Convalescent -恢復期-(上)

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@tenkufuga

3.きみのキレイに気づいておくれ

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「まったく、貴方は頭にバカが付く程のお人好しですね。…まあそういう所に惚れたんですが」

馬鹿にされているのか褒められているのかよく判らない声音で言われて、涼子は傍らを振り仰ぐ。

そこには意外な程、優しい微笑みを湛える端正な顔がこちらを見下ろしていた。

「お人好しなんかじゃないよ。ただ、私にも、あれと似た経験があってね」

言いながら涼子はデパ地下を目指しエスカレーターに乗る。

「小学生の頃、学年が上がる前の終業式の日に、学校に置いていた荷物を全て一旦持ち帰らないといけなくなってね」

それは涼子の通っていた小学校の、ルールのようなものだった。

学年が変わる時、始業式に新学年の教室へ荷物を移動させるのでなく、一旦終業式までに全て持ち帰って、教室を綺麗に掃除する。

涼子は懐かしさに眼を細めた。

「普通は終業式までに小分けにして、要らないものから毎日少しずつ持ち帰るんだ。

でもその年、私は面倒臭くて、少しずつ持ち帰るのをサボっていてね」

「全てを一気に終業式に持ち帰る羽目になったんですか」

到着した地下食料品街の活気に溢れた声に紛れて、昇のクスクスと笑う声が聞こえて来る。

「あの時は大変だったよ。先生に貰った紙袋は大きいし、大きくて重いから引き摺るし、引き摺った所から段々破れて来て中の物が出て来るし……道端で本気で泣きそうになりながら、誰か助けてくれる人を探したよ」

涼子がそう言いながら積まれていた買い物カゴを引っこ抜くと、またすぐに昇に取り上げられた。

「でも誰も助けてはくれなかった、と?」

道路で、身に余る大きさの、しかも破れた紙袋を必死で持ち帰ろうとしている子供の頃の涼子を想像して、昇は本気で気の毒になった。周囲を通り掛かる大人が一人もいなかったとは思えない。本当に人間世界は、どうなっているのだろう。

お前がそれを言うのか、と涼子が知ったら問いたくなる様な事を考えながら眉を顰めた昇に、涼子は笑顔を向けた。下準備を怠った自分の自業自得だと。

「だからあの時の自分みたいな目にあっている人に出会うと、放ってはおけないんだ。まだあの時の泣きそうな気持ち、よく覚えてるからね」

そのまま野菜を吟味する作業に取り掛かった涼子を、昇は今すぐ抱き締めたくなった。

本当に、他人の痛みを自分の痛みとして助けようとする人だ、この人は。

あの頃と、何も変わってはいない。

「やっと俺に笑顔を向けて下さいましたね」

言われて涼子ははっとする。

「――まだお前を許した訳じゃないからな」

心から嬉しそうに微笑む昇の表情を盗み見ると、涼子は慌てて表情を引き締めて、食材選びを続行した。



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