Convalescent -恢復期-(上)

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@tenkufuga

3.きみのキレイに気づいておくれ

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反論する事が、出来なかった。

確かに言われた通り、あの男とは体だけの関係だったのだから。


大学時代の同級生、処女を捧げたその男に最初に告白したのは、涼子の方だった。

学内で疎外されていた中、同じゼミになったそんな自分に初めて気安く声を掛けてきてくれたのが、三好みよしという名前の、その男だった。

ゼミ外でもよく話す様になり、明るくよく笑う所が好ましく、そんな三好に涼子が惹かれていくのに、そんなに時間は掛からなかった。


だから、涼子は、初めて告白、というものを、したのだ。


他人から否定され、迫害され、疎まれてきた自分に、初めて快く接してくれたその態度に、ひょっとしたらこの男なら、自分の気持ちを受け入れてくれるのではないかと、受け入れてくれないまでも、嘲笑い周囲に言い触らしたりしないのではないかと、一世一代の大博打に出るつもりになったのだ。


今にして思えば、その告白の返事がベッドの中だった事にまず、不審を覚えるべきだった。


次第によく笑いかけてくれていた彼が、余り笑わなくなり、会話は加速度的に減っていった。

にも関わらず、会う度に体を求められ、涼子は段々と、徐々に、精神を病んで行った。

初めて自分を受け入れて貰えた、そう思った喜びが、さらさらと、さらさらと両手から零れ落ちて、やがて絶望へと変わる。

精神科で鬱病と診断された事を契機に、涼子は彼に別れを切り出した。

電話越しに彼は「そうか」と言った。それきりだった。



あれから2年、涼子は社会人になっている。

鬱病を患う中でも就職活動はしなければならなかったあの頃と同じ様に、どれだけ気持ちが腐っても、出勤はせねばならなかった。

今日も涼子は隣町の住宅会社へと通い慣れた道を辿る。


すぐにでも忘れてしまいたいと思っていたのに、気が付くと望月の事を思い出してしまっている自分に涼子は苦笑するしか無い。

望月との事を思い出してしまうのは、彼から受けた凌辱以上に、その言葉が本質を衝いていたからだ。

確かに自分はすぐにでも体だけの関係をやめる事が出来た筈だ。

それをしなかったのは、体だけでも求められていると思い込もうとした、自分の弱さのせいだ。

自らの尊厳を売り渡した自分と、他人の尊厳を踏み躙る彼との間に、どれ程の差があろうか。


またぼんやりとそんな事を考えながら書類整理をこなし終え、涼子は先輩社員に終わった事を報告する。

「じゃ、次はこの領収書の分を帳簿に付けて頂戴」

居眠りしていた先輩社員はそう言って領収書の貼り付けられた台紙をこちらに手渡すと、またうとうとと眠り始めてしまった。

本来なら、帳簿付けなどの経理業務は、経理事務として雇われた彼女の仕事であって、営業事務で雇われた涼子の仕事ではない。

だが、社員15名足らずの中小企業の社内では、はっきりとした分業など到底望むべくも無かったし、先輩である彼女はどうやら社長と不倫関係にあるらしく、何かしら意見するのさえ叶わない事だった。

「わかりました」

既に夢の世界に旅立って聞いていない筈の先輩社員に律儀にそう返事して、涼子は立ち上げたPCの経理ソフトに黙々とその領収書の束を打ち込んで行った。



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