コウフク±㌻/私は賢者のように賢くなれない。

かめわらじ
@tatamiwaraji

5、信奉者は語る。

 ハリーはハグリットが乗る空飛ぶバイクに乗り去って行った。

 あれほどハグリットが震わせるほどうるさかったボロ小屋は、さっきと打って代わって静かになった。

 耳にするのは嵐によって狂ったように荒れる波の音。


 二人っきりになったダドリーとペチュニア。

(バーノンはハグリットの無意識により壁に叩きつけられて気絶しているので、数には入らない)

 ダドリーは彼女に何か言いたげな顔をしたが、ペチュニアは「朝には出るからそれまで一眠りしていなさい」とだけ言うと、壁に叩きつけられて静かになって床に転がったバーノンを放置して、階段を上がって二階の部屋へ戻ってしまった。

 残されたダドリーは色々あって大分な戸惑った顔をしていたが、ため息をついてペチュニアの言う通りに一眠りすることにした。

 あれこれ考えを巡り回しても、状況は何も変えられないのだから。

 ダドリーは床に落として転がった魔法瓶を拾い上げ、蓋を閉め片付けると暖炉の近くにあるハリーが寝ていたぺちゃんこのソファに横になった。

 激しく飛沫を上げる波の音が妙に薄らいでいて、ダドリーは思いの他すんなり眠ってしまった。

 妙に、───すんなりと。


〇▼〇▼〇


 何時間たったのか。いや、実はそんなに経ってないかもしれない。

 そんな嵐がやまない中、ふと、ダドリーは視線を感じて直ぐ様身体をソファから起きて立ち上がり、二階へ目を向けた。


 そこに、『ソイツ』は居た。


 二階からダドリーを見下ろしていた。

 暖炉を背にこちらを見上げている彼を。


『ソイツ』は、ダドリーの母ペチュニアだった。


 彼女は息子へにっこり笑いかける。

 余りみせない、笑い方だった。それに薄気味悪さすら感じる。

 彼女はそもそも余り笑わないのだから。


「あら、もう行ってしまったのね、ハリー達は」


 なのに、彼女はそう笑いながらずれた事を言うのだ。

 ハリーならとっくの昔に行ってしまったというのに。

 だからダドリーは、


「あての外れた前置きはいい」


 ばっさり切り、


「ペチュニアさんの姿をしたお前は一体なんだ───クソッたれ」


 ダドリーは顔を歪めて吐き捨てた。

 すると、ペチュニアの顔が豹変───獰猛な笑みへとシフトした。

 無機質と形容したくなる人ではない瞳をギラギラと輝かせ───手すりを乗り越えるとダンッと床板を割る勢いで一階に着地する。

 ダラリと両腕をだらしなく下げ、ゆらゆらと不規則なリズムで身体を揺らした。


「カァーカカカカカカカカカッ!!!」


 グリと首を右に傾げに傾げ、高らかに哄笑する。ボロ小屋全体を震わせるほど。

 ゆらゆら、ゆらゆらと激しく激しく身体を揺らしながら、顔に手をやる。だが、綺麗に長く伸ばし過ぎた爪が皮膚を突き破って頭蓋骨まで突き刺し、ダラダラと赤とも緑ともつかない液体を流しながら、


「カァーカカカカカ!!! このおでを見破ったかっ! 嬉しくてならないぞ小僧っ! そうでなくてはならん、『お前』はそうでなくてはっ!! あぁ、『お前』こそ、この魔法界の新たな闇の帝王に相応しい! 『お前』は、『悪徳の華』を体言化したような、穢れても気高く、穢れているからこそ美しく輝く存在! 例え、普通に生まれようとも、魂まで変えられん。いや、滲み出てくることは自分では抑えられまい! ヒッ、ヒッヒヒヒヒヒ! 『あの方』の言う通り! あの方の予言通りに、『お前』はここにやって来たぁあ! あぁ、あぁ、ひ、ひぃ、あ、『我が愛しき果実』『愛しき果実』よぉ、この闇の世界の母ですぅよォォォオオオ! ヒ、ヒヒッ、ぐははははあはひははっ!!!」


 狂った、実に狂い歪んだ、だが、狂信に心酔し過ぎた狂愛を『ソイツ』は口からダラダラと流し続けた。『ペチュニアの顔』で、あの無機質な瞳が、愛しい誰かを思い浮かべるすいーつな乙女のようにとろけさせて。


(こいつ───っ! あのクソ父上の毒気に当てられて自我崩壊したような奴と同じ?!?)


