Convalescent -恢復期-(上)

天空風牙@フォローリクエスト受付停止中
@tenkufuga

3.きみのキレイに気づいておくれ

この小説は夢小説 (名前変換ができる小説) です。
キャラベルに登録してログインすると、登場人物の名前をお好きな名前に変更できます。


「もしかして、まだなのですか?」

小刻みに震え始めた涼子の様子から察したのか、昇は彼女の耳元で、意地悪く囁く。

「孕んでしまえばいいのに」

昇には、最初から避妊する気など僅かばかりも無かった。

そうすれば、あなたのこころをずっと俺に縛り付けることができる。

もう、逃げられない。


そう言われて、涼子はぞくぞくと腰の辺りに震えを上らせる。


―――これは、歓喜だ。


本来なら恐怖を覚えるべき筈なのに。

気付いて涼子は心底動揺した。

それを見透かした様に昇の唇が笑みを形作る。

「ほら、喜んだ。あなたはずっと求められることを望んでいる。縛られて、抉じ開けられて奪い尽くされて、絶対に逃げ出せない程にきつくきつく束縛され求められることを」

自分の中にずっとあった、でも気付かないフリをしていた底が見えない程深い穴を暴き立てられて、涼子は戦慄する。

「俺なら、本当にあなたが欲しいものをあげられますよ……」

息がかかるくらい耳元で、掠れた熱い声を吹き込まれて、涼子はキツく眉根を寄せ眼を閉じる。

「ずるいよ……」

なんとか、それだけ絞り出した。

「お前は、ずるい」

「―――そうかも知れませんね」

それだけ言うと、昇は涼子の側から身を離し、自分の鞄を拾い上げ漁り始めた。

「では、ずるい手を使わなければ、あなたは俺を愛してくれますか?」

言って昇が取り出したのは、クリーニング店の透明な袋に綺麗にパッケージングされた、涼子のブラウスとフレアスカートだった。

「ホテルに……置いてあるって……言って………」

眼を見張り、口をパクパクさせる涼子に、昇は少し悲し気に微笑んだ。

「本当は、すぐに返すつもりでした。あなたが、俺を受け入れてくれなかったから………俺は、醜くて汚い男ですね」

言うと昇は姿勢を正し、鞄を持ち直した。

「これ以上、自己嫌悪する前に、帰ります。

―――俺に心を開き始めてくれているあなたを、これ以上、傷付けたくない」

そのまま玄関まで大股で移動する昇を、涼子は慌てて追い掛けた。

「ちが………そういう訳じゃ」

「ありがとうございました。ご飯、美味しかったです」

靴を履きながら礼を述べる昇に、だが涼子は、今の気持ちをどう説明していいやら解らない。

ドアノブに手を掛けた昇は、一瞬恐ろしく美しい、だが哀しい笑みを浮かべると、掠める様に涼子の唇を奪い、そのまま玄関を出て、帰ってしまった。



追い掛ける事も出来たが、涼子はそうしなかった。

だって追い掛けた所で、何と言えばいいだろう?

自分自身でさえ、今持て余しているこの感情の正体が解らないのだ。


涼子はのろのろとリビングに戻ると、へたり込む様にして座布団の上に座った。

片付ける気力さえ起きなかった。洗い物なんか明日に回して、今日は早く風呂に入って寝てしまおう。

ぼんやりとこの後の事を巡らせる頭の中に、昇のあの哀しい微笑がこびりついて、離れなかった。



20 / 20