コウフク±㌻/私は賢者のように賢くなれない。

かめわらじ
@tatamiwaraji

1、贈り物。

 この世に生まれてから私は国外に出たことがなくて、外国人さんが苦手だった。

 外国語を操る外国人さんが、苦手だったのだ。

 日本語以外最低限必須される英語でも、「イングリッシュ」という発音(日本特有のカタカナ発音でも)を聞くだけで胃がキリキリ。英単語を見るだけでも偏頭痛に悩まされる。

 頭からつま先まで、英語=「イングリッシュ」が駄目で母国語しか愛せない(だけど、国語の成績は氷点下)私は、国外から一生出ないぞ! とガキの頃から生存本能で決めていた。


 だが。


 そんな私は現在、海外である英国圏の、何処かの町の『プリベッド通り四番地』の住人である。

 更に言えば、一家の苗字は横文字の『ダーズリー』。

 あるまぐる一家の苗字で有名だろう。

 吸魂鬼でぃめんたーに襲われて『吸魂鬼の口づけでぃめんたーのきっす』などで死にかけ悲惨な目に遭うのが印象的の、一人っ子の『ダドリー』として生を受けた。

 とりあえず色んな目に遭う、あのダドリー。

 色んな山があるけど、吸魂鬼に立ち向かう山は急すぎて歩いてはいけない。

 私の可愛い四人の妹弟達よ、昔が凄く懐かしい。


※※※※


「ハリー、起きろー」


 トントンとハリーの部屋(物置部屋。どうひっくり返し表現しても物置部屋)の戸を叩く。

 何度目が忘れたが、


「起きろー」


 私は出てくる欠伸を噛み殺しつつ、力の入ってないのっくを繰り返した。

 その後も何回か律儀に声をかけたが、戸を叩いたが反応なし。付き合いきれんと戸から手を離すと、部屋の中で呻く声がした。


「起こしたからな」


 戸を越しに投げやりに声をかけ、さっさと台所に行く。

 今頃、ハリーは『空飛びたいおーとばい』の見た夢でも浸っているだろう。この前からその話題を私に振りまくってばかりいるから。


▼〇▼〇▼


 眠気が抜けきれない中、沸かしたお湯をかっぷに注いで、いんすたんとこーひーの完成。

 かふぇいんを含むこーひーの覚めるような匂いに、少しだけ眠気が飛びつつそのまま口に含む。余計なものは入れない方が良く目が覚める。舌いっぱいに苦い味が広がるにつれて眠気が先ほどより飛んでいった。そのままボスっとそふぁーに身を投げる。

 床の周りやそふぁーてぶーるの上にぷれぜんとが山となって埋もれていた。この数だと何十個くらいなんだろう?

 どれぐらいあるか分からないが、とりあえず日本愛国の欲しかった本があったので、かっぷをてーぶるに置いて上体を起こしてから本を引っ張り出すと、ばらんすを崩したのかゴトンと何やら重たいぷれぜんとが一つ床に落ちた。

 何だ? と床に目をやると、それは棒状の筒型で綺麗な白磁色で包装されていた。

 それを何気なく拾い上げ、ビリビリと無遠慮に包装を解く。

 中身を目にして──確実に呼吸するのを忘れた。瞬きすら、しなかったかもしれない。

 手にした『それ』は包装を解く前よりずっしり重く、あの堅い感触がてのひらに、還った。


▼〇▼〇▼


 いつもの嫌そうな顔をして台所にハリーが入って来る頃、私はふかふかのそふぁに転がって、『ぷれぜんと』に頼んだ本を開いて目に通していた。

 すると、ハリーは私がそふぁに居るとわかるなり、そろりそろりと忍び足で寄ってきた。

 そのありありとした近寄り方に苛立ちを隠さず本をずらして、何。とハリーを睨み見る。

 ハリーは、「なんだ気づいたんだ」とチッと舌打ち。気付くも気付かないも入ってきた時点で足音立てていただろうが。

(クソ、相変わらずムカつくヤツ)と私もチッと舌打ち返す。

 昔から顔を見るだけで何故か無性に腹が立つのだ。まるで親世代のジェームズに苛められていた教授が過去の事をハリー通して思い出してしまうような類いの苛つきである。


「おはようさんだハリー。私はお前を見て今から凄く具合が悪くなった。あっちに行ってろ」


 お前嫌いを隠さず、シッシッと追い払う仕草で手を振る。

 彼はとても嫌そうな顔をしたが、だいにんぐの入口を見渡して『ダーズリー夫妻』が来ないこと確認し、


「……僕ね今日も例の夢、…『空飛ぶオートバイの夢』を見たんだ」

「あーそうかい」


 内心うんざりしながらおざなりに言うと、覗き込んでくるハリーを無視して開いた本の頁に目を落とす。話を一切取り合わない私にハリーは機嫌悪くして離れるかと思いきや、つまんないなーとそふぁーの背もたれに頬杖をつき、


