コウフク±㌻/私は賢者のように賢くなれない。

かめわらじ
@tatamiwaraji

3、不思議な手紙。

 ブラジル産だったらしい大蛇逃亡事件のおかげで以降ハリーは、伯父さんに一層いびられていた。

 なんせガラスの内側に閉じ込められたのだから、腹の虫が収まらないのも仕方ない。

 だが、ハリーを余りにも余計にいびるのでペチュニアままがぶちギレ、逆にバーノンぱぱを寝室に閉じ込めた。

 あの人、度が過ぎることは嫌いなんだよ。

 ペチュニアままはほぼ月に五回犯人と格闘しながらも、私とハリーを学校へと送迎してくれる。ペチュニアままに送迎して貰いながら登校して日々が過ぎていくうち、夏休みに入った。

 海外の休みは長くて好きだ。

 一番喜んだのはペチュニアままだと思う。毎日私達の送迎をしているからだ。

 夏休みが始まり、私は8みりかめらを持って近所の動物を撮影しまくった。

 ハリーもやっぱり私の後をどこでも付いてきて鬱陶しかったが、一人にさせると私の友人と自称するダドリー軍団(名前がダサい)に『ハリー狩り』されるか、変な格好をした大人達に握手を求められたり抱きつかれたりされるのでペチュニアままの言いつけもあってハリーと一緒に行動を共にした。

 以降はラジコン飛行機をハリーと一緒に製作しダドリー軍団に破壊され、れーす用自転車にハリーと順番に乗って楽しんだその日にダドリー軍団に横取りされ、松葉杖をついていたフィッグばあさんにぶつかって転倒させてしまい、自転車の所有者は私だからと私が菓子折りつきで謝るという不愉快に尽きた事件は幕を閉じ日々は過ぎて。

 家に居ても毎日のようにやってくるダドリー軍団に辟易し、なるべく外に出て8みりかめらで動物を撮って過ごしていた。

 ハリーは私の後を付いてきて、「毎日撮ってよく飽きないね」と嫌味を言われつつ撮るのを私は止めなかった。

 それが功をそうしたのか、ある日子猫をハリーと追いかけて撮影しその8みりかめらを現像したところ、なんか見知らぬ男が近所の庭先にいたのが写真に写っていた。それをペチュニアままに見せたところ、頬にきっすされた。

 訳は何年か前に未解決となっている連続空き巣犯だったらしい。その写真を手がかりに犯人を追い詰め、次の家に侵入するところを予測し捕獲。

 しかし、冷静になって考えたらその犯人と遭遇していたら全く不味いことになっていたんだろう。ハリーもその事に気づいて震え上がった。

 何とも危なっかしい六月だった。


▼〇▼〇▼


 私の苦手なクソ熱い夏真っ盛りの七月に突入。

 真夏日和になるといつも以上にやる気がない覇気がない私に変貌する。

 そんな七月のある日。

 クソ暑さにいつものように体調不良で苛々していた私は、両手を広げてハグしてこようとしてきた父親を蹴り飛ばし、壁に叩きつくのを最後まで見ずに何事もなかったように席につき、ペチュニアままが入れてくれたこーひーを啜る。怯えるハリーを尻目に。

 全く朝食代わりであるこーひーが不味くなってしまった。

 こっちはただでさえ、暑くて動きが鈍くなって、貧血気味でくっそあっつい上に気が立ってしょうがないというのに…!

