コウフク±㌻/私は賢者のように賢くなれない。

かめわらじ
@tatamiwaraji

3、真紅の瞳の訪問者。

『お前は『例のあの人』と激しく死闘を繰り広げて気絶したことにしろ。そうすればお前が気絶している間に、俺が全て後始末をする』


ハリーはヴォルデモートに勝利後、スネイプの指示通りに自分に向けて失神の呪文を放った。

力強く、数日起き上がれないくらいに。

そして、まんまと気絶したハリーはそのまま、3日間医務室のマダム・ポンフリーに看病されていた。


▼×××△


あれから意識を取り戻すと、自分が横になっているベッドの近くに誰かいる気配がした。

そちらに何気なく目を向けると、───椅子を引いて足を組んで本を片手に読みながらコーヒーを啜る、マグルである従兄のダドリーが、───いた。


…………………は?


頭の中が真っ白になった。


閉じた瞼の上をこすぐって、再度見た。

黒髪に特徴的に薄い灰色瞳、男女でも振り返る美貌の造形で、年の割に細身で華奢な手足。


「ダ………ダドリィー?」


そう声をかければ、


「あ?」


本から顔を上げれば───眉を寄せた不機嫌面の見慣れたそれは、紛れもない従兄のダドリーだった。


「なんでこんな所にダドリーいるのッ?!」

「ん?あぁ、えっとな、……なんて言ったらいいかな……ま、夢になるからいいのか。あのな、単刀直入に言うと私はあの大きな衣装箪笥から来たんだよ」

「は?」


衣装箪笥?『あの大きな衣装箪笥』ってなんだ?なんの衣装箪笥だよ。というより………何いってんだ?

ついに頭の中の正常な部分が、何処かへ行ってしまったの?


「お前今失礼なこと考えたろ」

「いえ全然でがんすっ!ダドリー親分っっっ」

「フン、何が親分だ。まぁ、いいけど。で、あの衣装箪笥を通ったらたまたまホグワーツに着いてさぁ……。ハリーが学んでいるところってどんなところだろうなぁと散策がてらに、あの帝王を追い払って入院中のハリーをついでに見舞い。ただ連れがお菓子目当てで寄っただけだけどさー」


そう言って、ズズっとコーヒーを一口。


「えっと、確認していい?」

「何の確認か知らないけど、どうぞ」

「ここ、魔法界のホグワーツ魔法魔術学校ですよね?」

「お前が学んでいる場所がほぐわーつならほぐわーつだろ」

「ダドリーはホグワーツって一体どんな人種が通うところか知ってる?」

「魔法が使える人種。つまり、魔法族の魔法使いや魔女の卵が学ぶところだろ。お前がそうじゃねーかよ」

「いやうん。そうなんだけど………最後にひとつ」

「まだあんのかよ」

「ダドリーって僕みたいに魔法の兆候みたいなのって、あった?」

「一度足りともない」

「えっと………総合すると、ダドリーはマグルでここに来ているのは可笑しいって事で合っていますか?」

「なんでそれ私に聞くんだよ。まぁ、普通にそうだな」

「魔法界の魔女魔法使いだけが通う魔法魔術学校にマグルであるダドリーが来られるわけがないっ?!ってことで、これ夢?夢なんのか夢なんだよね!」


ようやく混乱できたハリーは必死に彼に問いかければ、開いた本に既に目を落としていて、


「あぁ、これ夢だから」


とあっさり言われた。


「そうか。やっぱり夢なんだね!」


良かったーとハリーは胸を撫で下ろし、マグルである従兄弟が此処に来れるわきゃないない。と、手を振って夢であるダドリーに、


「じゃ、お休み!」


片手を上げて眠りについた。

グースカぐーすか。

ハリーは深い深い眠りにつくのだった。


▼×××△


ハリーははっと目を覚まし、上体を起こした時には側に座っていたダドリーは何処にもいなかった。

一体、どういうことだ?

