BL「カウンター越しの恋」

しおり*創作アカ
@ss0usaku

カウンターの外の愛1

武藤さんと個人的に会うようになって半年。手を繋いだり、おでこにキスをしてもらったり、ゆっくりだけど、スキンシップがとれるようになってきた。正直、ものすごく進展が遅いと思う。でも僕は、いわゆる奥手というやつだから、これでもあっぷあっぷだ。

だけど、武藤さんはどう思っているかな。30代後半でも格好よくて、きっと若い頃もきらきら輝いていただろう武藤さん。いろんな人と付き合ってきたんじゃないかな。経験豊富そうな彼にとって、ぼくみたいなうじうじした人間は鬱陶しいんじゃないかな、というのが最近の悩みだ。


でも、恥ずかしい。手を繋ぐのも、キスも、全部武藤さんからしてもらう。それだけでも恥ずかしいのに、自分から、とか、それ以上のことを考えると……ああ!しんでしまいそうだ。

だけど、そういうことができないからって見捨てられたらどうしよう……

カウンターの外で会えるようになっても、僕はいつまでも消極的で、思いきることができないでいた。



そうやって悩んでいたとき。

いつもみたいに、武藤さんのおうちのふかふかソファで一緒にコーヒーを飲んでいたら、

「そういえば、来週はわたしの誕生日なんだ。この歳になって誕生日パーティーというのも恥ずかしいのだが、もしよければ、ディナーに付き合ってくれないか?」

と提案された。


「もちろんです!お誕生日おめでとうございます」

「ありがとう、嬉しいよ」


と、はにかむ武藤さん。かわいい。武藤さんは格好よくて、でもかわいいところとあるのだ。誕生日だから、なにか贈りたい。何を贈ればいいだろうか。

相手は一企業の社長さん。大学生の僕が買えるものなんて、大抵自分で買ってしまえるものばかりだろう。気持ち、が大切なのだろう、が、気持ちというものが一番難しい。武藤さんが喜んでくれるもの……

今までお付き合いをしてきて、一番喜んでくれたもの。


それは……



武藤さんのお誕生日当日。ディナーと言っていたけれど、なんと武藤さんのおうちで、武藤さんの作ったごちそうを頂くことになった。武藤さんいわく、「外で食べるより、落ち着いていられるから」とのことだが、武藤さんに色々してもらってばかりで、武藤さんの誕生日という感じではない。なんだか申し訳ない気分だ。僕の用意したプレゼントも、喜んでもらえるか分からないし……


不安を抱えつつ、でもディナーはとても楽しかった。珍しくお酒を共に飲み、語らう。いつもの会話も楽しいけれど、少し浮わついた、この雰囲気もとてもよかった。



食後。コーヒータイムだ。

今日の日のために、僕は新しく武藤さんの好きそうな豆を買ってきた。気に入ってもらえるといいけれど。


「これは、新しい豆だね」


武藤さんはきちんと気づいてくれた。


「とてもいいフレーバーだ。好きだよ。ありがとう」

「いえ……」


僕もご相伴にあずかりながら、コーヒーをすする。少し癖のあるコーヒー。気に入ってもらってよかった。

コーヒーを飲み干して、リラックスしている武藤さんを横目に、僕はものすごく緊張している。……誕生日プレゼントは、もうひとつあるからだ。気に入ってもらえるか、全く分からない。怖いくらいだけど、きっと、受け入れてもらえるんじゃないかな。あのときの、満面の笑みを思い出して、自らを奮い立てる。


「武藤さん、あの……」

「ん?」


こちらを向いた武藤さんの、唇に、僕の唇をくっつける。


一瞬のことだ。子供みたいな、軽いキス。それでも僕は恥ずかしくてどこかへ走り去っていってしまった。武藤さんの顔を見られない。

あの日、カウンターを越えた日。僕の、珍しく積極的な行動にきれいな笑みを見せてくれた武藤さん。だから、僕からの積極的なアプローチに喜んでもらえるんじゃないかと、思い上がりかもしれないけど、そう思って、頑張ってみたけれど、でも、どうだろう。


こわごわと、顔をあげる。


そこには、とってもとっても綺麗な笑みを浮かべた武藤さんがいた。


「嬉しいな。これは、プレゼントかな?」

「……はい」


蚊の鳴くような声で答える。ああ、恥ずかしい。恥ずかしくてもう、もうだめかもしれない。だけど、綺麗な笑顔を見ることができて幸せだ。ぼーっと見惚れる。


ぼんやりしていたら、すっと武藤さんの手が僕の頬を包んだ。そして、彼からの口づけ。僕のよりも、しっとりとしたそれに、くらくらする。顔に血が上ってどうしようもなくなった頃、やっと顔が離れていった。


「真っ赤だ」


からかわれて、より一層恥ずかしくなる。


「僕、半年もお付き合いさせてもらってるのに、こんなことしかできなくて、すみません。本当はもっと……もっと色々」

「焦らなくていいよ。わたしは今の関係でも充分幸せだ。自分のためにコーヒーをいれてくれるかわいらしい子がいる。控えめだけど、わたしの喜びを考えてくれる子がいる。こんな幸せなことがあるだろうか」

「でも……」

「ゆっくり、いこう。君の幸せを、わたしも願っているのだから。無理は禁物だよ」

「待たせてしまうかも」

「それもまた楽しいことだよ」


優しくフォローしてくれる武藤さん。

……ゆっくりでもいいのかな。キスや、その先が、今はできなくても。

武藤さんがいいって言ってくれるなら、それに甘えさせてもらおう。


「でも僕、武藤さんとのスキンシップは好きです」

「嬉しいな」


そう言って、武藤さんは僕の頬にキスをして、抱き締めてくれたのであった。