時止まりの物語 親世代編 1年生

ゆうき
@yu102ki

第4章 ホグワーツ特急、1

この小説は夢小説 (名前変換ができる小説) です。
キャラベルに登録してログインすると、登場人物の名前をお好きな名前に変更できます。

硬い壁を抜けると紅色の蒸気機関車が停車していた。あたりは乗客でごった返している。


「うーーわーー!!」


ユウキは目をキラキラさせながら首をせわしなく動かした。9と3/4番線は家族連れや学生でいっぱいだった。魔法族の家族が感動的に別れを惜しんだり、上級生が友達を見つけてぺちゃくちゃおしゃべりをしていた。足元では色とりどりの猫が、ピョンピョンはねて回るカエルを追いかけて大騒動だ。


「うーわー! すごーい! 魔法みたいーーうぎゃっ!」


ユウキの後ろに何か硬いものに当たり、思いっきり前につんのめって転んだ。


「きゃあ! ユウキ! ごめんなさい、大丈夫??」


突然背後に現れたリリーのカートが、見事にユウキの踵と腰に直撃したのだ。ユウキの荷物がカートから滑り落ち、大きな音を立てた。


「い、痛たた…」


痛みに顔をゆがめ、座り込んだ状態でうなった。


「ごめんなさい、まさか立ち止まっているとは思わなくて…」


リリーが申し訳なさそうに手を差し伸べた。ユキがリリーの手をとって立ち上がると、周りの人々が二人を注目していた。思わず頬が熱くなり、二人はあわててこぼれた荷物をかき集めた。その時また改札口から人がやってきた。


「まあ。ユウキ、リリー、一体何をしているの?」


少し遅れてきたリンが目を丸くして地面を這い蹲る二人を交互に見た。リンは、魔法使いでないエバンズ家の人々に挨拶をするため、ユウキとリリーを先に行かせていたのでちょっと遅れたのだ。


「あーんー、ちょっとね」


ユウキは顔だけをリンに向けながら言った。後ろにいたリリーには、ユウキが手提げ袋からこぼれ出た何かを体で隠しながらしまっているのを見られてしまった。


「大方、ユウキが改札口の前でボーっと突っ立っていたんでしょう? ごめんなさいね、リリー」


リンは呆れたようにユウキを見た。


「いいえ、おばさま。ユウキにぶつかってしまったのは私だし…それにこういうことは慣れていますから」


しゃあしゃあと言うリリーにちょっと文句を言いたくなったが、リリーが後ろ手で早くその袋をしまえといっていたので感謝した。


「あぁ、不安だわリリー。ユウキはちゃんといい子でいられるかしら。ユウキのことよろしくね、リリー」

「ええ、任せておばさま!」

「もー! リリーも母さんも! 私は大丈夫よ!」


ユウキはあまりの信頼のなさに、ほおを膨らませた。





ユウキとリリーは席を探すために列車に沿ってカートを転がした。しかしユウキ達が9と3/4番線のプラットホームに到着したのが遅かったため、ほとんどのコンパートメントは埋まっていた。


「どこも開いていないみたい。どうしよう、リリー」


ユウキは先頭車両近くから探し続けているのに一向に見つからないので少し焦っていた。


「とりあえず、後ろまで行ってみましょう。もしかしたら一つくらい開いているところがあるかもしれないし、無くても相席させてもらえるかもしれない」


リリーはキョロキョロしながら歩いている。まるで誰かを探しているようだった。


「ねぇユウキ、私ちょっと人を探しに…」

「あ、リリー、あそこ! あいてるよ!!」


リリーが言い切る前にユウキが遮って言った。


「よかった! でも急がなきゃ。もう列車が出ちゃうわ」


リリーが駆け出し、ユウキはその後を追った。


「ユウキ、誰か座ってるみたい」


先にリリーが気づいた。確かに、ちょうど死角になるところに一人誰かが座っていた。


「でも、もう席は無かったし、相席させてもらおう?」


ユウキが閉まっている窓を荒々しく叩くと、中で本を読んでいた少年が顔を上げた。ジェスチャーで窓を開けるしぐさをすると、少年はすぐにわかったらしく、本を置いて立ち上がった。


