Convalescent -恢復期-(上)

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@tenkufuga

3.きみのキレイに気づいておくれ

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やはり、一瞬でも気を許して、彼に笑顔を向けた自分は頭にバカが付くほどのお人好しだった。

必要な食料品を全て買い終え、昇にまた荷物を取り上げられた所でちょっとした小競り合いが起きて、涼子は心から後悔した。

昇がついでに涼子の服を買って行こうと言って、聞かないのだ。

業務時間内に業務として買い物をしているのに私服を買おうなどとんでもない、と涼子は反論したが、昇に黙って腕時計を見せられて、その指し示す時間を見てしまっては、諦めるしか無かった。

アンティークらしき上品なデザインのローレックスの長針と短針は16時半を指していて、それはつまり涼子の業務終了時間の30分前だった。以前からそれ以外は買うなと指定されている、希少な国産のアボカドを探して私鉄の駅ビルまで足を伸ばしたのが裏目に出たらしい。

今すぐ電車に乗って取って返しても、帰社するまでには1時間はかかる。

涼子は諦めて携帯電話を取り出すと、会社の電話番号にダイヤルした。買ったものは冷蔵ロッカーにでもブチ込んでおいて用が済んだら持ち帰り、翌朝出勤時に持って行けばいいだろう。

人質ならぬ服質に取られたブラウスとワンピースを思いながら受話器が上がるのを待つと、3コールもしない内に電話が取られた。

電話番の先輩に遅くなってまだデパートにいる事を詫びると、一頻り説教を食らった後、社長から直帰の許可が下りたと告げられる。どうやら社長も電話の近くにいたらしい。

涼子は見えやしないのに電話の向こうに申し訳ありませんと軽く頭を下げると、息を吐きながら終話ボタンを押した。

「あなたは人の上に立つべきひとであって、そんな風に愚かな者に頭を下げるべきひとではありません」

冷淡な声をかけられて、涼子は顔を上げる。眼を細めた昇が醒めた表情でこちらを見下ろしていた。

「仕方無いよ、就職超氷河期だからな。職があるだけ御の字だと思わないと」

肩を竦めると涼子は食料品売り場入口横の冷蔵ロッカースペースに向かう。何を思っているのか、昇は押し黙ったまま無表情で、その後を付いて来た。

「さて、お望み通りに服を見に行ってやるよ」

冷蔵ロッカーに買い物袋を全て仕舞い終わって、涼子は昇を振り返る。

「言っておくが、購入する気は無いからな。そんな金無いし」

言いながら涼子は恥ずかしくなって来たが、仕方無い。中小企業の入社2年目の事務員が気安く購入出来る程、デパートの服は安くはないのだ。

「心配いりません。俺がゴリ押ししてるんです。全部お支払いしますよ」

だからその殊勝な態度に出た昇に対して、どうせ見るだけだからと適当に答えてしまったのだ。ハイハイと、了承とも取れる形で。



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