マグルの男の子三人が、我が家の庭に入ってきたのだ。何が何だか良く分からない私に男の子達は魔法を使えと何度も責め立てた。

 六つだった私は魔法力など制御など出来なかったし、見せたくても怖くてできなかったのだ。私が出来ないと知ると制裁を加えさせた。

 勿論、分かりやすい『暴力』だ。


「さっきのなんだよもう一回やって見やがれよ!」

「おい、聞いてんのかよ!」


 馬乗りにされて頬を殴られ、髪を引き千切られるんじゃないかというほど引っ張られ、蹴られて、私はボロボロだった。


 その時はもう───身体を縮めるしかなくてアルバスお兄ちゃん、アバーフォースお兄ちゃん助けて───「お兄ちゃん、お兄ちゃん、お兄ちゃぁぁぁぁああん、助けてぇぇぇえええええ!!」


 おいおいこいついっちょまえに人呼んでいるぜと三人はせせら笑った。


「誰がお前なんかにくんだがぇ!」


 私のお腹を踏み潰そうとしたマグルの男の子が、吹き飛んだ。

 家の壁に叩きついた。


 一瞬の出来事に、私も私に暴力を振るった二人の男の子も動きを止めた。


 そこに、可愛らしい猫ほどの犬を抱えた綺麗な顔立ちの男の子、が立っていたから。


 明らかに私たちより年上そうの、子。

 綺麗な薄い灰色の瞳に、濡れ羽色の黒髪、ここらでは見かけたことがないほど整った容姿。妖精が人に化けていると言っても疑えないほど、彼の容姿は浮世離れしていた。

 その彼の腕の中に抱かれていた犬は狼のような低い唸り声を上げて、こちらを睨んでいた。

 いや、正確には残りの二人の男の子を、噛みつかんばかりに牙を剥き出しにして睨み付けている。そんな怖い犬を男の子は笑いながら撫でた。


「おい、オオガミ。いくらなんでも腹立だしいからってやりすぎだって」


 ポンポンと頭を軽く触りながら、


「まぁ………気持ちは、分からなくないけど、さ」


 笑っていた表情から一転、突き刺すように男の子はこちらを睨み見た。


「お前らさぁー、人ん家勝手に上がり込んだ上に、男として最低な事してんじゃねぇよ」


 そう言って犬を芝生に置くと同時に地を蹴った。

 無防備な男の子の片割れへと飛び込み、胸ぐらを掴んで殴り飛ばした。

 一度の打撃で男の子は、植え込みまで吹き飛び、動かなくなった。

 それを見てようやく逃げ出そうとした男の子の腕を掴むと捻りあげた。

 つんざく程の悲鳴を上げたが彼はお構いなしに、後頭部に肘を叩き込んで静かにさせ乱暴に離した。

 男の子は芝生の上に伸びたまま。


 あっという間の出来事だった。風が通りすぎたように、あっという間。

 呆然としている私に男の子は駆け寄って、起こしてくれた。

 スカートについた汚れを払い、


「大丈夫……じゃないか…。えっと、」


 私を心配そうなあの吸い込まれそうな薄い灰色の瞳で見てくれた。

 私はそんな彼を落胆させたくなくて、必死に乾いた声を絞り出す。

 だけど、


「だ、だいだいじょうぶ……。………わ、私は、あい……あ……あぁ」


 全然、身体が震えて声にならなかった。

 お兄ちゃんはガクガク震える私の手をとると、荷物から何かを取り出して、それを私の手に握らせる。


「こ、こ……な、なに?」

「取って置きのおまじない、教えてあげる」

「お、おまじ、ない?」

「うん。『おまじない』。この事を思い出したら、これを強く握りしめてゆっくり深呼吸するんだ」

「しん、こ、きゅう?」

「良く吸って大きく息を吐く。それを繰り返すんだ。それだけで大分落ち着くからね。絶対、やるんだよ」


 彼が余りにも真摯に言うので私は、ただ頷くしかなかった。

『おまじない』というから、彼も私と同じ魔法族だろうか?


 そんな事が余裕に考えられて、気づけば私の震えは収まり、あんなにどうにかなりそうだった自分の魔法力も収まっていた。

 私の様子が落ち着いたのを見て取った彼は、安心したように微笑んだ。

 華が咲き誇ったような、笑み。


 同じ男の父や兄弟だとしても、こんな綺麗な笑みは見たことない。

 私の身体が急に、火照った。

 あれだけマグルの男の子たちにボコボコにされて、痛かったのに。

 私は、彼の笑顔だけで、殴られるぐらいの衝撃を受けた。

 そのショックか、私はすぐに声が出せた。


「わ、私の、なまえ、はね、あ、アリアナ。アリアナ・ダンブルドア」

「ダンブル、ドア……」


 何故かお兄さんは妙に青ざめた顔をした。

 どうして、名字を聞いただけで青ざめるのだろうか?

