コウフク±㌻/私は賢者のように賢くなれない。

かめわらじ
@tatamiwaraji

4、森の番人。

「出て行け、出て行くんだぁああッ!!」


 キレたバーノンぱぱの腹からの怒声が響き渡り、ハリーの腰辺りを捕まえるとばっくどろっぷの両々で、廊下に放り出し、私とペチュニアままは押し出された。

 バーノンぱぱは手紙で荒れ狂う台所を何とか閉め叫んだ!


「さっさと旅行に出るぞ! 五分後に家を出る支度をしろ! その間に玄関の扉をなんとか破壊するからさっさと車に乗り込むんだ! いいな?!」


 その宣言通りにどあをちぇんそーで豪快にぶっ壊したバーノンぱぱ。既に支度を済ませていた私達は車に乗り込み、バーノンぱぱは高速道路を目指して突っ走った。

 最悪な元凶でもあるハリーの手紙を何が何でも振りきりたかったからだと思う。

 誰もが手紙に触れることは、なかった。

 せっかくの旅行初日だというのに、あの手紙で空気を悪くしたくなかった。

 そんな調子で一行を乗せた車はどこまでも走った。暗くなる頃には、同じ体勢に疲れ眠りこんでしまった。

 どっかの町外れにようやく着いた頃には、陰気臭いほてるに泊まることになった。

 陰気臭さに私は泊まることに気が進まなかったけど、疲れているならこの際寝られるなら何処でもいいや。


▼〇▼〇▼


 旅行初日。

 ハリーと相部屋で通された部屋は最悪だった。

 寝床は湿っぽく、かび臭いしーつだった。

 ハリーが、うわっナニコレ。と、一歩引いて異常にかび臭い毛布を汚そうに摘んでいた。

 こんな寝床を見て誰がそのまま眠るものか。

 私は持ってきたすぽーつばっくから、寝袋・毛布・青のびにーるしーとを取り出す。

 見ていた彼はこの三点を指差して一言。


「何コレ」

「何って、寝るための必需品。見ればわかるだろ。馬鹿でも、ハリーでも」

「『馬鹿』は一言余計だよ! それとなんか『馬鹿』と『僕』を同じ扱いしてない?! いやさ、これでどうやって寝るのさ。ビニールシートも使うんでしょ? てか、ビニールシートも何につか「あー、はいはい。ごちゃごちゃ言ってないで、黙って見てろ」

「む…むう…」


 ハリーはめちゃくちゃ言いたげそうな顔をしたが、素直に黙る。

 私は自分の寝床にあった毛布をハリーの寝床に投げ捨て(その際、ハリーから非難の声が飛んだが無視)、自分の寝床に青のびにーるしーとを被せる。綺麗に整えたべっどに毛布をかけ、寝袋を中に自分が入る。立ちんぼ芋虫人間になった私は、べっどによっこらと腰を下ろして横になり、手を出して毛布を引っ張ってかけ、寝袋のちゃっくを閉めて完了。

 言いつけを守って静かに見ていたハリーに顔だけを向け、


「お休み」


 とだけ言って背を向けて眠る。


「ビニールシートに新たな使い方!? というか先に寝ないでよ! 大体寝袋の上に毛布かける意味あんの?! 僕の分なんて勿論ないことは知っているけど、自分の分だけ用意するのってどれだけ用意周到だよ!」


 静かに見ていた間、ハリーは突っ込みを一気にここぞとばかり開放。


「ちょっと聞いてる?!」


 突っ込みを無視して眠ろうとすると、寝袋に入って芋虫化している私にハリーが近づいて、思いっきり揺さぶった。視界がぶれる。

 くそッ、いいところで眠れる寸前だったのにっ!