 余計な運動させないで欲しい。

 私は苛々しつつも壁に叩きついて伸びている父親を食卓の風景見として眺めながら、怯えながら食事するハリーと一緒にこーひーを優雅に飲むのだった。


▼〇▼〇▼


 叩きついた壁から復帰したバーノンぱぱは、いつものように朝刊を広げて食卓についた。席に着く際、ちらちらとこっちをおののいた様子で窺ってきたが。

 バーノンぱぱが私をこれ以上怒らせないように、ハリーに叱る事無く静かに朝刊を読んでいると静寂と化した台所に、


 ごとんっ。


 と、郵便受けが開き、郵便物が玄関に敷いた泥落としの敷物の上に落ちる音が響いた。バーノンぱぱはその音に過剰反応して、椅子から座った状態で文字通り飛びのくと言う面白い芸を披露してくれた。

 ハリーは『バーノン』ぱぱが披露してくれた面白い芸に一歩引いた目で見ながら、近づきたくないのか離れた所からこーひーをこっぷについでいた。

 そんなハリーに私が果物の飲み物を頼んでいる時、


「だ、ダドリーや?」


 と、猫撫で声をするには年季が入りすぎて気持ち悪いおっさん声を、朝刊越しから呼びかけられる。


「何」


 年季が過ぎた気持ち悪いおっさんの声で一気に気分を下げさせられ、機嫌の悪い声が自然と出た。バーノンぱぱは、私の不機嫌に怯え、また朝刊を持ったまま椅子から飛びのく芸を披露。


「ゆ、ゆゆ郵便を取っ「は?」


 間髪いれずに、不満を主張。睨みを利かせながら、ハリーが入れてくれたこっぷを食卓にゴトッと置く。


「ハリー取って来い」


 バーノンぱぱは、素早い転換でハリーに切り替えた。

 ハリーは無言で嫌な表情をし、バーノンぱぱではなく私を見る。私は飲みながら、片手で玄関の方を指差す。ハリーは密かにため息をつきつつ、郵便物を取りに台所を出る。

 ハリーが行って後、バーノンぱぱの朝刊越しから、


「最近露骨に嫌な顔を出しやがって。後でしばかんとな」


 悪口にしては小さい声。


「最近、動きが鈍くて…苛々して仕方ないんだよね…」


 私もさりげなく口にする。

 バーノンぱぱは朝刊を破る勢いで顔を出し、


「全く最近のハリーは、すこぶる素直な子供でわしは気分がいいわい!」


 珍しく、ハリーを褒めていた。


「そうそう。何事も素直が一番だよね。私、ハリーを見習おうかなー。ねー、父さん?」


 私は気持ちをたっぷり込めながら、こっぷを両手で弄びつつ、父親に笑いかけた。


「全くそうだとも! 父さんも見習うことにするかな! がははっ!」


 と、額にびっしり汗を垂らしながら笑う父親。

 どうやら私の気持ちを正確に受け取ってくれたようだ。

 只でさえ、クソ暑いのに目の前で見苦しいいびりなどやめて欲しい。苛々が割り増しするだけだ。

 夏は涼しく爽やかに過ごしたい。


▼〇▼〇▼


 ハリーが一通の黄色に黄ばんだ手紙を見つめたまま、台所に戻ってくる。

 ふーん、ついにほぐわーつから手紙が来たか。

 彼はバーノンぱぱに、請求書と絵葉書を渡し、ここで堂々と私の隣の椅子に座ってゆっくりと黄ばんだ封筒を開き始める。

 ハリーってこういうところ不用心だよな。寝起きするだけの物置部屋に投げ込んでおけばいいのに。

 バーノンぱぱはハリーから受け取った請求書をビリビリ開け、不機嫌に鼻を荒々しくフンッと鳴らし、次に絵葉書の裏を返して読む。


「マージが病気だよ。腐りかけた貝を食ったらしい」


 ペチュニアままは病気の下りで、あら、そう。大変だけど自業自得ね。と、あっさりの反応で返しながら朝刊を読んでいた。


 マージ伯母、貝に当たって腹を下したか。ぼでぃびるだーにわたしゃはなる! とか突拍子のないことばかり言って周りを巻き込んでくれるから、今回はその日頃の行いが祟ったに違いない。これを機会に少しは大人しくなれマージ伯母よ。

 反応の薄いペチュニアままに自業自得で病気になったマージ伯母の事をバーノンぱぱが心配してアレコレ喋りかけている間に、ハリーが例の封筒を開けようとしていた。

 ハリーがついに羊皮紙の封筒を開き切り、中身を読もうとドキドキの瞬間……っ!


