Convalescent -恢復期-(上)

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@tenkufuga

3.きみのキレイに気づいておくれ

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同じ事を5回繰り返して、流石に涼子がうんざりしてきた頃、ようやく着せ替え人形タイムは終了した。「まさかまだ『見るだけ』とか言いませんよね?」と据わった眼を向けてきた昇に対して、支払いを止める気力すら湧かない。

疲れた涼子がぼんやりと早々に撤収する算段を練っていると、支払いを終えた昇が巨大なブランドバッグを両手に戻って来た。

「じゃあこの後は食事でも……」

「ああごめん、昨日から家におでんを作り置いてあるから。それ食べなきゃならないんだ。早く食べないと、腐ってしまう」

ハッと気付いた時にはもう遅かった。昇はぱああっと擬音が聞こえて来そうな程表情を輝かせている。

しまった。疲れていたから忘れていた。昇は涼子の手料理を食べたがっていたのだ。

「いやあの……一人分だけしか残ってなくてだな……」

モゴモゴと断る言い訳を口にしていたら、見る間にしゅんとしていく昇を見て、涼子はなんだか逆に申し訳無くなって来てしまった。

第一、自分の意図では無いにしろ、こんなにも高額な服の支払いをさせておいて、そのまま右と左にさようならというのは人としてどうなのか。到底すぐに返せそうにない目玉が飛び出そうな金額に違い無いのだ。

「―――分かったよ。口に合うか分からないけど、うちで手料理を御馳走するよ。今日支払ってもらった代金、後で必ず返すから、取り敢えずのお礼に」

言うと昇はクックッと声を抑えて笑い出した。折角済まないと思っていたのに笑われるとは思っていなくて、涼子は少々ムッとする。

昇はいやいやと可笑しそうに顔の前で手を振ると、涼子がいつの間にかすっかり忘れていた事実を指摘して来た。

「強姦魔にお礼なんて……慰謝料として気兼ねなく受け取っておけばいいのに、律儀なひとだ」

余程ツボに嵌ったのか、昇はまだクスクスと笑っている。

確かに自分は目の前のこの男に強姦されたのだった。今日一日色々な事が有り過ぎてすっかり忘れていた。

でも、だからと言って、自分に似合った化粧と服を親身になって見立てて貰い、おまけに高額な支払いまで全てさせてしまっている事は紛れも無い事実だ。

「慰謝料にしては、高額過ぎるよ」

一体その様な程の価値が自分にあるだろうか、と、涼子は自問する。

今日の買い物は総額で数百万は下らない筈だ。

体を売る女性達が普通如何程の金額を受け取っているのか、涼子はよくは知らないが、この様な破天荒な金額では無いだろう。

「そこは普通、『金で体を売った事にしようとしているのか!』と怒るところですよ」

やっと笑いが収まって来たらしい昇の表情は、そのまま段々と厳しいものに変わって行く。

「いい加減、自分を卑下するのはお辞めなさい。あなたは、金では決してあがなえない価値のある方だ」

次から自分を卑下するの禁止です、一回卑下するごとに一回キスですからね、と言い置いて、昇はスタスタと先に行ってしまう。

涼子は慌てて追い掛けながら、ならばこの男の前だけでは、自分を卑下しない様に心掛けよう、と思った。

自分を卑下する事を嫌う人種がいる事を、涼子はすっかり失念していた。

恩がある相手に対して不快な思いをさせる事は、キスとかどうとか以前に、涼子の本意では無い。

追いついた涼子に、昇は歩く速度を落とすと、横に並んだ。

まだ怒ってはいないかとそっと盗み見た昇は、既に表情を和らげていて、こちらに気付くと「何です?」と言った風情で小首を傾げて微笑みかけてくる。

涼子は何だか羞恥に顔が熱くなった。

今頃気付いたが、二人で街を歩き、買い物をし、これから家で手料理を振る舞い……これではなんだかデートみたいではないか。

「手、繋ぎましょうか?」

考えていた事を察したらしき昇に甘いとしか言い様の無い微笑みで囁かれて、涼子は恥ずかしさに俯いた。

「いっ……いらないッ!」

「残念です。前は男同士でしたので、これで堂々と手を繋いで歩けると喜んでいたのですが」

「お前と私は付き合ってる訳じゃないだろッ!」

そんなに心から残念そうに言われても困るもんは困る。

そうでしたか? ととぼける昇に、涼子は耳まで真っ赤になった。



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