コウフク±㌻/私は賢者のように賢くなれない。

かめわらじ
@tatamiwaraji

2、家族と、きっかけの小刀と、孤独。

 動物園に向かう車の中。私は次々と流れる景色を瞳に映していた。


 ある二年前の出来事を見られて以来、ハリーが私に対して距離を置くのを止めた。


 原作の方のハリーは常人では説明のつかない不思議な事が起こりまくり、自分のせいではないのに、それを周りのまぐるは全く信じてくれない状況に置かれている。閉塞感に息がつまりそうな環境がハリーだったが……こちらのハリーは何度も例のおーとばいの夢を自らダドリーである私に話しあまつさえ、自分の考えに賛同してくれるんじゃないかと期待するような目を向けてくる始末。ハリーはどうやら私の信じないという否定の欠片もない事に気付いてしまっているようなのだ。

 それまでハリーはそんな話を一切したりなどしなかった。私の不注意による二年前では───


※※※※


 いつものようにたっぷり酒を飲んでぐっすり眠ったバーノンぱぱと仕事で疲れて泥のように寝入ったペチュニアままを二人の寝室からこっそり確認し、ハリーの事なんか鼻っから気にかけず深夜に家を抜け出した。

 私は全然後方を警戒もせず、『友人』と待ち合わせた公園に辿り着く。

 しばらく、キコキコと気ままに一人ぶらんこをこぎながら空いている隣のぶらんこを眺めた。

 すると隣を眺めていたぶらんこが動すぅーと動いてキィーと鳴き───前触れもなくぶらんこに乗った子が出現した。

 ここでは見かけない日本の黒墨色の狩衣かりぎぬ水干すいかん指貫さしぬきを身に着け、絹を思わせる質の良い白灰髪。踝以上ある長く伸ばして髪を高く括った十歳前後の少年。

 私と最初から一緒に居たという風情で、友人のこよみは無邪気に笑いかける。


「久方振り」

「おう。一週間半振り」

「ダドリーにとってはそうかもだけど、わたしにしてみれば、ながーい二ヶ月だったよ。まるで地獄をみたかのような日々」


 暦は二ヶ月間の事でも思い出してか、多少顔から血の気を引いて空笑いをもらしていた。


「……お、お疲れ様。その分じゃ相当扱き使われたんじゃ……?」

「容赦なくね。腕を怪我した人間をこき使うだけ使い、片目が見えない状態で文字通り『鬼』と戦わせられたんだから。あいつは“鬼”だな。契約がなかったら今頃反乱おこしてやるぞ。まぁとりあえず、後少し命落とすところだったよ」


 想像を越えた壮絶な内容だった。私は余りの壮絶さに何も言えないでいると、


「もう笑い話の範疇じゃないよね?」


 彼は笑顔で言ってのけた。しかも、フフフっと少し狂った笑いまで溢している始末。

 この話題にはもう触れない方がいい。自分の為にも。

 彼は話すだけ話してスッキリしたようで、いの一番にぶらんこを漕ぎ出した。子どもみたいに。

 私もそれに付き合うように漕ぎ出す。

 彼はいつものようにぶらんこが一回転するんじゃないかと言うくらいも高く高く高く上がった時に飛び降り、綺麗に地面に着地。

 彼は着地するなり私に振り向くと挑発的な表情で、運動不足気味だから昔みたいに飛べないだろ? とせせら嗤った。

 何おう! と腹の底から怒りが湧き後先考えずより高く漕いで思いっきり飛び降りる。少し彼から距離を大分離した所に着地。着地の際、よろけてしまったが着地したもん勝ちである。

 私が彼より大分離れたところに着地したのを悔しそうに歪ませたが、すぐに何かを見つけて、あっはっはっはっ!! と大笑いし出した。急に笑い出した暦に不審がるが、


「あーはっはっはっ。ダドリーには勝てない、負け負け! でも、もっと笑えるのはそこのメガネ君の間抜け面だっ!!」


 と、彼は指を指して笑いまくる。


 メガネ?


 嫌な予感をしつつも、彼が指差す方向を辿り───こわごわ不躾にこちらをみているひょろこメガネと、バッチリ目が合った。


▼〇▼〇▼


 ぼーぜんとした様子で堂々と顔を晒すひょろメガネこと魔法世界の主人公──ハリー・ポッター。

 どこから見ていたのか。多分、最初から?