医務室の辺りを見渡しても、ダドリーの影らしき影がなかった。

そこに、


「───起きたか」


低く良く通りがいい声が耳に入った。

入口に目を向けると、スリザリン寮監であり、魔法薬学を教える教師、セブルス・スネイプ。

ハリーをしごきにしごいて呪文をものにさせて、『賢者の石』を奪還させに向かわせた教師だ。


「具合はどうだ?」


いつものように淡々と声をかけられた。


「えぇ、まあ……ちょっとまだ頭が痛いですけど……」

「そうか。自分に呪文を向けたんだ、また痛むのは無理もない。あの後の報告でもしようと思ったが、まだ本調子ではないならよそう。後でもダンブルドア校長が話してくださる。では、しっかり養生しろ」


スネイプは微かに笑うとハリーに背を向け、医務室を出ていった。

ハリーはなんだか気が抜け、ベッドに横倒れた。


(あのスネイプ師が侵入してきた子どものこと、何も口にしてないならダドリーは居なかった事になるんだけど……………本当に夢、だったのかな?)


ハリーはふと、あの屋敷で大きな衣装箪笥の前に倒れていたダドリーを思い出した。


ダドリーが言っていたのはあの、『大きな衣装箪笥』のことだろうか?


「まさか……夢だっつーの」


とハリーは笑い飛ばし、大あくびをひとつしてまた眠りについた。

ダドリーが飲んでいた砂糖が一切入っていない苦そうな珈琲の匂いが辺りに漂っているのをなんとなく、嗅ぎながら。


▼×××△


ダンブルドアが面会に来た時に、話の全てを聞いておいた。

内容が大いに違っていたが。多分、校長も分かって気を利かせて変えたのだろう。

ダンブルドアの後に、ロンとハーマイオニーが15分間の面会に来て、クィレルと死闘を聞きたがっていた。

ハリーはダンブルドアがねじ曲げてくれた、嘘っぱちの死闘を熱く語ってみせた。

実は内心、真実を知るハリーは虚しい気持ちでいっぱいになっていたが、友人二人は素直に信じて息を呑んだりして、聞き入ってくれた。

二人に悪いと罪悪感を抱きながら、ハリーは作り話を話尽くした。

そして、気がつけば明日が学期末最後。

ハリーは、何だか濃い一年だったなぁ、と妙に達観した境地に達していた。


▼×××△


次の日は学期末最後のパーティー!