 だが、当時の私はそんな事を構っていられなかった。

 彼の名前が一番に知りたかったのだ。


「お、おにい…ちゃんの、なま、えは?」


 私の? と首をかしげる彼がもどかしくて彼の服を引っ張って急かした。

 彼はしばし逡巡しゅんじゅんし唸ってから、口を開いた。


「名前はダ……イダッ」


 お兄ちゃんが名前を言おうとして、狼みたいな犬に顎を軽く頭突きされていた。

 それが面白くてつい声を立てて笑うと、


「アリアナっ、アリアナッ!!」

「おい、てめぇ人ん家の庭で何しやがる!」


 十になるアルバス兄と八つになるアバーフォース兄が駆けつけた。

 兄達の顔を見るなり彼はさっきより青ざめて、やっばぁ! とかなんとか言ってオオガミと呼んだ犬を抱えて、


「じゃあね、アリアナちゃん!」


 手を振って彼は走り去った。植え込みへと飛び込んで。

 またあっという間だったから声もかけられなかった。

 彼は別に悪いことしてないから自分から去る必要なんてなかったのに。

 寧ろしばらくは一緒に居て欲しかった。

 駆けつけてくれた兄さん達には悪いけど、兄さんたちを少しだけ恨んだ。

 だって、彼はもう少しだけ私の側に居てくれたかもしれないし、名前を聞き出せたかもしれないのに。

 私の姿に二人の兄は悲鳴を上げ、誰よりも賢くて魔法の才能があるけど秘密主義のアルバス兄はすぐに私を抱きかかえ頭を必死に撫でた。

 ヤギが好きだけどすぐかっとなりやすいアバーフォース兄が、


「待て、この野郎!!」


 植え込みに逃げた彼を捕まえようと追いかけようとしたから、


「や、ヤメテェッ!!!」


 自分でも思っても見なかったほど甲高い声が出た。


「「アリアナ?!」」


 二人はギョッとして私を見た。

 私は二人の視線にギクリとしながらも、口を開く。

 早く言わないと倒れているマグルの男の子と一緒にされてしまう。


「あ、あの、あのひ、と………わ、私を、たたすけて、くれた、の!」

「じゃ、じゃあなんで逃げやがった! 助けたなら、逃げる必要ねぇだろうがっ! 後ろめたい事があったから逃げたんじゃねぇのか?!」


 あの人の悪口を言われて私はカッとして、力の限りこう言い放った。


「あの、素敵なお、お兄ちゃんと違、って、アバー、フォースお兄ちゃんの、顔が、こ、怖い、から逃げたのよっ!! 私、だって、アバーフォースお兄ちゃんの顔、怖いわ!!!」

「アリアナッ!?!」


 何故かアバーフォース兄はショックを受けた様に膝から崩れて、両手を地面につけた。

 この人、一体何しているんだろうか……。

 私を抱えたアルバス兄が何故かアバーフォース兄を不憫そうな目で見ていたが理由は、どうも私には分からなかった。

 けど、あの人が私にくれたお守りは、あったかくてぎゅっと両手で握りしめると心が落ち着いた。

 あの笑みを思い出して、尚更。


 そして、───私は、会いたいと誰よりも願った。

 命に代えてもいいよと強く、強く願った。


 その願いを、誰かが聞き届けたのは、やっぱり神様が見ていらっしゃったからだわ。


※▽※▽※


 マグルのろくでなしどもに暴力を振るわれてから妹の様子がおかしくなった。

 魔法がうまく使えず暴発する頻度も増え、あのマグルらに怯えるように閉じ籠るようになった。

 そして、誰の言葉に反応しないで妙にぼーとして窓から庭を眺めている日も、着実に増えた。

 妹に暴力振るったあの忌々しい庭を。


 腹が立つ兄アルバスは、確かに病気な部分もあるが、あれは妹を助けてくれた少年に会いたいんだ。と言っていたが、俺はそれが忌々しくて仕方ない。

 確かに頭は少し不思議な子だったが、アバーフォースお兄ちゃん! と俺の後をついて回ったというのに。


 今じゃ、庭を眺めて「……………そう」とだけだ。


 妹は賢いアルバスが苦手なのか、話しかけない限り口も利かない。というより、あの手にあった布で出来た小さなお守り? をアルバスが妹の手から盗ってから口を利かなくなかった。

 あれを持っているだけで、内側に魔法力がこもり爆発しそうになるところが、さっぱり静まる。

 アルバスはその原理を調べるつもりだったらしいが、そのせいで感情が高ぶった妹は魔法力が内側にこもって爆発し、おかしくなった。


 原理を理解できず仕舞いだったが、身を持って分かった。

 あれを少しでも離したらアリアナは、精神的にも魔法力もおかしくなると。


 忌々しいことに、妹はあの少年で持っているのだ。

 お守りに、少年からの言い付けで。


 心も、あの少年に妹はいってしまった。

 もう、俺たちに前のような姿は見せない。


 俺はアイツに感謝しなくてはならないが、同時に憎たらしい。


 妹の心は、俺たち家族のことが一ミリも入っちゃいない。

 いるのは、妹を助けた少年。


 今度顔を会わせたら、まずは殴らせて貰うからな黒髪ッ………ッ!


▼〇▼〇▼


 はっ! と目を覚ますと、薄暗い部屋の埃っぽい床に倒れていた。

 大上を下敷きにして。

 息苦しいと唸っていたので慌てて上体を起こして、大上を腕に抱えた。

 隣を見ると暦も倒れていた。

 私は慌てて後ろを振り返る。

 そこにはあの、タライが落ちてきた大きな衣装箪笥。

 取っ手に手をかけ開き、中を覗いたがやっぱりかび臭い上に埃っぽいだけで、タライが落ちてくることはなかった。

 埃を吸い込みかけ、ケホケホと咳き込みながら扉を閉めた。


 やっぱり、あの衣装箪笥であった事は夢だったのかもしれない。

 はぁ……とため息をついて前髪を掻き分けて、何か手に感触あった。

 それを摘まむと、まだ青い葉っぱだった。

 私は、床に目を落とした。

 あの植え込みへと飛び込んだ時の、葉っぱが床にところどころ散っていた。

 葉っぱを一枚拾い上げ、『アリアナ・ダンブルドア』と名乗った女の子を思い出した。


 あの、ダンブルドア兄妹が幼少期の時代に居たあれは、夢では……なかった、ようだ。

 この衣装箪笥は、不思議の国のアリスのように、違う世界に夢として繋がるということだろうか?

2015/07/07


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