「ダドリー、マージが腐った貝を食べてだなっっっ!」


 空気の読めない父によって、その瞬間は訪れることはなかった。手紙をまさに読もうとする私とハリーを視界に入れたから。


「ハリー!! 何を勝手にこっちが見ていない手紙を読んでおるんだ!!!」


 そう言ってハリー宛の手紙はバーノンぱぱの手によって乱暴にひったくられたのだ。


▼〇▼〇▼


 ハリーの手紙を開いて目を通した途端、バーノンぱぱの顔が信号機の青のように真っ青に変わる。更に、数秒後には腐りかけたお粥のような白っぽい灰色に切り替わった。わぉ、器用な顔。

 ペ、ぺ、ペチュニアァァァァア!!! と、絶叫しながら彼女に手紙を押し付ける。

 何だか良く分からない不可解な顔をしつつも、最初の一行に目を通し、無表情になって手紙を目の前で真っ二つに破り捨てた。


「「は?」」


 私とハリーの声が被った。

 ハリーはまさかあの伯母さんが自分に届いた手紙を破ったこと。

 私はバーノンぱぱではなく、ペチュニアままが破った事。


 何故、彼女が破り捨てるんだ?


 彼女は痕跡もなかったようにビリビリに破きゴミ箱に捨て、


「さて、お前また虫歯になったね」


 ハリーに向き直って何事もなかったように言う。

 はい、虫歯? なんでこんな時に、虫歯?