 迂闊だった。ハリーだからと高をくくっていた。

 失態と後悔で額を押さえてこらえている私の代わって、彼がハリーの相手をした。初対面の人間なら誰でも人が良さそうと勘違いする完璧な笑顔で。


「こんばんわ」

「こ、こんばんわ……じゃなくて、君、あの時急に、ダドリーの、ブ、ブランコの隣に?! だ、大体、君なんなの?!」


 あれを目の当たりにすれば当たり前の反応で、暦に指を差して疑問をぶつけた。

 彼はにこにこ害がなさそうに笑いながら首を傾げて一言。


「人間」

「その事に答えて欲しいんじゃなくて…」

「君と同じ人間以外何でもないよ」

「あの僕が聞きたいのは、ダドリーの隣に急にばっと出て「錯覚だよ、それ」

「あれって錯覚で済ませるものなの?!」

「済ませるも何もわたしは最初から、彼と居たよ。ねぇ、ダドリー」


 彼が稼いでくれた間、何とか軽率な行動の後悔から抜け出した私は、


「居た。彼は最初から私と居た。ハリーが見たのは錯覚だな」


 口裏合わせて言い切った。

 彼はニコニコと口元を笑みの形にしてハリーを見る。本当に人が良さそうに。

 ハリーはその人が良さそうな彼に、もう一度聞こうとしたが、


「しつこいメガネ。何回も言わせんな。日本のことわざで『仏の顔も三度まで』があるけど、生憎今のわたしは三度丁寧に答える気はないよ。聞きたかったら、そこの身内の『ダドリー』に聞いてみるといい。今のメガネの軽率な行動以上の軽率な発言で、これまでの関係が壊れてもいいという覚悟あるならね」


 口を開く間も与えず、冷たい毒舌でコテンパンにされたハリー。ハリーは暦の毒をもろに受け、泣きそうになっていた。

 うん、誰だって初対面でここまで言われたら泣くよ。暦、苛立ったからってまだ子どものハリーにお前のキツイ毒舌ぶつけるなよ。それと暦………子ども相手にそこまでイラつくなよ。

 泣きそうになったハリーだが引き下がらず、何と盾突こうとした。

 これには笑顔からすっと一転して無表情に。これ、本気で怒らせた顔だ。ま、まずいぞ。

 本能が警笛を激しく鳴らし、私が止めに入ろうした時、ドンと暦に左手で突き飛ばされた。

 どさっと背中から倒れ、地面を転がる。

 えっ? と下から彼を見上げる。

 暦は無面の表情のまま袖から取り出した符を、袖が翻るほど勢いよく放った。


 まずいッ!

 とっさに地面に転がっていた石ころを拾い上げ、ハリーに貼り付く寸前で符を叩き落とした。

 一体何があったのか全く分かってないポカーンとした顔をするハリーに、


「帰れ!」


 大げさに右手を振り、追い払う。

 ハリーに私の感情剥き出しの大声にびくりと身体を震わせる。


「今日のお前は一層可笑しい。彼は最初から居た。錯覚を見るほど疲れているんだ。だから、帰れ」


 無表情の下に隠されている暦の苛立ちを嫌でも感じつつ、早口にハリーをここから離れさせようと言葉を懸命に紡ぐ。

 ハリーはパクパクと何か言いたそうしたに、私がギリッと睨むと目を潤ませた。


「帰れよハリー。お前は彼の言う通り錯覚を見るほど疲れてる」

「で、でもさ…!」

「だから、帰れっつてんだろ。もし帰らないなら、今後一切お前なんか知らん。街中の人間が親しくなるほど知らん。絶断の絶交だ」

「!?」


 ハリーは今度こそ私達の前で泣き出し、背を向けて公園から走り去ってくれた。

 罪悪感こそあったが、これが今あれを見たハリーに対しての出来うる限りの最善策だった。


▼〇▼〇▼


 今度こそ公園に友人の暦だけになる。ハリーを記憶操作しようとした暦を真っ向から睨む。


「腹の虫の居所が悪いからってハリーに八つ当たりするなよ。彼はここの将来有望なえーゆーなんだぞっ!」


 暦はどうでも良さそうに頭に手をやり、


「どうでもいいことに気を使い過ぎじゃない、『ダドリー』さんや」

「どうでも、…いい、だと…?」


 暦は反省どころかふざけたまでのどうでも良さそうな態度にはらわたが煮えくり返った。

 彼は私の内心など気にも止めず、はぁと疲れたように息をつく。


「だってさ、君。君が『ダドリー』やっている時点で原作なんて壊れているって思わなかったの? それって忠実にする意味とかあるのかな? ハリーとか多少ながら仲良くしている時点で」


