Convalescent -恢復期-(上)

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3.きみのキレイに気づいておくれ

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3.きみのキレイに気づいておくれ



「ありがとう、父さん」

そう言って望月は手渡された大型封筒を受け取る。

望月家の現当主は、革張りのロッキングチェアに背中を預けながら、ゆっくりとパイプをくゆらせていた。

「いや、久し振りにお前が我儘を言ったと思ったら、調査会社を使わせてくれというのだから、少々驚いたよ」

望月の家には、先々代から懇意にしている調査会社がある。

在席していた音楽大学で起こした集団婦女暴行事件を揉み消してやって以来、態度を改めた元放蕩息子が、久し振りに自分にものを頼みにやって来たのだ。

いくら無茶な我儘を今までに散々聞いてやっていようと、やはりたまに息子に頼られるのは、悪い気はしない。

「その女性は、お前の想い人なのか?」

「やだな父さん、まさか中身を見たの?」

ヒョイと片眉を上げて悪戯っぽい顔をした父親に、望月は嫌な顔をする。

「特定の女性にお前がそこまでするの、珍しいな」

真面目そうなお嬢さんじゃないか、と、ニヤリと笑って、彼はまたパイプをくゆらせる。

「くれぐれも、御迷惑をお掛けするなよ」

「分かってるよ」

これ以上追求されてはたまらない、と、望月は早々にその部屋を辞した。


彼は自室に―――いや、「望月の」部屋に戻ると嘆息する。

もう7年にもなるが、一向に慣れないのだ、「他人のフリをする」というのは。

幸い素行不良の息子に手を焼いていた「望月」の両親は、その息子が急に素行を改めたのを「就職に備えての事だ」と解釈した様で、今まで何ら疑われてはいない様子だ。


昇だって野放図に憑依先を決めた訳ではない。

金と容姿はともかくとして、なるべく良心の痛まない様な、人格に問題のある人間を選んだつもりだ。

そこへ行くと元の「望月」は、金にものを言わせて他人を陥れる事自体を楽しんだり、有力な家系を笠に着て嫌がる女性を手籠めにしたりと、目を覆いたくなる様な汚い性格をしていた。


だが、「望月」自体に対しての罪悪感は感じなくとも、その両親に対する罪悪感まで消えて無くなる訳ではない。

「俺も大して変わらないな……」

端なくも涼子に指摘された通りで昇は苦笑する。


完全にお互いの肉体を利用し合うだけの、割り切った関係。

確実にそれが叶う相手だけを見定めて、望月に憑依を行ってから今まで、昇は女性を転々としてきた。

女を抱く時はいつも翔空の事を考えながら、翔空の身代わりとして、抱く。

それが昇の「誠実」であったのだが。

「あのひとが同じであった筈などないな」

あのひとはそういうやり方などできないひとだ。

彼女を一方的に責めたが、昇は本当は解っている。

体だけを利用したのは彼女ではなく、その相手の男だったという事を。

―――そしてまた、自分は彼女の嫌がりそうな事をしている。

「本当に、俺は頭がおかしいんですよ」

でも、自分が彼女を諦める訳にはいかないのだ。

真実彼女を愛する者がいなければいないほど、本当に真実彼女を愛している自分が、彼女の側にいて支えてやらねばならない。

昇は自分の心の中でひとつ踏ん切りをつけると、封筒の中から書類を取り出した。




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