Convalescent -恢復期-(上)

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@tenkufuga

3.きみのキレイに気づいておくれ

この小説は夢小説 (名前変換ができる小説) です。
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「あなたの体格では、そりゃ日本人向けの服は合いませんよ」

という事で、涼子は今、海外高級ブランドばかりが入ったフロアに来ている。

服を「見るだけ」の言い訳として、自分の体格の大きさでは合う服も少ない事を話したのが裏目に出た格好だ。

フロア全体が煌びやかかつ重厚感溢れる雰囲気をビシバシと放っているそのフロアは、トイレの利用のため訪れる事すら庶民の涼子には躊躇われる様なプレッシャーを放っている。

だが、

「あなたなら間違い無くこのブランドが一番似合いますよ」

と言いながら昇は躊躇いもなくテナント内に入ってしまったため、出来ればこんな高級店とお近付きになりたくなかった涼子も、お近付きにならざるを得なくなった。

入口から中に入るだけで気合いが要る。数秒の心の準備の後、腹を括って足を踏み入れると、昇は既に顎を摘みながら熱心に服を物色していた。

大体なんで男の癖に女の化粧やら服やらに詳しいんだ。

胡乱な気分になりながら、手持ち無沙汰に吊り下げられていた服のタグを眺める。

いち、じゅう、ひゃく、せん、まん……

「さんじゅう…ごまんえん……」

嫌な予感はしていたが、気でも失いそうな価格だ。――見なかった事にしよう。

「何してるんです。早くこっちに来て下さい」

入口近くでまだぐだぐだしている涼子に焦れたのか、昇は涼子の手首をひっ掴むと、「あとこれも宜しいですか?」と手持ちのベアトップスカートを店員に渡した。

「ちょっとトイレ行ってきていいですかあのお腹痛くなってきました昼食べた牛丼が腐ってたみたいであいたたた…」

「何言ってるんですか。今から試着してもらいますから、しょうもない冗談はやめてまずはこれとこれを着てみて下さい」

一瞬で嘘を見破られて服を渡され、店員に笑顔で「こちらです、どうぞ」と試着室のドアを開けられては、あとはもうそのドアをくぐるしか無かった。

「あの本当にお腹が……」

「わかりましたね?」

眼が笑っていない笑顔でそう言われて、どうあっても逃げられない事を悟った涼子は、渋々、本当に渋々試着室の中に入った。


試着室の広さは丸々部屋一個分になっており、簡単なソファーセットまで置かれている。

奥は全面鏡張りになっていて、涼子は溜息をついた。この醜い自分の容姿を充分堪能しながら着替えろという事か。

涼子は逃げ出す隙でも作れないものかと昇から手渡されたニットとスカートを検分したが、理由にしようとしたサイズ表記はどうやら欧米基準の様で、涼子にはよく解らなかった。

覚悟を決めるしかない。

涼子はのろのろと制服の上着を脱ぎ出した。


袖を通したそのニットは上質のカシミヤらしく、恐ろしく肌触りがよい。

サイズも不気味な程ピッタリで、まるであつらえた様だった。

続いてスカートも身に着けて、涼子は素直に驚いた。

馬子にも衣装というやつか。その服装は涼子がさっきまで着ていた制服よりも、涼子の手持ちのどの服よりも、涼子に似合っていて、その魅力を引き出している様に見えたのだ。

今更思い知らされた。昇は、センスがいいのだ。

メイクの時点で、このブランドの服装を想定して指示していたに違い無い。施された化粧は服装の雰囲気に見事に馴染んでいて、涼子は内心舌を巻いた。

女性の自分よりファッションセンスがいいとは……

若干屈辱的な気分に浸っていると、ドアの外から「着替え終わりましたか?」と昇の声がした。

涼子が慌てて振り返り、「はい」と返事をすると、「入りますよ」と一度断った後、昇はドアを開けて次の試着服を手にこちらに近付いてきた。



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