「えっ………い、今はそれ関係ないよ! あれは僕の手紙なのに! 伯母さん酷い! 酷いよ!!! 破くなんて酷いっっっ」

「お黙り」


 ペチュニアままは腕組みして、静かに一喝。

 ハリーはうっと体を小さくする。彼女が叱る体勢の時ほど怖いものはない。


「朝から飲み物飲んでない様子を私が見逃すと思っているの?」


 ハリーに歩みより、無理矢理口を開かせる。

 あがあがというハリーを無視して口の中を覗き見て、


「やっぱり、酷くなっているじゃない。しかも、三本も………。さぁ、歯医者に行くわよ。ダドリーも準備して車にエンジンかけて待ってなさい」

「えっ、でも母さん今日仕事は……」

「今日は生憎と休み。また電話が来たら別だけど」


 そう言ってハリーの口から手を離し、私とハリーの肩を掴んで押し、台所から押し出されてしまった。

 どあを閉める前、


「はい、鍵」


 と私に車の鍵を手渡してから、ピシャッと閉めると、バーノンぱぱとペチュニアままの話し合う声が漏れ聞こえた。

 私とハリーは顔を見合わせ断片的に聞こえてくる話し声に耳を済ませたが、結局は良く分からないまま、私とハリーは仕方なく二階に上がり出掛ける準備をした。

 なんか、原作と展開に違うことにモヤモヤしながら。


▼×××△


 三街向こうの歯医者さんへ出掛け、買い物をしてから帰ってきたその日の夜。

 ハリーは一番しないと思っていた実の伯母に手紙を破かれて捨てられた事がショックで、夕食以降ずっと物置部屋に引きこもっていた。

 ハリーが引き籠る物置部屋に、誰かが戸を叩いた。

 何と丸めていた身体を少しだけ伸ばす。


「ハリー、まだ起きてる?」


 手紙を破いた伯母ペチュニアだった。ハリーはプイッと身体ごと背を向け、返事をしなかった。

 だけど、鍵は外側に付いているから、ドアを開けられてしまった。

 ハリーはより一層むくれて枕で頭を隠した。伯母は狭い物置部屋の縁に腰をかける。

 だけど、何も言わない。

 ハリーはなんだか居心地が悪くなって寝た振りを止め背中を向けながらも、


「朝の手紙、あれは僕の手紙だった」

「そうね……、あれはお前の手紙ね」

「なのに、………伯母さんは僕の手紙を破った」

「えぇ、破ったわ」


 余りにも淡々と認めるのでハリーは腹が立ち上体を起こし、腰をかける伯母へ向き直る。


「じゃあ、なんで僕の手紙破ったのさっ!」


 ハリーは意外に大声が出たことに、自分自身が驚く。けど、怒りが収まることはない。

 伯母はハリーに怒鳴られても表情を変えることはなかったが、


「あれを読んだら最後、今までのように生活出来なくなるの」


 そんな事をやっぱり淡々とした声音で言う。

 ハリーは生憎聞き流すところだった。

 だって、あんまりにも───理解できないことだったから。


「……ど、どういうこと、それ?」

「お前は不思議に思わなかった? 宛名先『物置部屋』と書かれてあったこと」

「…………舞い上がって、ちっとも考えてなかった……。もしかして、何かの事件がらみなの? だから、今までの生活が出来なくなってしまうことに関わってくるの?」


 ハリーは不安そうに双方を揺らして必死に聞く。

 その様子に伯母は小さく笑ってと首を振った。


「違う。事件のことは全く関係ないわ。あの手紙はお前にとってみればいいこと、よ。すごくね」

「なら………なんで、破いたりなんか」

「私はまだ、お前を手放すが怖いの。お前の両親に代わって厳しく育ててきたけど、お前を守れる自信はない。この先、お前は一年一年私の側に居られないところに一人で行かなければいけない。お前なら一人でやっていけるだろうけど……」


 伯母は瞳を揺らして、ハリーの手を取る。

 だけど、言われたハリーは生憎伯母の言っている事が分からなかった。

 分からなかったが、ただ伯母が珍しくあの手紙で動揺していることが分かった。

 ハリーを握る手が、震えていたから。


「伯母さん、よくわからないこと言わないでよ。………確かに伯母さんは厳しすぎて嫌な事はあるけど……僕は伯母さんのこと、嫌いじゃない。嫌いなのは、いびってくる伯父さんの方だよ。だから、………」


 だから泣きそうな顔しないで。と言おうとしたが、伯母がハリーを抱きしめそれは言えなかった。

 けど、伯母はぎゅっとハリーを抱き締めると


「私も、………お前が嫌いじゃないわ」


 そう小さく呟いて。

 ハリーは久々に伯母に抱き締められて、小さい頃に戻ったようで泣きそうになった。

 ハリーが小さい頃、両親がいない事に急に不安に駆られて夜泣きをしてしまっていた。その時、伯母が真っ先に起きて駆け降り、泣くハリーを抱き締めてくれた。

 ハリーが安心して眠れるまでずっと、ずっと側についてくれた。

 もっと小さい時は伯母の腰や足に四六時中しがみついて離れなくて大変だったらしいと聞かされた。

 ハリーは伯母のペチュニアが亡くなった実の母より、母だと思っている。

 だから、こうして甘えてしまいたくなる。

 目を閉じると、伯母の心臓の鼓動が聞こえ安心し、落ち着いた。

 昔から変わらない、聞き慣れた鼓動。

 ハリーは手紙を破かれた怒りなど、どうでも良くなった。

 でも、こうして抱きしめてくれるのはもうない予感がして、ハリーは寂しさに一層泣きそうになった。

 そんなハリーを慰めるように頭を撫でた。


「お前の手紙を破ったのは謝るわ。ごめんなさい、ハリー。だけど、あの手紙は当分の間聞かないでちょうだい。時が来たら、お前に話してあげる。いえ、説明してくれる人が来る。だから、それまで………何も聞かないでちょうだい。何も……」


 何度も伯母はハリーにそう言って、髪に軽く口付けて。

 その様子を二階の部屋の前でダドリーが静かに聞き、そして、何も言わずに部屋に戻った。

 閉めた扉の音は、二人に聞こえなかった。

 ペチュニアが物置部屋を去った後も、生活が一変する嫌な予感がし、その不安でハリーはその夜一睡も出来なかった。

 気丈な伯母ペチュニアが涙を流したことが頭に離れなくて。


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