 彼に指摘されて、あっ…と開いた口が塞がらなかった。そーいえば私自身全部が全部忠実にしている訳じゃなかった。ダドリーらしい横柄さを頑張って真似て今では身に付いてしまったけど、ハリーを馬鹿みたいに虐めないし、ペチュニアままはバーノンぱぱより発言が強くて探偵助手の仕事と家事を両立しバリバリとこなすきゃりあうーまで、バーノンぱぱの社長さんは相変わらずだが、そんなペチュニアままを支えるように育児に積極的だ。


「そうだ…別に原作通りにしなくたっていいんだ。一体何に気を張っていたんだろう、今までの私…」


 今まで無駄に頑張ってきたことが、本当に無駄だったことに気付かされて、余りの衝撃にボーゼン自失。そんな私に暦は、


「君って原作のダドリーと負けず劣らず、十分バカだ。君に似合っているから安心しなよ」


 ポンといい顔で肩を叩かれた。

 それを切っ掛けに私は自暴自棄に近い感じでもっと横柄な人間へと変貌してしまったのだった。

 そして、ハリーもあの苛立ちにぶつけた暦の毒舌を真に受けて、今まで控えめだった性格が、ちょっと原作に近いハリーのように行動的になった。

 それから以降は、『魔法』という暗黙のワードを毎日のようにガンガン使い、私の秘密を暴いてやろうとハリーと日々出し抜き合いが始まったのだ。


※※※※


 到着した動物園。その日天気も良く土曜日だということも手伝ってか、人嫌いな私だけでなくてもウンザリするほど家族連れが多く、何処見ても嫌なまでに人の波で溢れ返っていた。一緒に歩こうとごね煩いバーノンぱぱにはお金だけもらい、母さんと夫婦水入らずで。と背中を押して、私だけ一人でまわることにした。

 入園した際、アイス屋がありハリーと同じく頼んだれもん・あいすを舐めながら見回っていたが、気が散りいい加減腹が立って振り返り、


「おい。私の後について来るなんてどうゆう了見だ」


 鬱陶しさを隠さないが、出来るだけ平坦な声音で言い放つ。

 ハリーが勝手に後ろについて来た。ダーズリー夫妻と別れてから、ずっと。

 距離は開いているが、ついて来ることには変わらない。彼は悪びれもなく、


「たまたま行く方向が同じなだけだよ。気にしすぎなんじゃないの」


 肩をすくめて言う。その仕草無駄にムカつく。


「ほぉ……三十分も同じ方向? お前が食いたかったジェラード屋台も素通りしてまで?」

「か、買おうとしたらダドリーが競歩でどっか行ったからじゃ………はっ」


 ハリーは慌てて口を塞いだが、言ってしまった後。もう遅い。


「やっぱりな。………私の後追い掛けたって、何にもないぞ。あるのはこれから見る動物くらいだ」

「いや、誰かと絶対待ち合わせしているんでしょ? 例えば『例の友人』とか」

「んな訳ないだろ。動物園が初めてだから一人で歩きたくないっていう魂胆でそんな事言ってんのか? 回りくどいやつだな。流石くどいハリーだ」

「ち、違うよ! 何でそんな風に曲がった読み取り方しかしない訳?! だから、学校でもダドリーは近寄りがたいんだよっ」

「嫌なら近寄んなきゃいいだろ。大体近寄って欲しくない鬱陶しい。こっちから願い下げだ」

「だぁーかぁーらぁー! そんなんだからダドリーは学校を転々するたびに友達出来ないし、その度に影で……あっ!」


 と失言遅しにまた口を慌てて覆う。別に影で何言われても平気なのに。ハリーは一応気にしてくれるらしいようだ。まぁ、どうでもいいけど。


「どうせ昼頃には指定したれすとらんで、嫌とも皆集まるんだ。それまで私が一人でどこ歩こうが勝手だ。わかったら、私の背後に歩くな。イラつくから下手したら殴るぞ」


 そう言い捨てて、さっさっと歩き出す。辛らつに言われた癖に、やっぱり後ろから付いて来た。このまま昼辺りまで一緒に歩く羽目になりそう。

 撒いてやるかとも考えたが、背後に付いて来るハリーをちょっとかえりみて諦めることにした。

 離れたら絶対見つけて、現場を押さえてやると言う野心に溢れた目でこちらをガッチリ監視していたから。

 まぁ、なんか原作の方でも一緒に歩いていたような…変えられないこともあるのだろう。

 でも、ここまで監視されながら動物園を回るのは───流石にすとれすが溜まるなぁ……。


▼〇▼〇▼


 園内のれすたとらんに集まる前、結局ハリーとダーズリー夫妻と一緒にまわっていた。

 私が楽しく見ている側で、バーノンぱぱがハリーをいびる声がやかましくてすとれすがたまんなかった。バーノンぱぱは、不平やハリーをいびるのが大好き過ぎだから場所問わず構わない。こっちはやかましくて仕方ないつーのに。