 眠い半分の私は敵を排除と本能に近い状態で寝袋に入ったまま、後頭部頭突きをハリーの腹に決める。


「ぐふっ!」


 私の反撃がお腹に決まったハリーは後ろに飛んで床に転がる。

 寝袋のちゃっくを少し開けて、毛布を転がるハリーに投げつけ、私はそのまま横になる。

 背後で(夫妻が起きない程度音量で)喚くハリーの声を子守唄に、思っていたより車乗り疲れをしていた様で、私はすぐに寝入ってしまった。

 完全に眠りに落ちる少し前、ハリーがついたため息が微かに聞こえた気がした。


▼×××△


 予定とは少し違うがダーズリー家から出て車に乗り込んだ。バーノン伯父さんの運転でずっと車に揺られ、やがて大きな町外れの、陰気臭いホテルに泊まることに。

 ダドリーと同じ相部屋になった。

 ほとんどの一日をドライブに費やされて、ハリーはヘトヘトに疲れきっていた。ダドリーも同じようで立ちながらもウトウトしていた。

 通された部屋のベッドは最悪につき、湿っぽくカビ臭いシーツが鼻についたがダドリーは持ってきたスポーツバッグから、寝袋と毛布、何故か青のビニールシートを使って、今では気持ち良さそうにベッドに横になって寝息を立てている。

 ハリーは先程までダドリーに攻撃を受けたことの文句を言っていたが、眠りに入った彼を見て、次邪魔したら今度はあの程度ではすまないと気づき、即座にダドリーから離れた。

 あれを無意識でやっているんだから、普段はどれくらい腕力をセーブしているのか嫌でもわかってしまう。

 ハリーはため息つきつつ、自分も寝ようかともう一つのベッドを見るが、かび臭いベッドに横になる気など全く起やしない。

 投げ貸して(?)貰った毛布に身を包んで、窓辺に腰かける。

 ハリーは下を通りすぎる車のライトを眺めながら、思いを巡らませる。


 ───ダドリーは昔から僕と同じでどこか普通の子とは違っていた…。

 でも、僕と違って不思議な出来事が起きる訳ではなかったけど、やたらと動物に好かれていた。

 それと同じくらいに、彼の周りでは動物の変死事件が多かった。

 だから、ダドリーはあの町で、同世代の子どもから少し敬遠されていた。

 彼の周りで起きることが、『異常』だから。

 そう、ダドリーは僕と違って肌で感じとれるほどの、『異常な何か』を持っていた。……『何か』を。


 一台の車が通りすぎ、ハリーの横顔を照らす。


「ダドリー……君は一体何を独りで抱え込んでいるの?」


 背を向けて眠るダドリーに、ハリーの言葉は耳に届くことはなかった。

 夜明けは、まだまだ遠い。


▼〇▼〇▼


 陰気臭いほてるの部屋にて、翌朝を迎える。

 気分は勿論、最低。寝ていたべっどから、落ちたのだ。身動きの取れない寝袋で寝ていたから。結局、ほこりと共に仲良く寝ていたことになる。これが最高な気分になるはずもない。

 嫌な目覚め方をした私は、窓辺の縁に腰掛けて毛布に包まり『僕ってカッコイイよね?』なかっこつけて寝ているハリーを目にした。その朝からかっこつけて寝ているハリーにイラッときて、朝の挨拶代わりに隣にあったかび臭い枕をお投げ頂戴してあげた。

 少しだけ鬱屈した気持ちがスカッとした。

 ハリーは、私の投げ寄越した枕で窓の外に後少しで落っこちそうになり朝から絶叫を上げるという挨拶をしてくれた。

 全く、ハリーもいい目覚めをしたものだ。


▼〇▼〇▼


 陰気なほてるをちぇっくいんしてから、一週間は経った。

 バーノンぱぱの車でまた一日を使って走り山を越え、大分遠い街の知り合いの人の家へと訪ねた。

 事前にペチュニアままが電話を入れていたらしいので、温かく歓迎された。

 そこでバーノンぱぱからきゃんぴんぐかーに乗り換え、本格的な長期旅行が開始した。

 ハリーの手紙で気が変になりかけていたバーノンぱぱはこれには機嫌を直し、機嫌良さそうに自分から進んではんどるを握ってくれた。

 ハリーはハリーで久々の旅行に胸踊らせ、手紙の事など頭の隅に追いやった様子だった。

 皆が皆、この旅行を楽しんだ。

 この面子揃って旅行を楽しむのは、これが最後だとハリーはもとより私は全く思ってもいなかった。

 そう、ペチュニアままとバーノンぱぱの面子で。


 私は知らずにそれはもう、その一ヶ月を楽しんだ。

 楽しんで、


 ────思い出を、残した。


▼〇▼〇▼


 きゃんぴんぐかーでの旅。それはもうほぼ気まぐれな食道楽旅行だった。

 美味しい果実があると聞けば、わざわざ小さな村のそこに行って果実狩りをしてたらふく食べ、

 美味しい肉があると聞けば海辺に近かろうが、走らせたらふく食べ、

 美味しいワインがあると聞けば夫婦二人は車を走らせ山だろうが飲みに行った。

 ワインは流石に子どもなので興味はなく、川で魚を釣ったり、山菜や実を回収したりとにかく山の幸を堪能した。

 そんなある日ペチュニアままは突然行きたいところがあると行って、ある山あいにある小さな村へきゃんぴんぐかーを走らせた。でこぼこして余り舗装されていない道をひたすら走って。

