BL「カウンター越しの恋」

しおり*創作
@ss0usaku

カウンターを越えた愛(2)

武藤さんの誕生日の日から、僕たちはたまにキスをするようになった。落ち着いた雰囲気のなかで、去り際に、色々なシチュエーションで、僕と武藤さんはキスをする。


ちゅっという軽いキスで、僕は一杯一杯だ。それを武藤さんも分かってくれているのか、あからさまに性的な雰囲気のあるキスをしてくることはなかった。

口と口とくっつけるだけの、親愛のようなキス。それでもとっても恥ずかしい。キスのあとは、堪らなくなって、どこかに走り去ってしまいたくなる。だけど、武藤さんの嬉しそうな顔が僕を引き留める。キスのあとに見せてくれる、笑顔。それに僕はいつも嬉しくなってしまって、恥ずかしさも忘れてぼーっと見いってしまうのだった。



いつものように、武藤さんのおうちで晩御飯をいただき、コーヒーを飲んでいる。隣り合って、他愛もない話をぽつぽつとしているだけだけど、とても満たされる。幸せだった。


ふと、となりに座った武藤さんと目が合う。ふ、と笑った武藤さんは、僕に手を伸ばしてきた。これは。


「いつ見ても、ハヤカワくんはかわいらしい」


そんな恥ずかしいことを言いながら、武藤さんの手は僕のほほを包み込み、顔をすっと近づけてキスをくれた。


コーヒーの香りがするキス。そういえばこのコーヒーは、先日の誕生日に贈ったものだ。独特のくせが鼻を通っていった。


「まだ恥ずかしい?」

「……はい」

「そうか」


所在なさげにする僕の肩をぽんぽんと叩き、「ごめんね」と謝ってくる武藤さん。


「せっかくリラックスしていたのに、緊張させてしまったね」

「いえ、いつまでも慣れない僕が悪いから……」

「悪いだなんて。そんなことはないよ」


悪いことをしていると思う。本当に、根気強く僕に付き合ってくれる武藤さんに、何も出来ていない。何か、返したい。キスは恥ずかしけれど、武藤さんのことが好きな気持ちは、確かにあるのだ。


「僕は、武藤さんが好きです」


伝えなくちゃ。しっかり、伝えなくちゃならない。そう思って発した言葉に、武藤さんは驚いたようだった。


「好きと、ハヤカワくんから言ってもらうのは、初めてかもしれない」

「……そう、でしたか?」

「とても嬉しい。わたしも、ハヤカワくんが好きだよ」

「僕も嬉しいです」


キスよりも恥ずかしいかもしれなかった。顔が赤くなる。体温もぐんぐんあがっていくのが分かった。


「キスができなくったって、本当に構わないんだ。ハヤカワくんが、わたしの側にいてくれて、わたしのことを想ってくれているなら」

「でも、普通付き合っているなら、キスや、それ以上のことも……」

「普通を気にして、ハヤカワくんに居心地の悪い思いをさせたいとは思わないよ。わたしたちが幸せなら、どんな形でもいいんだ」


優しいな。武藤さんはとても優しい。


「……好きです。とても」

「うれしいよ」

「ほんとは……いつか、武藤さんと、もっと色んなこと、してみたいです」

「待っているね」


にっこりと笑った武藤さん。


自信のない僕。うじうじして、奥手な僕。そんな僕なんかを、しっかりうけとめてくれる武藤さん。好きだ、大好きだ。


いつか、僕の全てをさらけ出してみたい。武藤さんの全てを受け入れてみたい。恥ずかしいけど、時間がかかるかもしれないけど。


待っていてくれるというなら。


「いつか、必ず」


ちゅっと武藤さんに、約束のキスをした。



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