Convalescent -恢復期-(上)

天空風牙@フォローリクエスト受付停止中
@tenkufuga

3.きみのキレイに気づいておくれ

この小説は夢小説 (名前変換ができる小説) です。
キャラベルに登録してログインすると、登場人物の名前をお好きな名前に変更できます。


タクシーが自宅のアパート周辺に踏み込んだ所で涼子はさり気なく財布からクレジットカードを取り出した。

自分のはブラックではなくノーマルで、おまけに公共料金支払い以外使った事が無いのだが、昇の支払いの素早さを上回るにはこれ以外の方法は無いだろう。

昇はそんな涼子を眺めながら、気合十分ですね、とクスクスと笑った。

いよいよタクシーがアパートの前に到着し、二人は争い合う様にして運転手にカードを差し出す。

その勢いに面食らった運転手は、暫くドン引きしていたが、おずおずと、昇の方のカードを受け取った。


負けた………。


意味不明な敗北感に涼子が全身を浸していると、昇はクスクス笑いながら、タクシーの窓に貼られているステッカーを指差した。

「涼子さんの持ってるクレジットカードの会社、扱ってないんですよ、このタクシー」

笑いが止まらないのかまだ可笑しそうにクスクスと笑いながら昇はカードを受け取ると、いち早く車から降りてトランクへと回る。


畜生、世界一ブランドのクレジットカードを持ちやがって!(しかもセンチュリオン・カード)


悔しがった所でどうなるものでもない。涼子はカード会社を変えようか真剣に思案しながら、変えてもカードの信用度で絶対に自分が負ける事にも気付かないまま、急いでトランクに向かった。



荷物を持って自宅に戻り、まず涼子は冷蔵庫の中に買って来た食料品を詰め込んだ。

今から食べるおでんの鍋を取り出してコンロの上に置き、空いたスペースにも詰め込んで、全部入ったはいいがこれで冷蔵庫はパンパンだ。

続いて涼子はポットとヤカンを取り出すと、ヤカンに勢い良く水を入れ火にかけ、空いた手で食器棚からトワイニングの紅茶缶を取り出した。

涼子は紅茶派だ。コーヒーはどうも苦い上舌に残る後味が苦手で飲めない。

今出して来たのもそんな彼女が普段愛飲しているものだ。本当は最低でもマリアージュフレールあたりを飲みたいのだが、そんな金は無いのでせめて熱湯を沸かす所から丁寧に淹れている。そうすれば、トワイニングのセイロン・オレンジ・ペコでもなかなかの味になるのだ。

涼子がポットの中に茶葉を入れていると、手持ち無沙汰そうに本棚の中を吟味していた昇が、それに気付いてこちらにやって来た。

「貸して下さい。得意なんです」

言って昇は涼子の手からポットを取り上げると、何故かポットの中の茶葉を全て缶に戻してしまった。

それを疑問に思いながらも、何か拘りがあるのだろう、本人がやりたがっているのだからまあいいかと任せて、涼子は副菜の調理の下拵えに取り掛かった。自分一人だったらおでんだけ食べて済ませていた所だが、客人がいるならそういう訳には行くまい。

湯が沸くまでまた手持ち無沙汰になった昇は、今度は部屋の片隅にある巨大なタワー型パソコンに目を付けた。

以前部屋を訪れた時から気になっていたのだが、ラップトップではなく、かなりハイスペックなマシンである事が、筐体の大きさとファンの大きさからして判る。

「パソコン、触ってもいいですか?」

「触るな!」

茄子を切っていた涼子が、何故か真っ赤になって怒り出した。

「まさか……私が寝てた間に触ったりしてなかっただろうな!?」

かと思えば急に真っ青になって挙動不審になり始める涼子を、昇は興味深く眺める。

「さあ? どうでしょう」

昇はわざととぼけてみた。

途端包丁を持ったまま涼子がこちらに近付いて来ようとしたので、昇は慌てて胸の前で両手を振る。

「触ってません! 何も見てませんってば! 本当です信じて下さい!」

心から不審そうな顔をしながらなんとか引き返してくれた涼子は、「後でイベントビューアのログを見なきゃ……」などと呟きながら、今度は青菜を洗い始めた。

「涼子さん、パソコン、詳しいんですか?」

「まあ初心者ではない程度にはね。そのパソコンも、自分で組んだやつだ」

それって結構上級者ではないのか? と、昇は思う。

「今度俺に教えて下さいよ」

「いやだ」

即答されて、昇はちょっとヘコんだ。



17 / 20