Convalescent -恢復期-(上)

天空風牙@フォローリクエスト受付停止中
@tenkufuga

3.きみのキレイに気づいておくれ

この小説は夢小説 (名前変換ができる小説) です。
キャラベルに登録してログインすると、登場人物の名前をお好きな名前に変更できます。


「あなたがコンサートで着ていた服、見つかりましたか?」

はっとして涼子は脚を止める。

「野郎……」

舌打ちし、思わず汚い言葉が口から漏れた。でもそれ以上に汚いのは目の前の男だ。

望月が帰った後、部屋を探しても探しても、涼子のブラウスとスカートは見つからなかったのだ。

上品なレースをあしらったブラウスと、豊かなドレープと柔らかい生地を使ったローズピンクのフレアスカートは、体格が大きくて合う服の少ない涼子にとって、一張羅と呼べる代物だった。

どちらも何店も回ってようやく手に入れた、薄給の涼子にとってはかなり高価なブランドの物だ。

「皺になってしまっていたので、俺の燕尾服と一緒にクリーニングに出しておきました。今は滞在先のホテルのクローゼットに吊ってあります」

確かに今日の望月は、あのやたら馬鹿でかいスーツケースを持ってはいなかった。やや大き目のビジネスバッグを片手に提げているだけだ。

「誰のせいで皺くちゃになったと思ってるんだ……」

「で、どちらに向かわれるんです?」

望月のもう片手に握られた自分の鞄を見詰めながら、恨みがましく呟く涼子を無視して、望月はあくまでにこやかにそう問いかける。

「望月貴様、後で覚えてろよ」

服を取り返したらただじゃ済まさん、と涼子は思う。―――具体的にどうするつもりか、それは今は思い付かないが。

「昇と呼んで下さいと、前から言っている筈です」

「誰が呼んでやるか! いい加減にしろよ!」

「そうですか。そういう事なら、あの服は俺の物ということになりますね」

囁かれた瞬間、涼子はさっと頬に朱を上らせた。

望月の言っている意味がすぐに解る程度には、涼子は大人だ。

その長く節ばった繊細な指先が、厚く大きな掌が、ローズピンクのフレアスカートを這い回る所を思わず想像してしまい、涼子はキツく眉を寄せる。

その想像はすぐにあの夜の記憶を呼び覚まし、涼子は慌てて大きな溜息をついた。

「……分かったよ、昇。―――これでいいんだろ?」

「で、どちらに向かわれるんです?」

もう一度同じ事を最高の笑みを浮かべながら問われて、涼子はほとほとうんざりした面持ちで空を見上げた。

見上げた秋空は、嫌味な位に晴れ渡っていた。




7 / 20