だが、気分が余りにも優れず、残念な事にそのパーティーに出席できなかった。

キモヴォルデモートの夢を見てしまった上に、あのキモい姿の彼と友達になって仲良くワルツを踊っていた。

起きた際、余りにも顔が青ざめていたようで、マダム・ポムフリーに全力で止めさせられた。

出席は無理と診断を下したマダム・ポムフリーは、ハリーの荷物をまとめてくれて医務室まで持ってきてくれた。明日そのまま、直にホグワーツ特急に乗るために。


ロンとハーマイオニーは他の誰かがハリーの荷物をまとめたことに心配になって見舞いに来てくれたのだが、ポムフリーが見事に追い払った。

ハリーが青ざめパンも喉に通らない有り様だったので、マダム・ポムフリーが厳重な面会遮断をしいたのだ。

なので、本日誰からも面会はなく、一人静かに医務室のベッドで横になり、うとうとしているとマダム・ポムフリーに揺り起こされた。


「ハリー起きてちょうだい。悪いけど、一人会って欲しい面会の人がいるのよ」


そう言われてベッドから身体を起こせば、


「ハリー・ポッターにこれを渡すだけなんだから、起こさなくていいのにマダム・ポムフリー。彼は気持ちよく寝ていたところだったんだから。起こしちゃ可哀想だ」


片方だけてっぺんに軽く結った黒髪、瞳が真紅に魅惑的なまでに顔立ちが整った二十代半ばの男性が居た。

黒いローブを惑い、浅くフードを被り片手に何かの本を持って。


(誰この人……でも何処かであの瞳見たことあるような。つい最近に)と、ハリーは既視感を感じていた。

男性はハリーに笑いかけ、椅子を引いて座る。

その際、マダム・ポムフリーは彼の笑みにダイレクトにきたらしく顔を真っ赤にして、凄まじい速さで引っ込んでいった。


「やあハリー・ポッター君。あのくそヴォルデモートを撃退したんだってね。立ち向かう勇気が君には備わっているんだな」

「あの……貴方誰ですか」

「私か?そうだな……アルバス・ダンブルドアの知り合いで、君の父親と母親の同窓生だった者さ」

「父さんと母さんの?」

「そうだよ。セブの同級生でもある」

「『セブ』?……スネイプ先生のことですか?」

「そうだ。セブには昔から世話になっていてね」


昔を懐かしんで、赤い目を細めた。

親しいというのは嘘ではないようだ。


「あの…それで僕に何か」

「ああ、忘れていた。どっかのバカのせいで不快な思いをさせたからお詫びの品をね」

「『お詫びの品』?」

「これさ。開いて中を見るといい」


そう言って、手にしていた本をこちらに渡した。

小綺麗な革表紙の本。

一体何かとハリーは慎重に、本を開くと、そこには魔法使いの写真がギッシリ貼ってあった。

どのページでもハリーに笑いかけ、手を振っている母と父。


「これ……」

「君のご両親の学友にふくろうを送って集めたんだ。気に入ってくれたかな?」

「はい!」


ハリーは単純に嬉しくてそう元気に返事を返した。

それを聞いて、男性は口元を片手で覆い、


「そう。それは良かった」


切れ長に目を細めて、柔らかく笑った。

その優しい赤い瞳を見て、ゾクリとハリーの背筋に悪寒が走った。


「それではおいとますることにしよう。ハリー・ポッター君早く良くなるんだよ」


椅子から立ち上がり、ハリーから離れ、マダム・ポムフリーに二三言声をかけてから医務室を出ていった。


ハリーは呆然と本を手にしながら、見送るしかなかった。


「あの人……結局名前言わなかった……」


後から気づいても、その事に不快は感じなかった。


▼×××△


そして、その夜、ハリーはパーティーに出ることなく、医務室で養生。

ダンブルドアがマダム・ポムフリーをなんか説得に来たらしいが、彼女の頑として譲らない面会遮断にすごすごと追い払われていた。


だが、ダンブルドアに申し訳ないが、ハリーは出なくて良かったと考えていた。

額が妙に疼くのだ。

あの男性と顔を合わせてから。

とてもじゃないが、パーティーを楽しめる状態ではなかった。


だけど、マダム・ポムフリーがそばに来て、パーティーのご馳走を持ってきてくれた。


「差し入れよ。本当は消化のよいものを食べさせなきゃいけないんだけど。今夜は特別。パーティーだからね」


そう言って、ウィンク一つ。

ハリーは、そんなマダム・ポムフリーのお茶目な一面を見て驚き、そして笑った。


その夜、マダム・ポムフリーとパーティーのご馳走を食べながら、寮対抗杯でグリフィンドールが逆転勝ちしたことを聞いた。

意外に楽しくマダム・ポムフリーとご馳走を食べ終えた後に、ハリーにある手紙を渡された。

中を開いてハリーは驚く。

従兄のダドリーがヘドウィクを通して手紙を寄越してくれていたのだ。


『話は聞いた。しっかり治して元気に帰って来いよ』


そっけない文章だったけど、ハリーは嬉しくなって、明日のホグワーツ特急に乗り込んで帰るのが待ち遠しくなった。


そのままその夜静かに気持ちよく眠れた。ハリーは枕の横に、両親のアルバムを置いて。


そして、ハリーはよく日には、マダム・ポムフリーの診察で他の人より少し遅れてギリギリにホグワーツ特急に乗り込むのだった。


黒いフードを被った男性が見送っていたとも知らずに。


「父上のお帰りを準備してくるか」


そう言って、ハグリットが彼に気付いて振り返るより先に人知れずに姿を消して。

《番外・賢者の石ハリー編:完》2015/07/07

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