コウフク±㌻/私は賢者のように賢くなれない。

かめわらじ
@tatamiwaraji

【賢者番外/ダドリー編】/1、通づる夢の衣装箪笥。

 私がいるマグル界の英国も秋真っ盛り。

 なんとか転入手続きをくりあし、山奥の集落の学校に入った私は学業と読書と屋敷修繕と掃除と、老人の食事の世話の日々に明け暮れていた。

 学校が決まったのはいいものの、私のほーむすてい先がないことに問題。

 なんせ小さな集落な上に山奥に、州を跨いで車を走らせなきゃいけないほどの遠さ。

 これでダーズリー家があるサレー州から山奥として行き来するなど無理。

 ほーむすてい先を快く引き受けてくれたのは、あの大きな屋敷に住まう老人であった。

 老人曰く、ペチュニアさんを昔ここに住まわせていたからなんの事もないんだそうだ。寧ろ、孫が来たようで嬉しいと喜んでくださった。

 あのままの流れで結局、暦も一緒にほーむすていすることに。

 何日間ペチュニアままが居てくれて美味しい料理を口にできたのだけれど、探偵助手の仕事が入り大慌てで車に乗って、サレー州まで帰っていったのは残念だった。

 仕事に余裕が出来たらこっちに顔を出しに来るわ。と言っていたが………あのヘボ探偵はこき使うことで有名だから一、二ヶ月は来ないだろうなとにらんでいる。その睨み通りに電話は毎日じゃんじゃん来ている。

 夜中だろうが、朝方だろうが時間は問わない。

 暦は余り他の雑事は手伝ってくれないが、炊事だけは必ず交代でしてくれる。自分で作った方がうまいんだとよ。

 これだから何でも出来て舌が肥えた坊っちゃん育ちはっ!

 とにかく、ダーズリー宅では考えられないほどバタバタと忙しく動き回り、意外に充実した日々を送っていた。


▼〇▼〇▼


 ある日の事。

 出された課題を済ませるために、大机をいつものように占拠して本を山積みにしながら宿題を少しずつ消化していく。後残り課題がひとつとなったところで、


「ねぇ……なんか飽きない? 毎日単調でさー…つぐ、なんか面白い事知らない?」


 座っていた動く梯子から顔を上げ全体的にわがままな暦は、占拠した巨大書庫の本を読み漁りすぎてそんな事を言い出した。

 しかし、当然ながら無視である。

 私は一応学校に通っている学生さんだ。出された課題に終われて必死に終わらせようと躍起になっている何処にでもいる成績がちょっとばかりイマイチな学生さんだ。

 成績の事はそれなりに気にかかるのだから、暦と違って必死にならない訳がない。

 なのだが、関係ない暦はそんなのお構いなしに読みかけた本を置き、二めーとるある梯子からよっと飛び降りてつかつかとこちらへ寄ってきた。

 私が嫌な顔をするのもお構いなしに、押し退けて今取り組んでいる課題を覗き見た。


「へぇ……この土地の風土に、英国の歴史をレポートにしろ的な内容か。こんなに本を山詰みにしてまで必死に書くことなの?」

「うるさいなっ! 私はお前と違っていい回路じゃないからこの課題で忙しいんだボケッ」

「は? こんなの高校生だった君なら簡単に書けるでしょ。サラサラッと」

「今それ持ち出す? 大体十年以上前の話だろ。忘れたわっ───……?」


『忘れた』で思い出した。

 この屋敷のどこかにある衣装箪笥。

 ──『ナルニア国物語』を読むたびに、あの衣装箪笥にあった事を思い出すのだ。

 あのまま行ったら一体どうなっていたんだろうか……?

 気になる……めっちゃ気になる。あそこであった事はかなり、………教えたくない。私だけの秘密にしたい。


 私は何でもない風に、あっちに行けと暦を押し退け課題に取りかかる。

 しかし、面白い事に飢えている暦は些細な反応すら見逃さなかった。


「なんか面白いこと、隠してんでしょ」

「お前が期待する面白いことなんかねぇよ」

「ということは期待しなくてもなんかあるんだ。一体何それ。期待外れでも気になるなぁ」


 どうやら暇潰しなら何でもいいやと逆に興味を持たせてしまった。くそ、こいつ一体興味持ってこうなるとメンドクサイんだよな……。

 女子高生だった時も散々後つけられて、とにかくウザかったなー……本当に。

 殺して解体したいくらい、ウザかった。

 私の苛立ちがそこまで達する前に、教えることにした。


「わーたよ。後で教えてやるよ。この課題が終わったらな」


 しっしっと犬を追い払うように暦を追い払うが、その仕草に苛立ったのか課題に取り組む私の頭をガシッと掴んでガンッと机に押さえ込まれた。危うく舌を噛みそうになる。


「て、めぇ………私が穏便にするーしてりゃ付け上がってんじゃねぇぞ、あぁ?」

「君こそ、わたしが苛々していんのを隠して接してやってんのにバカが移るような仕草、やめてくれる?」


 お互いギリギリと睨みあったが、暦が先に私の頭を押さえ込んでいた手を離した。

 いつもこうしてギリギリに喧嘩になりかけるが、どちらかがどうにか半歩引いて収まるのだ。

 この野郎……衣装箪笥に入った途端真っ先に後ろから蹴り入れてやるからな。


「まぁ、いいや。つぐ相手するより面白いもんが先だもんね。ほら、課題寄越せ」


 頭をさする私の前から最後の課題を持っていく。私が少しだけ書いた内容を一瞬だけ見て、ペンを手にするとその続きから書き出した。

 はっ? となるほどの勢いでペンを走らせ、ものの十分もかかることなく白紙に近かった紙は埋った。

 一時間かかるところを、十分……ッ!


