Convalescent -恢復期-(上)

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@tenkufuga

9.フェイク(2)

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 翌日、ライプツィヒ・バッハ音楽祭での公演について雑誌社の取材があると昇は朝から出掛けて行き、涼子はそんな彼を見送ると、スマートフォンからある人物へと電話をかけた。

 驚いた事に彼はまだ東京へと帰っておらず、「そろそろかけて来る頃だと思っていたよ」と告げると、2時間後、母校の大学近くの森林公園を待ち合わせ場所へと指定して来た。

 涼子はTシャツにジーパンというラフな格好に手早く身を包むと、朝食もそこそこに、取り急ぎ待ち合わせ場所へと向かった。



 初夏の平日10時という、まともな子供や勤め人なら皆学校へ会社へと出掛けている時間帯で、森林公園の中央付近に位置する時計塔近辺は閑散としており、鳥の囀りしか聞こえて来なかった。

 三好は既に先に来ていて、時計塔の台座に身をもたせ掛けていたが、涼子の姿を目に止めると、またあの嫌な笑いを口元に浮かべた。

「やっと俺の言葉が信用できたかい?」

 涼子は暫く口を紡いだまま、じっと眼鏡のレンズ越し、三好の瞳を見返した。



 昇が裏切った、という話を、頭から信じ込んでいる訳ではない。

 仮に裏切っていたとしても、昨日の彼の涙に、涼子は嘘は無いと思った。

 声を堪えて涙を流す彼を、涼子はなんとか助けたいと、助けられないまでも、その理由を知りたいと、そう思ってここまでやって来たのだ。



「知っている事を教えてくれ。彼について、全部」

 低く、圧し殺した声で涼子は要求する。

「そうだなぁ。それには条件がある」

 身を起こすと腕を組み、軽く顎を上げて、三好は口角を引き上げる。嫌な予感がして、涼子はきつく眉間を引き結んだ。


「俺と一緒に来てくれないか」

「――嫌だ、と言ったら?」


 予感が的中し、涼子は左足を半歩じり、と後ろへ後退る。

 何処へ、と問わなかったのは、それが「もう一度付き合ってくれないか」でも「俺と結婚してくれないか」でも無く、「一緒に来てくれないか」だったからだ。


 先程から頭の中で煩い位に警鐘が鳴り響いていた。


 やはり会うべきでは無かったのだと。この、三好でない●●●●●何者か●●●」から、速やかに離れよ、と。


「今は嫌だと断っても、結局お前はその気になるんじゃないかなぁ……。

 ――だって」


 腕組みしながらヘラヘラと楽しそうに笑っていた顔が、不意にすうと引き締まる。

 三好ではない、全く別人の冷淡な面差しに変化した「その男」が、囁く様にそっと唇を開いた。




「昇様に裏切られ国を追われたこと、今は忘れていらっしゃるだけなんでしょう? 翔空様」




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