Convalescent -恢復期-(上)

天空風牙@フォローリクエスト受付停止中
@tenkufuga

3.きみのキレイに気づいておくれ

この小説は夢小説 (名前変換ができる小説) です。
キャラベルに登録してログインすると、登場人物の名前をお好きな名前に変更できます。


降りたホームから手近な階段を上がろうとした所で、涼子の目に一人の小柄な老婆の姿が留まった。大きな買い物カートを傍らに、手摺に縋りながら一段歩を進めては、買い物カートを持ち上げ、また一段歩を進めては、買い物カートを持ち上げと、亀の歩みの様に必死で歩を進めている。

エレベーターの存在に気付かなかったに違い無い、乗降客に埋もれながらふらつくその老婆の元へ、涼子は迷い無く近付くと、周囲の雑音に負けない様大きな張りのある声で声をかけた。

「お手伝いしましょうか?」

こちらを見上げた老婆は暫く驚いた顔で涼子の顔を見詰めていたが、「そんな、悪いよ」と遠慮する。

「うちの母も、生前は脚が悪かったんです。慣れてますので、気にしないで下さい」

「亡くなられたのかい? あなたのお母さんなら、まだ若いだろうに、気の毒だねぇ」

微笑んだ涼子に、老婆は「ごめんねぇ、ありがとうねぇ」と、カートを手渡してくれた。

持ち上げたそれは、年若い彼女の力でも相当に重く、涼子は少々ビックリする。

腰に負担をかけない様、姿勢を正して一段持ち上げようとした、その時だった。

いきなり荷物が軽くなり、それが誰かにカートを持ち上げられたからだと気付いて涼子は顔を上げた。

「手伝いますよ」

涼子からカートを取り上げた男は、ふわりと微笑むと、そのまますたすたと階段を上り、上りつめた先の改札コンコースにカートを置くと、こちらを見下ろした。

「あの男前、あなたの恋人かい?」

足を踏み外してはいけないと、付き添って一緒に階段を上っている間に老婆に尋ねられて、涼子は苦笑する。

「そんなんじゃありませんよ」

「なんだい、勿体無いねぇ」

「男前過ぎて、私には勿体無さ過ぎます」

「そうじゃないよ、逆だよ」

言われて涼子はどういう事かと老婆の瞳を覗き込む。

その皺に囲まれた目には、幼い頃、自分を可愛がってくれた父方の祖父母と同じ、優しく暖かい光があった。

「こんな親切な娘さんに相手にされないなんて、あの男前も報われないねぇ。なかなかお似合いの二人に見えるんだけどねぇ」

はぁ〜勿体無いことだ、と呟く老婆に、何か勘違いされている様で、でもいちいち訂正する気になれなくて、涼子はそのまま黙り込んだ。

最上段に到着し、「ありがとうねぇ、本当に助かりました」とカートを引いて去って行く老婆を見送りながら、悪い気がしなかった老婆の言葉に、涼子はなんだかむず痒い気持ちを覚える。

それは自分の親切を褒められたからなのか、それとも似合いの二人だと褒められたからなのか。


親切を褒められたからに違い無い、と結論付けて、涼子はデパート入口の方へと歩き出した。



9 / 20