「どうしたの? 早く乗らないと列車出ちゃうよ?」

少年はユウキがまだカートを引いて外にいるのが不思議らしく首をひねった。


「私達まだコンパートメントが見つかってないの。あの、相席させてもらえないですか?」


リリーが尋ねると、少年は戸惑った表情になった。どこか焦ったように周りをキョロキョロ見渡したが、助けになる人は誰もいないと悟ったのだろう。意を決したように言った。


「い、いいよ」

「「ありがとう!!」」


ユウキとリリーが声をそろえた瞬間、汽笛が鳴った。


「や、やばい! 列車が出ちゃう!!」


ユウキはあわてて手提げ袋を窓から少年に渡した。リリーはすばやく最後尾の入り口から荷物を載せ、一足早く乗り込んだ。


「ユウキ、早く!!」

「ま、待って、トランクが…」


ユウキの体よりも大きいトランクが足手まといだった。駅員さんが汽車の前方から入り口を閉じ始めている。ユウキは焦ってしまい、うまくバランスが取れなかった。


「トランクを僕に渡して!」


いつの間にか入り口に移動していた少年が、ユウキに向かって手を伸ばした。


「う、うん、おねがい!!」


何とか少年にトランクを渡した。駅員はユウキ達の目の前まで来ていた。


「ユウキ、早く乗って。怒られるわ」


少年と入れ替わって今度はリリーがユウキに手を伸ばした。もたつきつつ何とかその手を掴み、汽車に乗り込む。すぐ後ろで駅員がドアをバタンッと閉めた。


「もう、ユウキったら。入学式早々乗りすごすところだったわ」

「ごめん、だってトランクが思いのほか重くって」


リリーが腰に手をやってプリプリと怒るので、ユウキは笑ってごまかした。


「本当にずいぶん重いトランクだね。何を入れてきたんだい?」


穏やかそうな鳶色の髪の少年がユウキのトランクを引きずりながら問うてきた。ユウキは慌ててそれを受け取ると「えーっと、おしゃれ用品とか?」なんて言ってすっとぼけた。

そうこうしている間に、ゆっくりと汽車が動き出す。ユウキは早く席に着こうと少年のコンパートメント内に入ろうとした。しかし、その前にリリーが声を上げた。


「あれ? そっちの席にいるのは…もしかしてセブルス?」


リリーは、ちょうど通路の真向かいのコンパートメントに、黒髪の男の子が1人座っているのを見つけた。


「え? セブルスって、あの、リリーが言っていたスピーナーズ・エンドの?」

「そう! きっとそうよ! あれはセブルスだわ」


ユウキは驚いた。まさか早々に知り合いに出会うとは思わなかった。


「よかった! 会えなかったらどうしようかと思ってたの!」


リリーは安心したように言う。ユウキもそのコンパートメントを覗いた。するとユウキ達がうるさかったせいだろうか、彼がこちらを向いた。しかめっ面だった。


「セブルス、こんにちは! ねぇユウキ、私ちょっと行ってくる」


彼はこちらに気づいた瞬間(正確に言うとリリーに気づいた瞬間)、驚いたような表情に変わった。リリーはすぐさまコンパートメントに入っていった。


「君は行かなくていいの?」


鷲色の髪の男の子が遠慮がちに言った。


「うん。だって、多分、私は嫌われているもの。会ったのも初めてだし?」


リリーがユウキを誘わない時点でそうであることは察せる。ユウキは少年に持ってもらったトランクを受け取り、遠慮なく彼のコンパートメントにお邪魔した。






少年の名前はリーマス・ルーピンといった。緊張したように眉を寄せている様子が印象的な子だった。


「私はユウキ・クロスノース! これからよろしくね、ミスター・ルーピン!」


トランクをコンパートメント内におさめ、ようやく一息ついたところで、ユウキは元気に挨拶をした。


「えーっと、ルーピンも今年入学…で間違ってない?」


遠慮気味に聞くと、彼はコクリと頷いた。ユウキはハナからそうだと決めつけてかかるところだったが、間違っていなかったらしく、ほっとした。