 最終的にはペチュニアままが一喝して、静かにさせたけど。

 バーノンぱぱが静かなまま、園内れすとらんで昼食を取った。

 食後のでざーとにこーひーばにら・ぱふぇを頼んだはずなのにちょこれーと・ぱふぇを間違ってバーノンぱぱが頼んでしまった。

 こっちがいいんだろうダドリー! と彼は笑顔で言い張ったが、私が甘いもんが苦手なの知っている癖にこれは嫌がらせなんだろうか? 私は甘いもんが大の苦手なのだ。

 私は通りかかったお姉さんにコーヒーばにら・ぱふぇを追加注文し、ハリーにちょこれーと・ぱふぇを流した。

 ハリーは「いいの?!」と目を輝かせるが、すぐさまペチュニアままの表情を伺う。

 2ヶ月前にハリーの歯が五本も酷い虫歯になったため、ペチュニアままが甘い物一切禁止令をハリーに下したのだ。ペチュニアままは眠そうな顔で頬杖をつきながらも、


「帰ったらしっかり歯を磨くのよ。もし磨かず、また虫歯になって酷くなったら………糸を車に繋げてお前の虫歯にかけて抜いてしまうからね」


 と原作以上に過激な脅しを言うペチュニアまま。

 うん……日々犯人と格闘しているだけあって、やりそうな迫力があって怖い。生前私を鈍器で襲った六番目の母親なんか目じゃないくらい、怖い。

 ハリーは一瞬ブルリと身体を震わせたが、久々のちょこれーと・ぱふぇの誘惑には敵わず、口をちょこだらけにして幸せそうに食べた。

 どうせまた生えてくるんでしょうけど。というペチュニアままの呟きが聞こえた。

 そうなのだ。ハリーは虫歯になったまだ乳歯の抜いても翌日には生えてくる。

 抜いた歯医者さんもびっくりだ。

 それ以降、ハリーが毎回虫歯になる度に歯医者を変えなくてはいけなった。虫歯でよく泣いていた小さいハリーを車に乗せて走り回るペチュニアままが随分うんざりしていたのを覚えている。

 それ良く分かる。私も小さい甘ったれの弟が居たが、虫歯になるたび走り回った。違法改造したスクーターに乗せて時速六十キロで走ってさ。あれは大変だった。検問に引っ掛からないように迂回して、裏ルートから走って。

 今になって思えば可愛らしい思い出だけど。


 ペチュニアままは欠伸をひとつする間に注文したこーひーぱふぇが届く。

 私が目を細めて食べている間、腹立ちまぎれにハリーをいびろうとしたバーノンぱぱにペチュニアままが「ダドリーの誕生日くらい、静かにしてちょうだい」と彼の脇腹に軽い蹴りを食らわせて黙らせた。うむ、いつ見ても仲睦まじい夫婦だ。

 周りにいた人達が引いたような目で見たが、これが彼らのコミュニケーションであり私たちいつもの日常だ。

 私とハリーと見慣れているので周りの人間の目を気にすることなく、ぱふぇを幸せそうに食べたのだった。

 昼食を終え、夫妻がハリーの昼食代を払うか払わないか(これにはバーノンが払いたくないと食いついてくるため)で言い合っていたが、例のごとく脇腹にぱんちを食らわせて黙らせた。よっぽど今日のペチュニアままの機嫌が悪いらしい。

 眠たくて苛立てば私もそうなる。バーノンぱぱがハリーを多少いびっているのを横目で眺めながら、ペニチュアままが会計でお金を払っている間、お姉さんがけーきをこっそり持ってきてくれた。何故か頬が紅をさして。

 たまたまお持ち帰りができるけーきが目につき、それを通りかかった感じのいいお姉さんに二つばかり頼んでおいたのだ。そのお姉さんはわざわざ息を切らせるほど小走りで持ってきてくれたらしい。いい人だ。

 夫妻は私が持つ箱に関心を持つことはなかったが、ハリーがじっと見ていた。

 もう『不思議な事』を一切隠す気ないから、不信感抱きたきゃ抱け。

 だが、撒いてやるから尻尾を掴ませる気はないぜハリーさん。


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