Convalescent -恢復期-(上)

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3.きみのキレイに気づいておくれ

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その紙束には、涼子のこれまでの経歴が、調べられる範囲ではあるが事細かに記載されている。

概略年表の最初の数行を読み下して、昇はのっけから眉を顰めた。

「虐待……」

そこには「児童虐待を受けていた可能性あり」と記載されていた。

2ページ目以降の詳細報告書を熟読する。

彼女の実家からはかつて、近隣にも響き渡る程の児童の泣き声と許しを請う声が頻繁に聞こえてきたというご近所の人の証言。

しょっちゅう体中に酷い痣を作っていたが、家庭教育の方針に教師が物申す事は出来ないため、放置せざるを得なかった、という小学校の担任の話。

修学旅行や遠足の度に学校を休み、たまに遠足に出て来たと思ったら瘤だらけの頭の上あり得ないほどに短くなった髪で驚いた、という中学担任の回想。

点数が極端に落ちて来たので漫画仕立ての参考書を貸してやったら、次の日「親に破られちゃいました。すみません」と卑屈な笑みで謝られて、不審に思ったという高校教師の思い出。

丁寧に調査されたそれは全て一つの事実を指し示していて、その後に付された彼女の学業成績が年を追うごとに下落する様子は、彼女の心が擦り切れて行く過程をそのまま映した様だった。

こいつらは一体何をしていたんだ、児童虐待防止法に通報義務があるだろうが、と一瞬昇は腹が立ったが、よく考えてみれば児童虐待防止法は割と最近できた法律の筈だ。施行からまだ10年も経っていないのではないか。

そして昇は、今更ある事に気付いて戦慄した。


彼女はこの状況の中で苛烈な虐めを受けていたのだ。


虐待されている子供や虐められている子供は学校にとってトラブルメーカーだという事くらい、学校関係者でない昇にもわかる。その両方を満たしている彼女は最大級のアンタッチャブルだった事など、容易に想像出来た。


ならば、彼女は一体誰に救いを求めれば良かったのか?


報告書を読む限りでは、母親は中学の頃には早逝しており、祖父母も遠方に暮らしていた様だ。そもそも生活を徹底して管理されている被虐待児が、外部に助けを求める連絡を容易に取れると考える方が、間違っているのかも知れない。



つまりほんとうに、たよるものがだれもいなかったということだ。



昇は暗澹たる思いで一旦報告書を机の上に投げ出した。

報告書にあるだけで、虐待の証言は小学校から高等学校時代まで。


12年。


少なく見積もってもこの年月、彼女はまだ幼い自分自身のみで自分自身を支えて来た訳だ。

―――昇が思い出すのは、彼女がまだ天界にいた頃、「翔空」が少年だった頃の小さな、そして静かな微笑みだった。


「本当はずっと、死にたかったんだ」


と、彼は言った。


「でも、死ぬのは怖いから」。


あの時と同じ笑みを浮かべて、全てを「そういうものだ」と受け入れ了解したあのまなざしで、彼女は今まで生きて来たのだろうか。



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