「えっと…僕は父と母とは挨拶したあとだったから良いけど、君たちは大丈夫だったの?」


ルーピンは話題を探すように、窓の外とユウキを見ながら言う。外の景色は、すでに駅はかき消え、田園の中を走っていた。


「あ」


すっかり忘れていた。ユウキは顔を青くした。まさか、母親のリンに挨拶することなく出発してしまっていたのだ。


「うわぁ…しまった。どうしよう。すごく怒ってそう…うわぁ…」


慌てていたとはいえやってしまった。頭の中では、ありとあらゆる言い訳の言葉の吟味が始まっていた。リンは怒ると怖い。


「えっと、ごめん。大丈夫? …そうだ、お菓子でも食べない?」


慌てふためくユウキ達に、尋ねてしまった身として申し訳なくなったのだろう。ルーピンが小さなお菓子の袋を差し出してくれた。


「ありがとう。でも、なんでルーピンが謝るの?」

「なんだか悪いことを思い出させちゃったかなぁって」

「うん、そう…でもここで思い出さずに、明日まで忘れてて、どうしようもなくなるよりずーっとよかったと思う。ありがとう。 あーーねぇお願いルーピン、後でフクロウに手紙運んでもらう方法を教えてくれない?」

「もちろんだよ」


ルーピンは恐々とおののくユウキの様子に、思わずと言った様子で頷いた。しっかり約束を取り付けたユウキは、ルーピンに差し出されたお菓子の包みをはがし、早速口に入れた。


「わっ! すごい、パチパチする!」


あまりにも強い炭酸にユウキは飛び上がった。しかし、それは比喩ではなかった。本当にユウキは浮いていたのだ。


「わー! ルーピン、何これ! 私飛んでる!」

「クロスノース、フィフィ・フィズビーを知らないの?」


ルーピンは、飛び上がったまま列車の屋根に頭がつきそうなユウキの手を慌てて取った。


「強い炭酸で浮き上がるのが楽しいお菓子だよ。本当は地面から数センチだけ浮かせる程度なんだけど…こんなに浮き上がる人、僕、初めてみたよ」

「えー! すごい! ルーピン、ちょっと手を離してみて!」


手を離してもらうと、ふわふわとユウキは浮かんでいた。ちょうど足がコンパートメントのドアの上まで浮かび上がっている。ユウキは楽しくなって、コンパートメントの中を泳いでみた。


「わ、わ、クロスノース! 危ないよ!」

「見て見てルーピン! 私、空中を泳いでる! きゃー!!」


きゃらきゃら笑うユウキに、いつ落ちてくるか分からず右往左往するルーピン。その騒ぎに気づいたリリーがコンパートメントに飛び込んできた。


「ユウキ! あなた、一体どうしてそうなっているの?」

「リリー! 見て見て! 私浮いてる! 魔法使いらしく飛んでるわ!」


リリーの後ろには、例の『セブルス』もいた。彼も驚いているようで、目を見開いてユウキを見ていた。


「うわ〜、空中っていいね。ふわふわしてる〜」


ユウキが空中に寝そべると、リリーはユウキは安全だと判断したのだろう、呆れたような低い声を上げた。


「まったく、どうしてこうなったの?」

「ご、ごめんよ、僕、クロスノースがこんなに浮くなんて知らなかったんだ」


リリーに睨まれて、ルーピンが縮こまる。そこに助け舟を出したのはまさかの『セブルス』だった。彼は、ユウキが食べたフィフィ・フィズビーの包みカスを慎重に見ていた。


「リリー。普通このお菓子を食べたってここまで浮かないよ。彼女、何か…他にも変なもの食べたんじゃないか?」

「ええ! セブルスひどい! 私、別に、ルーピンにもらったもの以外食べてないよ。きっと体質よ体質!」

「だってほら、ここに注意書きが…『この商品とともに他のガム商品やそれに類するもの(例:ドルーブルの風船ガム、その他マグルの製品)を口にした場合、3階建ての建物より浮かぶことがあります。風にさらわれると危険なので決して混ぜて口に入れてはいけません』…」