 私は暦のクソ頭を羨んだ。激しく。

 神様余りにも不平等だ!


▼〇▼〇▼


 一度部屋に戻って課題を置き、荷物と大上を持ってきて、例の大きな衣装箪笥がある部屋に案内した。

 薄暗く妙に埃っぽい部屋に暦は嫌な顔をし、大上はくしゃみをした。

 大きな衣装箪笥の前に立っても───暦は開けようとしなかった。

 なんせ、蜘蛛の巣とか埃がつきまくっているから、触りたくないのだと言う。


「本当に……向こう側に繋がったって言う訳?」


 こっちに来るお前に、お前大丈夫? みたいに頭の中身を疑われると殊更(ことさら)腹が立つ。

 私に抱っこされている大上は大あくびして我関せず。


「だったら止めれば? 別にお前にお勧めぇ~としているんじゃないんだしさ。まぁ、私は? 試し、ます、けどねっ。さぁ、とっとと帰りな坊っちゃん」


 チャンチャラ可笑しいと鼻先で笑い飛ばすと蹴りを入れられた。

 勿論蹴り返したけど、避けられた。クソ、ムカつき過ぎて胃が痛い。


「………その区切り方、本気で苛立つんだけど……まぁ、暇潰しだ。本当じゃなくてもつぐが頭が沸きましたという話で済むものね」


 暦は仕方なさそうに肩を竦め、取っ手に手をかけて開く。

 両扉開けると、むっとするほどかび臭い、ばしっ!

 暦は直ぐ様扉を閉めた。

 こいつ………本当に坊っちゃんなんだな……。そーいえば、いつでも誰か側にいて世話してくれるとか。どんな至れり尽くせり生活だよ。

 半眼で暦を見ながら大上を撫でていた私に、


「つぐ、中入って」


 とか言い出す。

 本当にこいつは………春雪さん甘やかし過ぎだからこんなムカつく性格になったんじゃないの?


「ふん。そのつもりだっつーの。お前は準備不足だから部屋に戻りな」

「つぐの間抜けな様子を見たら戻るよ」


 ほら、見てやるから。と暦はニヤニヤしながら、くいくいっと顎で衣装箪笥を示す。

 完璧馬鹿に仕切った目でこちらを見てやがるし。

 ムカつく、ムカつく、ムカつくっ!! ムカつき過ぎて胃がムカムカする!

 ふん、見てろ! 後でお前の吠え面拝ませて貰うからな!


 内心苛々しながら箪笥の取っ手に手をかける。

 あの光景が目に浮かんで、私の胸が高鳴った。

 暦は馬鹿にして全然鼻っから信じてないようだけど、私は絶対に通れる予感はあった。

 私の予感は、生前の時もよく当たっていた。


 私は暦の白い目など気にせず、さぁ、行くぞ! と扉を開け、大上をしっかり抱えて勢い良く飛び込んだ!

 いざ、新天地へぇぇぇぇえっ!

 すれば、


 バイィィィィイイインッ!!!

「がふぅうっ!」


 箪笥の壁が目の前にあって、私は勢い良く顔面から撥ね飛ばされた。


「予想だにしなかった間抜け場面っ!」


 暦はすぐに反射的に突っ込んだ!

 私が背中から床に叩くのと同時に、バタンっ! と両扉は勝手に閉まる。


「なんか扉が勝手に閉まりやがったッ!?」


 見ていた暦は驚愕の声を上げたが、ヒヨコがピヨピヨと踊り回る私にしてみれば些細なことだった。

 う゛ぅ゛……と呻く私を、ださいなぁと腹立つ事を小さく溢しながら暦が起こしてくれた。ダサくて悪かったな……。

 私は腕に抱えたフワフワもこもこで静かな大上に───ってあれ………

 周りを慌てて見渡すが、吹き飛んだ形どころか姿形もない。


「大上が居ない! はっ……私達の会話が馬鹿すぎてどっか行ったのか?!」

「バカッ! つぐがあそこの箪笥に飛び込んだ時まで抱えていただろうがっ」

「……ってことは、」

「…箪笥に、食われ、た?」


 暦の発言に、真っ青になる私。

 言った本人も、真っ青だ。


 大上は一応ながら、神として人間に奉られていたらしい。だから、大上はそこんじょそこらの妖力が半端ない。

 前に「そんなに強いのー?」と馬鹿にしたら、私が手にしていたすぷーんを、大上がただひと睨みしただけでいとも簡単に『ぐしゃぐしゃ』に丸めてしまった。

 マジで、本物だった。


 私と暦は顔を見合わせる。

 つまり、食われたとなれば即ち、それ以上の化物が生まれてしまう!


 私と暦は大慌て箪笥まで駆け寄り、扉を開けて二人して顔を突っ込ませた途端、


 ゴーン!!!

「ごっ?!」「べっ!?」


 何故か箪笥の中からタライが降って頭に直撃ッ!

 なんで?! とか思う暇もなく、二人揃って大上を食った箪笥から落ちていってしまった。

 転がる様は、『不思議の国のアリス』のような感覚だった。


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