 どういうことだ……! と混乱し驚愕な表情をしながらも、これ以上無いほど、反吐が出ると口をへの字に曲がる。

 それくらい、『ソイツ』の自己思考は死滅しかかっていた。

『ソイツ』はひとしきり『あの方』という誰かを褒め称え、陶酔仕切りまくってから、ようやくその不規則な動きを止める。

 あの無機質な瞳でダドリーを眼光鋭く射抜きながら、


「小僧ォ! 敬い高すぎて聖母となる『あの方』の意志を引き継ぎ、闇の世界を拡げる礎となれっ! 聖母のような『あの方』が言うことは全くの真実であり、真理であり、運命なのだ! これに選ばれることは誉れなのだ誉れなのだぁあ! 小僧、貴様は我ら信奉する者の嫉妬、憎悪で殺されるほどに名誉なこと! とっとと我等の偉大な聖母の意志を継ぎ君臨する傀儡かいらいになれぇぇぇぇえ!」


 意味の分からない事を語りに語れば口が引き裂いていった。頬を裂けるほど。


「何言っているか、全く理解できないんだけど───自我崩壊野郎」


 ダドリーが睨みながら吐き捨てるように言うと、『ソイツ』はしばし呆然とした。

 まるで、寝耳に水な事を聞かされたように。


 ダドリーは眉を潜めた。何も可笑しいことなど言っていないのに。

 しかし『ソイツ』は身体を震わせると、く、くはははははははははははははははっ!!! と哄笑し、


「なんとっ! 本当に見る影もない有り様だな小僧!!! のけ者にされ、可愛いくらいに可哀想にっ! 母親にも教えて貰えず、伯父にも教わって貰えず今まで鳥かごの中で悠々と育てられてきたのか! フハ、フハハハハッ!!!」


 散々狂い嗤いをし続け、


「ならば可愛くなった可哀想な小僧に教えてやる。今置かれた状況をっ! おでは愛しき『あの方』に仕えていた。魔法界のバカ共が恐る『ヴォルデモート』様ではなく、『生母様』にな! アヤツが率いた落ちぶれた唾棄だきせん古巣『死喰い人デス・イースター』から、『あの方』の崇高な意思をもっとも継ぎおでが打ち建てた集団が我等新党派『死に喰い』だ!」


 要は、『ヴォルデモート』が率いる正当な死喰い人デス・イースターから離脱し、今の奴が立ち上げたという『死に喰い』が正当を食い漁っているというのが現状らしい。

 それに────「『死に喰い』って、只のパクリじゃん。ヒネリ無さすぎダサ過ぎ頭悪いの滲み出てる」


 ダドリーは呆れた顔をして、一息に言った後も何度もダサい頭悪いと口にした。

 ダドリーにこき下ろされた『ソイツ』は全身を激しく震わせ、「う、うるさぁぁぁああああああああああああああい!」と顔を仰ぎ向かせ、叫んだ。

 一頻り叫び終えバッとダドリーに顔を向け、殺意に溢れた怒りで睨みつけワメキタテル。


「あんな落ちぶれて唾棄だきせん古巣などに、我等新党派死喰い人デス・イースターを率いるおでの居るところではないんだっ! そうだ、居るところではなかったんだぁ! おではあの美しき冒涜であり背徳の果実、聖母様の意志を継がなくてはならなかった! それは『運命』だったのだ! 必定だったのだぁぁぁぁぁああ! 最早、旧党派の傀儡でしか動けない『ヴォルデモートお人形』の家系など、この美しき闇の世界に未来はない。そうだ、未来はないのだぁ!!」