セブルスの言葉を聞いたリリーの頭の中には先程見た手提げ袋が浮かんだに違いない。


「ユウキ。白状して。何を食べたの」

「え〜ただのミントガムだよ。ほら、昨日母さんにもらったやつ」


バレてしまっては仕方ないとユウキはペロリと舌を出した。


「もう! しょうがないんだから! 一体いつになったら降りてこれるの!?」

「さぁ? どうなんだろうねー。リーマス、このお菓子の効果ってどのくらいなの?」

「持って1〜2分のはずなんだけど、クロスノースはもう5分くらいは浮いてるね」


それを聞いたリリーが青い顔をする。


「ええ! 本当ならもう効果は終わっているってこと? じゃあ、ユウキはいつ降りてこれるの?」

「リリー、落ち着いて。大丈夫だよ。注意書き程度の警告だから、そんな大きな事態には繋がらないはず」


セブがリリーを落ち着かせるように言う。ユウキは初めて噂の『セブルス』に会ったが、存外常識的な子で安心した。


「私、空中に浮いたまま暮らすのもいいかもな〜。なんとか移動できるし、寝るときはリリーが毛布さえ取ってくれれば大丈夫だよ」

「バカ言ってないでよ! もう、ユウキったら、早速こんなたのし…大変なことをしでかすんだから!」


嘆くリリーに、ユウキは笑いかけ、まぁまあと落ち着かせる。


「せいぜい持っても10分くらいだから」

「え、どう言うことなの?」

「家で何度か試したから」


ユウキは手提げ袋をリリーに見せた。その中には沢山の悪戯グッツやお菓子が入っていた。一部マグルのお菓子も混じっていて、何度か間違えて食べてしまったことがあると教えてあげた。


「もう。あなたって人は!」

「あはは、ごめんねリリー、リーマス、セブ!」


ケタケタ笑いながら、ユウキは三人にお菓子を配った。






そうやって、魔法界の悪戯グッツやお菓子で盛り上がっていると、安心して一息ついたらしいリーマスが、小さな声で聞いた。


「ねぇ、君、さっきは大丈夫だった?」


それはセブに対してだった。ユウキやリリーがきょとんとし、セブルスがしかめっ面をした。


「あ、ご、ごめん。あまり聞かせたくない話だった?」


おずおずとリーマスが言う。セブルスは口を引き締めた。


「べつに。あいつらなんか知ったことじゃない」

「そう? 結構言い合いしていたように見えたから…」


セブルスはすぐに何の話か察したのだろう、少し不機嫌にそっぽを向いてしまった。


「言い合い? セブルス、喧嘩したの?」

「…違うよリリー。絡まれたんだ」


リリーに問われ、観念したようにセブルスが説明した。

セブはかなり早めに汽車に乗り込んで出発を待っていたらしい。元々は別のコンパートメントに席を取り、これからの学校生活のことを思い、物思いにふけったり、教科書を読んだりしていたそうだ。しかし、そこに同じ新入生らしき男の子が絡んできたという。


「唐突にコンパートメントに入り込んできて、よろしくだの、緊張するだの一方的に話しかけてきたんだ。けど、どの寮に入りたいかという話になった途端、機嫌が悪くなった」


ユウキやリリーは寮がどういうものなのかがよくわかっていなかったが、セブ達はそれが原因で口喧嘩になったそうだ。


「そういえば、もう一人いなかった? ちょっと気だるそうにしてた子」

「あぁ。あいつもコンパートメントを探していたらしくて、たまたまぼくのところに来たみたいだった。でも、寮の話になったらあいつも一緒だった」

「なんだ。二人とも知り合いじゃなかったんだ」


リーマスは、取っ組み合いになりそうなほど熱くなってきたところに、たまたまコンパートメント探しで居合わせたらしい。急いでリーマスは二人の男の子からセブルスを引き剥がし、最後尾のコンパートメントまで連れてきたとのことだった。