 村に辿り着くと、まず教会へ行った。

 ペチュニアままとはどうやら顔見知りの神父だったのようで、息子の私をひとめ見るなり嬉しそうな顔をして頭を撫でられた。


「あれから元気に成長していて何よりだよ」


 と意味深な事を言われて。

『あれから』ってどういう意味だろ?


 神父の自宅に一晩泊めさせてもらい、そこからきゃんぴんぐかーから普通車に乗り換え、村の外れにある屋敷へたどり着いた。

 その屋敷は、ある映画に出てくる屋敷を連想させた。


『ナルニア国物語』が始まるきっかけとなる大事な付箋ふせんの場所。

 あのペベンシー兄妹が疎開先で世話になるあの屋敷。

 物語の始まりとなる、ルーシーがある衣装箪笥を開けて、白の魔女が支配する冬のナルニアへと通じて始まる、あの屋敷に。


▼〇▼〇▼


 中に入るとそれは尚更、ペベンシー兄妹が居た屋敷に似ていた。


 ハリーは余りの広さに戦々恐々していたが、私は何故か懐かしい気分に陥った。

 ずっと前からここに居たような、懐かしい感じ。

 私は無意味にはいてんしょんになって、あっちこっち部屋を見て回った。

 ハリーも私の後について回った。ブーブー文句をいいながら。

 あっちこっち見て回り、大きな書庫で色んな本を眺め、大分満足し両親がいる大部屋に行こうとハリーと長い長い廊下を歩いていたら、ある部屋の扉が開けっ放しだった。

 私はそこにひょいとなんとなく顔を覗かせると、大きな衣装箪笥があった。

 あの、映画に出てきたような、衣装箪笥が。

 私は先行くハリーなどそっちのけに部屋に足を踏み入れ、大きな衣装箪笥に駆け寄った。

 間近で見れば見るほど、映画に出てきた衣装箪笥そっくりである。

 私はちょっと………いや、かなり興奮気味に扉を開けた。

 だって、あの『ナルニア国』に繋がるかもしれない箪笥に似ているんだよ! 気分はそりゃ盛り上がるでしょ!

 ちょっと据えた臭いがしたが、気にならなかった。

 更に顔を突っ込ませたら、………とてもかび臭かった。

 うん………これはちょっと……。

 私は咳き込み、退散しようと直ぐに顔を引っ込ませようとした時、微かにびゅうと風が吹いて私の髪がなびいた。


 は? ………か、ぜ?

 妙に冷たかったような、気がしたが?


 私は首を傾げながら、身体を大きな衣装箪笥へと滑り込ませた。

 そして長年使われていないハンガーに吊るされた服を押し退け掻き分けながら、奥へ奥へ行く。

 奥へ、奥へ、奥へ、奥へ。


 そこで、私ははたっと気付く。


 えっ、衣装箪笥ってこんなに広かったっけ? ………いや、普通にこんなに広くねぇよ。けど、───この先が凄く気になる。絶対、気になる。

 見逃したら一生後悔するもんがこの先にあるっ!


 私は並々ならぬ好奇心に負け、コツコツと足音を鳴らしながら進めた。

 すると、ザクザクという足音に変わった。

 衣装箪笥の中は暗くて、足元は確認出来なかった。

 片膝を折り、足元に手を伸ばして───何かを掴んで握り締めた。

 ギュっと握りしめると手が、冷たかった。

 そう────冷たかった。


 私は直ぐ様立ち上がって、衣装箪笥の奥へと走る。

『雪』道に足をとられ転んだりしたが気にもならなかった。

 私は気分を昂らせながら走って、走って、走って、────そして、また顔面から転ぶ。

 冷たい雪だったから、転んでも痛くなかった。

 顔を上げると沢山に吊るされた服の合間から差し込む光が。


 その差し込む光に誘われて私はゆっくり立ち上がり沢山に吊り下がる服を掻き分けると、一気に視界が拓けた。

 そして────あの、雪が降り頻る黒のがす街灯がぽつりと雪に埋もれながら建った拓けた空間の光け─────ドリー! ダドリー、ダドリィー!!」


 というハリーの呼び声に、目が覚めた。


 え、目が覚めた?