 喚きたてた『ソイツ』はピタリと動きを止め笑顔になると、


「『お前』が我等新党派に加われば、聖母様が定めた運命みらいはもっと、もっともっとモォォォォオット切り開かれるのだぁぁぁぁぁぁあ!」


 その笑顔の表情を強めた。狂いに狂った、恍惚を浮かべた壊れた笑顔。

 どんどん、強める。

 どんどん、強め───


 ボロ小屋の内部は、濁り尽くしどろっとした狂気の空間へと変えて、


「礎になれ、小僧」


 左右の目の大きさを崩し血走った瞳をしながら、その綺麗に生え揃えた指の爪の十本をダドリーへと向け、


「『聖母様の意志』から逃げられると、思うナァァァァァア!!!」


 ダンッ! と、一度の踏み込みで床から跳躍して、只突っ立って無防備なダドリーへと跳躍した。


〇▼〇▼〇


 間一髪で体の向きを変え、食い込ませようとした爪が首から反れる。


「?!」


『ソイツ』はダドリーが避けた事に目を見開く瞬きに、ダドリーが体勢を変えた際振り上げた手を『ソイツ』を頬をかけて殴る。


 ゴっ

「ゲェエッ」


 力加減なくめり込み体勢を崩す『ソイツ』の隙を与える間もなく胸倉を掴んで、ぐるっと逆さまにして相手を投げ飛ばした。

 階段の柱に思いっきり。そこに躊躇いなど、存在していなかった。


 ゴン、、、ギッ!


『ソイツ』は運悪く首を柱に叩きついて、首が、折れた。


 そして、床に叩きつくと首は真後ろにダラッと変な方向に向いていた。


 叩きついた音を境に、静かに。『ソイツ』は、全く静かにナッタ。


 だが、ダドリーが真横に飛ぶと同時に、ゴキリゴキリと嫌な言わせて立ち上がった。

 ―――上げることも出来ない首をダラリと垂れさせながら『ペチュニアの顔』は、剥がれかかっていた。

 そして、だらりと変な方向に垂らした頭をぐるりと向き直させ、軽蔑仕切ったダドリーをミて。


『小僧が、只ノ前世ノ魂ノ記憶ヲ引キ継イダ二過ギナイ小僧ノ分際デェェェェエ!!!』


 ダミ切った男の野太い声が狂った戯言を吐きながら、ダッと身体を左右にしならせながら駆け出した。

 今度はドキツく禍々しい色に尋常ではないほどに凶器として爪を伸ばすが、ハグリットがハリーを連れて慌てて出て行った時に床に落としていった火掻き棒を掬い上げるように爪先に乗せると『ソイツ』めがけて蹴り上げた。