「僕、仲良しの子と引き離しちゃったかなってちょっと心配だったんだ。よかったよ」

「ありがとう、セブルスを助けてくれて。えーっと…?」


そこでリリーはまだリーマスと挨拶していないことに気がついた。


「あ、僕はリーマス・ルーピンだよ」

「私はリリー・エバンズ。よろしくね。挨拶が遅れちゃってごめんね」

「仕方ないよ、トラブル続きだったもん」


リーマスはクスクスと笑いながらトラブルの元のユウキをチラリとみる。ユウキはまだふわふわ浮かびながら、おどけるように肩をすくめて見せた。


「で、こちらはセブルスよ。セブ、ほら挨拶しよう?」

「…セブルス・スネイプだ」


セブはようやくリーマスと挨拶をする。ユウキはそれを見て、ぷうっと頰を膨らませた。


「えー! セブルス、私とは?」


ゴロゴロと寝転がるように回りながら空中を移動し、ユウキは吊り下がるようにセブルスの前に浮いた。


「私、知ってるのよ。リリーが私とセブルスを会わせてくれようとしたのに、セブルスが嫌がったって! 会ったこともないのに嫌がられたって聞いて、ショックだったわ」


ユウキは噂のセブルスに対して、少しいじけていた。


「どういうこと?」


リーマスがリリーに問う。リリーは少し困り顔をした。

ユウキはセブルスのことをリリーから噂で知っていた。セブは同じコークワースのスピナーズ・エンドに住んでいるという。スピナーズ・エンドは古くからある工業地帯で、リリーやペチュニアを含むエバンズ家は、父親の仕事の関係でよく行っていた。リリーはそこでセブルスと出会ったらしい。すっかりセブルスと親しくなったリリーは、すぐに一番の親友であるユウキにも彼を紹介しようとした。でも、それをセブルスが拒否したと言う。


「…ぼくはてっきり『ユウキ』はマグルなのかと思っていた」


セブは居心地悪そうに言った。その言い方だと、セブもユウキのことをリリーからたくさん聞かされていたらしい。


「あら。マグルなら友達になれないの?」


ユウキは目を細め、セブをじぃっと見た。そうであるならひどい話だ。


「かもしれない…いや…マグルの方がぼくを嫌がる」


セブルスは一瞬リリーを見て、そして下を向いてしまった。手がワナワナと震えていた。なんだか泣きそうだと思ったのは秘密だ。


「…私は嫌がらないわ。だって、『セブルス』はリリーの友達だもの。それに残念ながらマグルじゃなかったしね!」


スィーッと空中をかき分けて、ユウキはセブルスの手を取った。


「私はユウキ・クロスノース。よろしくね、セブルス・スネイプ!」


先程の不機嫌な気持ちなんてどこかにやって、ユウキはニコリと笑いかける。セブルスの驚いた顔が見ものだった。


「よ、よろし…く」


絞り出すように言うセブルスに、ユウキはニッコリ笑う。


「そうそう。私も『セブルス』って呼ぶからよろしくね」


そう宣言すると、彼が臆面もなくイヤな顔をしたので面白かった。






ようやくフィフィ・フィズビーとミントガムの効果が切れてユウキが座席に大人しく収まった頃、ユウキ達はリーマスがくれたお菓子に夢中になっていた。


「わ、わ、何これ、チョコレートが飛び跳ねてる!」

「『カエルチョコレート』だよ。まだまだ魔法のお菓子は沢山あるよ」


まだ見ぬ魔法のお菓子を夢見て、ユウキは目を輝かせた。ユウキ達は、カエルチョコレートについていたカードの話(ニュート・スキャマンダーのカードだった)や、そこから「魔法動物」の話になり、どんな魔法動物を知っているかや、魔法動物の一部を使った杖の話などたくさん話をした。


「ところで…あの」


色んな魔法界の話題を提供してくれるリーマスに、ユウキやリリーはすっかり気を許していた。しかし彼は人見知りなのだろうか、まだぎこちない雰囲気があった。どこか言いづらそうにする彼に、ユウキとリリーは二人して首を傾げた。


