Convalescent -恢復期-(上)

天空風牙@フォローリクエスト受付停止中
@tenkufuga

3.きみのキレイに気づいておくれ

この小説は夢小説 (名前変換ができる小説) です。
キャラベルに登録してログインすると、登場人物の名前をお好きな名前に変更できます。


「それにしてもこの業務、本当にあなたがする必要があるんですか?」

長い脚を邪魔そうに折り畳みながら、隣の座席に座る昇が胡乱そうに聞いて来る。

「手作りの料理が食べたいなら弁当を持って来ればいいし、食材が必要なら自分で買いに行けばいい」

「仕方無いだろう、相手は社長なんだから」

そんな事よりも、さっきから周囲の視線が痛い。

モデルか俳優の様な、それも低レベルな日本の、ではなく世界的レベルの美貌と体格を兼ね備えた昇は、存在するだけで嫌でも周囲の目線を奪ってしまう。

彼はまた、美しいだけでなく、身なりも良かった。

今日も彼は高価そうで上品なスーツをさり気なく着こなしている。

初めて会った時は後に演奏会の打ち上げが控える予定だった為それなりの格好が必要なのかと思っていたが、そうでは無かった様だ。

普段車やタクシーを利用していそうで、電車なんて頻繁に利用するとは思えない、そんな外見の昇がどういう酔狂か電車移動に付き合うというので、ただ通り過ぎるだけの道路や駅構内までは良かったが、いざ電車という密室内に二人で足を踏み入れた途端、恐ろしい数の視線が突き刺さって来て、涼子は正直辟易していた。

最も彼女を消耗させるのは、昇を眺めたその視線が、そのまま涼子の方へずらされ、まるで値踏みをする様に眺め回されることだ。

隣にいる者として、相応しい容姿では決してないこの女が、友なのか、恋人なのか、家族なのか、はたまたただの知り合いなのか……女性からは特に嫉妬の混じった侮蔑の様な目まで向けられて、蔑まれ慣れているとはいえ、流石に涼子は憂鬱になって来る。

「大体なんでワンマン社長があなたの手料理を食べられて、最もあなたを愛する俺は食べられないんです。おかしいですよ」

しかし昇には、涼子の会社の社長が職権乱用している事の方が、ずっと重大らしかった。

「涼子さん、今度是非俺に手料理食べさせて下さいね?」

癖なのだろう、微笑みながら小首を傾げた昇に言われて、涼子は溜息をつく。

「なんでお前の為に手料理を振る舞ってやらなきゃならんのだ」

「職権乱用ワンマン社長には作ってあげてるのに!?」

「デカい声を上げるな、仕事なんだから仕方無いだろう」

「なら俺が会社を作って涼子さんを雇えば毎日手料理が食べられる訳ですか。今の所ピアニストを辞めるつもりは無いけど、魅力的だなぁ」

「なんで私が唯々諾々と転職する前提になってるんだよ」

斜め上の暴論に、涼子は呆れる。

これは絶対に社長にセクハラされている事を、コイツにバレない様にしなくては。

より酷いセクハラをされる会社に、無理矢理入社させられてしまいかねない。

「しょうもない事を言ってないで降りるぞ、終点だ」

終点のその駅は、日本有数の政令指定都市にある繁華街のデパートに直結しており、ここでなら目的の品は全て揃いそうだった。

しょうもなくないですよ、重大なことですよ? と抗議する昇を捨て置いて、涼子は一人さっさと電車を降りた。



8 / 20