 ダドリーに後一息だった『ソイツ』は顔面にガンっともろに当たり、背後にあった暖炉に頭から突っ込んだ。

 そして、


『ギィギャァァァァァア!!!』


 と絶叫を迸らせながら、炎が燃え上がっていた暖炉から転がりでる。全身火だるまにさせながら。


 ダドリーは火がくべられていた暖炉に眉を潜めたが、のたうち回る『ソイツ』へと向き直して背中に手を回しTシャツの下から小刀を取り出して歩み寄る。

 歩み止まったダドリーに気付き、顔面を押さえていた手を離す。

 すると、 ずるり と異様な感じでずり落ちていた。

 ずるり、

 ずるり、

 ずるり、

 とすべり落ちて。

 最後にバサッと床に落ちた変な皮。いや、赤に血に濡れ滴る皮、だった。


 そこで、ようやく───『ペチュニアの顔』は、無くなった。


 代わりに、ダドリーはその『穢れた素顔』を見た。


「それが、お前の本性か」


 ダドリーはその『顔』を見て、柄を掴んで一気に引き抜く。


「この私を亡き者にしたいなんて、三下が抜かしたこと言ってんじゃねぇよ」


 場違いにも酷く優しい笑みを浮かばせた。

 悪を凝縮させ人を惑わせる猛毒の花で、かつ全ての者を慈愛で照らす聖母の、無慈悲な笑みを。

『ソイツ』は目を見開き、


『─────、さ、ま……っ』


 滂沱させながら、惚けたように呟く。

 そして、こちらへゆっくり、小刻みに震わせながら手を伸ばす。

 だがダドリーは手を振り払うように白刃を閃かせた。


『ガァァァァァアアアアア!』

 ボトリ


 ソイツの手が木板に落ちて転がる。

 彼は刃についた緑の液体を一振りするとあの白刃が、妖しく魅せるあかが斑に絡まり染まっていた紅に変貌した。

 ダドリーの口端がつり上がる。

 獲物を見つけた猛禽類の鋭い狩りの目になって、刀を疾らせた。

 刀は暖炉の火の明かりを受けて、ボロ小屋の中を煌めかせた。

 切り伏せられた『成れの果て』は再び絶叫し、ダドリーの顔に降り注いだ。

 緑のどろっとした雨を。


 ダドリーは────それを右目だけを器用に細めて、笑う。


 懐かしい手応えの感触に、心が震えた。


 心が───ふるえ………


▼〇▼〇▼


「うえぇぇぇえっ、気持ち悪ぅぅぅうううう!!!」

「どうしたぁぁぁあああ! わしのダドげふぅぅぅぅうううう!!!」


 化物を真っ正面から切り伏した為、まんまと返り血(?)を顔から浴びて気持ち悪さから叫び、その叫びで寄って抱きついてこようとしたバーノンぱぱを跳ね起きながら思いっっっっっきり蹴り飛ばした。反射的に。


 そう、私は────叫び、起きたのだ。


 はん? 起きたって───何?


 私は慌てて、暖炉の方へ目を向ける。

 転がっているのは、私に蹴り飛ばされて白目を向いて転がるバーノンぱぱだけ。


 私が斬り伏せた化物の死体は───転がってなかった。


 え? どういうこと?

 瞼をこすぐり、もう一度暖炉の方に向けるが、白目を向いて転がるバーノンぱぱだけ。

 二階に目をやっても、ペチュニアままはいない。奥の部屋のべっどにまだ横になっているからだろうか?


 私は窓の方へ駆け寄る。

 外はまだ………日の光はまだ来ていない明け方前だったが、海は随分と凪いでおり、嵐は過ぎ去っていった。


 だとしても───


 私は自分の手を見下ろす。


 あの手応えと、感触は───本物だった。

 随分と久々であっても、忘れられるものではない。

 いや、魂に刻まれているのだから、忘れようも出来ない。


 なのに、あれを───夢だという「ねぇ、お茶ないの?」


 一人の世界に浸っていたら、急に誰かが割って入った。

 振り向くと、踝まである特徴的な白灰髪に灰色の瞳───十歳前後の黒墨色水干を纏い腕組みする少年が立っていた。


「うぉ! …って暦?! なんでお前ここにいんの!」

「え、何いってんの。ダドリーが寝ていた時からいたよ。勿論間抜けな叫び声で飛び起きたのも見たし」

「じゃぁ、とっと声かけりゃ良かっただろ!」

「寝起きが暴力的なヤツをなんでわたしがわざわざメンドクサイことまでして起こさなきゃいけない訳? まぁ、勝つのはわたしだけどさ」

「何いってんだよ。私ほど爽やかに起きられる人間はいねぇよ。大体寝起きでも私だって負けねぇし。それを言うならお前だって人のこと言えねぇよ」

「は? わたしほど穏便に起きる人間はいないよ。まぁ、あのピヨピヨはいつも春雪に飛び付いて泣いていたけど………あいつも大概に甘ったれだよ、全く皆甘やかして……あー、腹が立つ」


 そのピヨピヨとやらを思い出したのか、目を据わらせて舌打ちする暦。

 そのピヨピヨ君はお前の最悪な寝起きの被害者だつーの。気づけよ。と言いたいけど、うん、こいつに何言ってもダメだ。

 こういう無駄に頭が良くて自分に絶対的に自信ある痛い人種は思い込みが激しいから何言っても耳に入れようとしない。


「今……さらりと失礼な事考えなかった?」

「いや、全く」


 犬歯があったなら剥き出しの不機嫌面で睨む彼に、私は笑顔で首を振り、あの話をした。


「お茶はないけど、あの高級のハサミだけの身だけを詰めた蟹缶とか、日本の鯖の味噌煮とかまぁ他色々あったはずだったかなー」


 頭をかきながら結局はあの話はせずに、とっておきの非常食で釣ることにした。

 さらりと赤牛を交わす闘牛士のように。

 暦は疑わしそうな目をしたが、まぁいいけどとため息をついて流し、


「よし、それを朝食にして許してやる」


 全く流す気はなく、がっつり食べる宣言を。

 こうして、5日分あった高級非常食は突然来た彼の胃袋によって、なくなってしまった。

 たった、十分もしないうちに………。

 おかげで私の腹は、一日満たされることはなかった。

2015/07/07 2017/06/24加筆修正

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