「ごめん、その、確認というだけなんだけどーー君たちはマグル出身なのかい?」


ちなみに僕は両親とも魔法使いだよ、と口早にリーマスは言った。


「私はそう。両親ともマグル。だから改札から駅には来れなくて…」


リリーが言った。


「ああ、なるほど。ということはじゃあクロスノースは違う?」

「ユウキでいいよ」

「あ、ありがとう、ユウキ」

「私もリリーって呼んでね」

「う、うん」


ちょっとだけリーマスが照れたのがわかったけど、リーマスが何気なくしようとしているのでユウキは知らないふりをした。


「私の方は微妙なところかなー。一応両親は魔法族らしいよ。ホグワーツから入学許可証が来るまで知らなかったんだけど」

「知らなかった?」

「両親?」


セブと、リリーまで驚いた顔をした。そうだった、父のことはまだリリーにも話していないのだった。


「あーーうん。えーっと、もし母さんが言うには、私が魔法を使えなかったらマグルになろうとしてたんだって」

「え? マグルに? どうしてーー」

「ほら、今、魔法界は特にあまり良くない雰囲気じゃない。私もあまり詳しくは知らないけど…できるのなら安全に暮らしたかったみたい。良くわからないけど」


できれば父の話はしたくなかった。まだ自分の中で実感が少ないのだ。母の涙を思い出して、少し胸が痛んだ。


「そうなんだ…まぁ、わかるような気がするよ。今は、少し、ね」


リーマスは、ぎゅっと自分の服をつかんだ。


「でも、ということは、ユウキもあまりまだ魔法界のこと詳しくはないんだね」

「うん、まぁ。でもそれがどうしたの?」


リーマスが少し深刻そうに言うのでユウキはまた首を傾げた。


「いや、君たちが魔法界のことに慣れてないみたいだから…あまり魔法のお菓子のことも知らないみたいだったし」

「そうね。でも…それが何か問題あるのかしら」


リリーが不安げに聞いた。リーマスの様子に引きずられたのだろう。セブルスの方に身を寄せた。


「少しだけ…うん、リリーはちょっとだけ気をつけた方がいいかもしれない」

「気をつける?」

「うん。その、君たちも知っているかな、『闇の勢力』のことーー」

「う、うん。まぁ」


ユウキは思わず右手の甲を触ってしまった。


「彼らが何を信奉しているのかも?」

「えーっと…なんか変なおっさんを神格化してるってーー」

「しっ! ユウキ、ダメだよ。誰に聞かれてるかわからないんだから」


ユウキの間抜けな答えにルーピンはサッと顔色を変えた。急いでユウキの口を押さえて黙らせる。その反応にユウキは驚いた。


「いくらなんでも…ここは最後尾席よ。それにそんな怯えなくても」

「いや、どこに聞き耳立ててる奴らがいるかわからないからーー」


リリーの言葉にもルーピンは首を横に振った。ユウキとリリーは思わず目を合わせた。


「ーー君たち『純血主義』って知っているかい」


ユウキが息を飲んだ。リーマスはそれだけでユウキが知っていることを悟ったようだ。リリーだけが首を横に振る。リーマスはゆっくり、でも静かに、周りを警戒しながら説明してくれた。


「『純血主義』とは魔法族の血筋だけを尊ぶ考えのことをいうんだ。マグルのことをあまりよく思っていない連中の考えで、『闇の勢力』はこれを1番に掲げているらしい。純血については意味を知ってるねーー?」


リーマスはリリーを見る。リリーはこくんと頷いた。


「近頃彼ら動きが活発化していて、つい数ヶ月前にも事件を起こして新聞に載ったばかりだ。噂では、彼らは『許されざる呪文』を使って人を脅したり殺していると言われている」


ユウキはリーマスの言葉に、危うく「噂なんかじゃない」と口走りそうになった。しかし、母の涙を思い出し、すぐに思いとどまった。

母は闇の勢力のことをとても恐れていた。もしユウキが何か口走ったら、何故それを知っているのかリリーやルリーマスに話さなければならないだろう。そして、もし万が一手の甲に印のことがバレたらーーユウキは今度こそ奴らの仲間だと疑われるかもしれない。