「ダドリーって……伯父さんや伯母さんと違ってこの話題振っても反応薄いね」

「他人の夢なんか聞かされても迷惑この上ないだけだ」

「……他人って僕たち一応従兄弟なんですけど。一緒に暮らして長いんですけど」

「どうでもいい。とにかくあっち行け、気が散るムカつく胃が痛む」


 ハリーはあからさまにムッとした顔をして、「なんだよもう…」と機嫌悪く悪態ついて離れ、キッチンに立ちふらいぱんを取り出した。

 ハリーが行った後、私は小さく息を吐く。

 彼がイチイチ両親の神経を逆撫でする『魔法』に関するきーわーどの話題を私に堂々とするようになったのは、二年前のある出来事を見られて以来からだ。

 周りの人間同様に踏み込んではこなかったハリーだったが、今はあのようなふれんどりーな感じに踏み込んでくる。それはもう、秘密を暴いてやろうとしてくるから日々出し抜きだ。

 それはいいとしてハリーがふれんどりーに接してくるのは多分、私と同じ仲間かと思っているんだろう。無性に腹は立つが嫌いという訳ではないので個人的に仲間だと思われても構わないが、どっきりわくわくな行事に出来れば関わりたくない。


 ハリーがべーこんを焼く音を聞きながら、ある記憶を、思い流す。


 愛しい―――の、大事にしていた――達が殺されて、

 でも、最後に彼女だけが残って。赤に塗れた手を掴んで、


『いかないで……わたくしを置いて行かないで…お願い、お願いよ御姉様、御姉様ァアッ……』


 一人生き残ってしまった妹の魂からの叫びが。

 今でも、確かを持って、耳にこびりついて。


 体温が下がっていく錯覚を感じ、腕をさすって頁に目を落とす。

 記憶を思い返したところで、あの頃には、どうせ戻れない。


▼〇▼〇▼


 両親が揃ったところで一日がようやく始まる。

 ペチュニアままに誕生日おめでとうと抱きつかれる。私は小さくありがとうと返すと、彼女は眠そうにしつつも私の頬をぐりぐり擦りよせ、うぅーと唸ってから離れた。頬が少し摩擦を起こして痛かった。

 そして、わざともたもたとベーコンを焼くハリーにペチュニアままは業を煮やして押し退け、フライパンにといた卵と昨日炒めた野菜をぶちこみ、他調味料を加えてささっと焼く。

 そんな忙しいペチュニアままに念のため、ある事を聞いた。


「今年の贈り物って三十八個?」

「三十七個」


 ペチュニアままはこちらを見ることなくきっぱりと言う。

 ペチュニアさんの後ろから美味しそうに焼けたベーコンを覗き見するハリーに「皿」と一言。

 ハリーは慌てて四枚の皿を並べる。ちょっとピリピリしているペチュニアままの雰囲気を察したらしい。

 昨日急に入った仕事が今日の夜中十二時まで押していて、帰ってきたのは二時過ぎ。

 起きたのはついさっきだから、とても眠そうな顔をしている。だから、機嫌がよくないのだ。

 三十七個か……あぁ、あれはやっぱり数に入ってなかったか。

 贈り物をぼんやりと眺めていたら、バーノンぱぱが近づいてきて、誕生おめでとうと笑っていい、ぐしゃぐしゃと私の髪を撫でハリーには毎度ながら「髪をとかせ!」と突っかかった。

 ハリーは嫌な顔をしつつも、フイッと流す。バーノンぱぱは更にハリーに腹を立たせ怒鳴るという毎日の日課である悪循環。

 いつも放置している奴がいうのもなんだけど、私の誕生日の日だけ突っかかるの止めてほしい。私が、イライラするから。

 でも、一番苛々していたのは、


「バーノン。……ダドリーの祝う日ぐらい、静かにしてちょうだい」


 とペチュニア・ダーズリー夫人が睡眠不足で大層イライラした様子で空にしたフライパンを流しに置く。


 ゴンッ


 という何故かへこんだ音がリビング全体に響いた。

 ハリーを怒鳴り散らしていたバーノンぱぱは静かになる。私も、ハリーもついでに静かになる。

 この家で一番偉いのはバーノンぱぱではなく、ダドリーの母であるペチュニアままなのだ。


 そして、誕生日にはそぐわない静かな朝食になったのは言うまでもない。


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