 私はハリーに揺さぶられて目が覚めたのだ。

 ハリーの心配そうな顔が視界に入った。


 あ、あれは夢?

 どっから夢だったのだろうか。

 ぼんやりする頭で、ハリーの話を聞く。

 ハリー曰く、後ろを振り返って私が居ないことに気付き、開けっ放しの扉先をなんとなく覗くと、大きな衣装箪笥の前に私が横倒れ込んでいたのだと言う。

 ぼーとする私をハリーは心配し、


「ここ、なんか薄気味悪いから出よう」


 と自分の肩を貸して私を立ち上がらせ、引きずるように大きな衣装箪笥のある部屋から出て行く。

 ハリーに引きずられながら歩く中、なんとなくあの雪を握りしめた手を開いて見てみた。

 手には何もなかったが、妙に冷たかった。

 雪合戦して雪玉を作った後の、冷たくかじかんだ手のひらのように。


 あの大きな衣装箪笥の先の光景は、本当に夢だったのだろうか………?


▼〇▼〇▼


 あの不思議な体験をした屋敷を後にし、旅の折り返しをする為私達は元来た道を戻ることになった。

 何日間かけてきゃぴんくかーを走らせ、知り合いの宅に着いてはそのかーを返し一晩泊まってから、バーノンぱぱの車に乗って、我が家に帰るためにひたすら走った。

 旅の終わりが、近づいていた。


▼〇▼〇▼


 ずっと走り通しだったので皆が疲れ、運転していたペチュニアままは休憩と車を海岸近くに停めた。

 バーノンぱぱは食い物を買ってくると少し遠い小さな雑貨屋へとペチュニアままはと歩いて向かっていった。

 ハリーと私は車から降りて、まずは凝り固まった身体をほぐすために背伸びをした。

 ハリーは気晴らしにしたいと海岸近くを散策しに行った。

 一応、余り遠くに行くなよと釘刺して。

 私は砂浜に流れ着いた流木に腰掛け、てくてくと歩き回るハリーを遠目に眺めた。私の言った通り、私が見える範囲まで先に行かないようにしていた。

 私は足元に落ちていた貝殻を拾う。

 耳に当てるが……別に波の音はしない。

 音はしないが、風が妙に湿っている。

 空を見上げると、雲が妙な流れをしていた。


 あぁ、嵐が───近いかもしれない。

 本当の旅の終わりが、───来ていた。


▼〇▼〇▼


 あれから、何故か海の彼方にある大きな岩の上にちょこんと建った素敵な小屋の中に、私達一行は居た。

 泊まるところがそこしかなかったからだ。

 ここに来るまでに船を貸して下さったお爺さんの予言通りに嵐が来て、海は狂ったように荒れていた。

 たけ狂い波が高くなって外壁を飛沫が叩く。今にも外れるんじゃないかという窓の際の壁に私は背を預け、魔法瓶の中に入れたホカホカの紅茶を飲みながら、外の景色を眺めていた。

 深夜はとっくに回り、ボロ小屋はギシギシと不気味な悲鳴を上げ室内の気温が一層下がり、身体が前より震えるようになる。

 それでも旅の疲れもあってか、皆嵐が来ていようが全く起きる気配はなかった。


 私は荒れる海を眺めながら、あの屋敷にあった大きな衣装箪笥を思い出す。

 あれは本当に、───夢だったのか。


 夢じゃ、なかった気がする。


 あの、雪が積もった黒いがす街灯の光景が頭から離れない。

 妙に───懐かしい、のだ。

 どうして、………無性に懐古に浸ってしまう。

 あそこに大事な家族でも居たような、懐かしさだった。


 ふと、ギジギジ! と外で何かが軋むのを耳にする。


 ん? と、顔を上げると岩を強く打つ音と、妙にガリガリという音まで聞こえる。

 一体、何だろうか。

 私がガタガタと激しく窓枠を揺らすガラス窓から、外を覗いて見た。

 瞬間、


 ドォォオン!


 と音がし、みすぼらしい小屋全体が震えた。


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