あの晩、母やポッター氏、あのお爺さんーーダンブルドアは、ユウキの印を見ただけで印が何であるかがわかっていた。そしてポッター氏は「この印の意味を知る人がいるかもしれない」から普段から隠すようにと言っていた。


「彼らは普段、闇の勢力の一員とはわからないように生活しているらしい。だから君達はこれからホグワーツで過ごすにあたって、殊更注意しなくてはならないんだ」

「どうして? 学校なのに?」


リリーが問うと、リーマスはコンパートメントの入り口を目だけでさっと確認し、小さな声で言った。


「ホグワーツに通う生徒の中には、闇の勢力の一員である親を持つ子がいるかもしれない」

「えっ、そんな」


リリーがぱっと口を覆った。リーマスは無言で頷く。


「ホグワーツは伝統が長く、数ある魔法学校の中でも最高の学府と言われているからね。純血と言われる一族の親は子どもにホグワーツを卒業してほしいと願うんだ。学校側も、確信のないことで入学拒否なんてできない」


リリーはショックを受けたようだった。気づけばユウキの手をぎゅっと握っていた。


「…リリーをあまり脅かすな」

「あっ、ごめん。その、脅かすつもりはなかったんだ…もちろん、そんな人はいない可能性だってある。それに純血だからと言って皆んなが皆んな純血主義というわけじゃないだろうし。それこそホグワーツの校長、ダンブルドア先生なんてそうだね。ほら、とても良い方だ」


リリーの様子にセブルスが唸ると、リーマスは慌てて安心させるように言う。


「ダンブルドア校長は最高な方だよ。かつて悪の所業を尽くしたというグリンデルバルトを倒した人だからね。ダンブルドアが校長である限り、ホグワーツの生徒は安全を保障されてる」

「…でも、注意はしていた方がいいんだね。校長も疑いがあるだけでは入学拒否はできないから」


リリーが問うと、リーマスは少し惑ったようだが頷いた。


「『もしかしたら』隣に座る人の親が闇の勢力の一員で、マグル出身者のリストを作っているかもしれない…学校で手は出せなくても、ダンブルドアの手の届かない学外に出た時はわからない」


リーマスの目は真剣だった。その真剣さに、リリーもまた頷くしかなかった。

「ーーごめん、楽しい気分に水を差すつもりじゃなかったんだ」


シンとなったコンパートメント内に、リーマスの声だけが響いた。すっかり空気が重くなり、周りの生徒たちであろう喧騒が響いた。

耐えられなくなったのであろうリーマスが、しょんぼりと眉を垂れて立ち上がろうとした。


「ごめんよ、僕、ちょっと外の空気を」

「リーマスは、詳しいんだね」


しばらく黙っていたユウキが被せるように言った。そのためリーマスはもう一度座席に腰を戻すはめになった。


「そんなことはないよ…その、僕も両親に言い含められたから。君たちにも学校に着く前に伝えていた方が良いのかと」

「うん、ありがとう。私たちのこと心配してくれたんだね」

「リーマス優しいのね」


察したリリーも、すがっていたユウキの腕を離しながら笑みを浮かべた。


「リリー、私達って何も知らないんだね。リーマスに聞けてよかった」

「うん。滅多に人の話をまともに聞かないユウキが真面目に聞いていたもんね」

「ええー。なんかホラ、本当にヤバイっていうものには本能が働くというか。これは聞いておかないとまずいぞと思って」

「何それ。じゃあ普段私の話には本能が働いてないのね。一度も真面目に聞いてくれたことないもん、ひどい」


プリプリと言い出したリリーに、ユウキは急いでそんな事はないと言い募るが、リリーは疑いの目しか向けてくれない。


「ユウキはあの時もーー」

「えっ、あれはそんな別にーー」


段々リリーは、本気でユウキの普段の集中のなさについて文句を言い出したので、ユウキは焦った。


「…優しいのは、君たちの方だよ」


リーマスが呟いた時には、リリーにダイアゴン横で迷子になったことを責められ始めたので、ユウキは目配せしてリーマスに助けを求めるはめになった。