Convalescent -恢復期-(上)

天空風牙@フォローリクエスト受付停止中
@tenkufuga

3.きみのキレイに気づいておくれ

この小説は夢小説 (名前変換ができる小説) です。
キャラベルに登録してログインすると、登場人物の名前をお好きな名前に変更できます。


エスカレーターを上った涼子は、「服の前にまずは化粧品ですね」と化粧品売り場に連れて来られていた。

普段滅多に来る事も無い化粧品売り場の、座った事もないBAの前に腰掛けて、昇の指示通りにメイクを施されて行く。

「コンタクトにしないんですか?」

と昇に問われて、涼子は苦笑した。

「酷いドライアイなんだ」

「そんなに綺麗な二重瞼と睫毛なのに。勿体無い」

言った昇はBAに、眼鏡の中でも目立つ様、アイメイクに力を入れて欲しいと頼んだ。

なんだかもう投げやりな気分になってしまっていた涼子は、そのまま「これとこれ。ああそれも。こっちの色もいいですね」と購入の意思を伝え始めた昇に血相を変えた。クレジットカードを取り出す彼を止めようと、身動みじろぎする。

「動かないで下さい!」

しかしマスカラを塗っていたBAに叱られて、涼子の抵抗は叶わなかった。目にブラシが突き刺されば大変な事になる。BAの側も必死だ。

「ちょッ…! 見るだけって言っただろッ!」

仕方無く涼子は声だけ上げたが、

「俺が支払うというのに同意したのはあなたですよ?」と返されて、涼子はさっきの適当な返事をしこたま後悔する事になった。

ここの化粧品は昇のつけている香水と同じの、最高級ブランドだ。果たしてすぐに購入金額を返せるだろうか。

目眩を覚えながら脱力していた涼子は、両肩に昇の手が置かれるまで、メイクが終わった事に気付かなかった。

「とても素敵ですよ。より美しくなった」

耳元で囁かれて、涼子はBAから勧められた鏡を覗き込む。

化粧する前と後とで如何程の違いがあるか、正直涼子にはよく判らなかったが、「凄くお綺麗ですね」というBAの見え透いたお世辞に、「そうでしょう、自慢の恋人なんです」と昇は笑顔で答えている。

大きく溜息をつくと、涼子はのろのろと椅子から立ち上がった。こんなのが服を見るのにも続くというのだろうか。


ありがとうございました、とBAに見送られて、涼子はやっと口を開いた。

「合計でいくらだったんだ? 必ず全額返すから」

遅くなるかも知れないけど、と心の中で付け加えて、なんだか涼子は情けなくなる。世の経済格差を見せ付けられた気分だ。

「あなたが物を贈られることを気にする必要はありません。笑顔で受け取っておけばいいのですよ。……全く、国王の癖に昔から貧乏性ですね」

意味不明な貶されかたに涼子は少々ムッとする。

貧乏で悪かったな。――言えば余計惨めになりそうな気がして、涼子は押し黙った。

「さ、次は服を見に行きましょうか」

昇はそんな涼子を見てクスクス笑うと、「もちろん付き合って下さいますよね?」と目で問うて来る。

「拒否権は無いんだろ」

言った涼子は腹立ち紛れに、つかつかと歩き出した。



12 / 20