話題の生きものを飼ってみた。

宇鷺 林檎
@RingoUsagi1020

#7

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「…安吾…?」

 矢張り、また虐められていたらしい。ぼろぼろになった琴乃が。更衣室前で立ち尽くしていた。


「…虐められていたんですね…?」

「…別に、」

 矢張り琴乃は誤魔化した。それも見越していた。対策を打っていて良かったと思いつつ、僕は琴乃の襟首に手を遣る。


「…っそれは、」

「ええ。…盗聴機、ですよ。備品、拝借してきまして。」

 本当に小さな盗聴機。けれど、多分犯行は録音されている筈だ。琴乃本人に確認を取らなかったのは良くないけれど。


 再生すると。ざざ、とノイズが入り。音声が流れ始めた。

『…全く、何様な訳ぇ?いつまでも安吾さんに付きまとってさぁ。』


 ぴし、と打つような音がした。

『いい加減にしなさいよ、キモい。』

『ホント、それ!』

 きゃはははは、とけたたましく哄笑が響く。琴乃へと打ち付けられる終わりのない罵声。

『…やめて…』琴乃の声。

『やめてやめてごめんなさいもうやめてごめんなさいゆるしてくださいおねがいおねがいおねがいもういやですやめてくださいやめて』


 涙に濡れ、薄れた、琴乃の。小さな抵抗の声。

『って。あー、そろそろ仕事終わりじゃあん。帰ろ、アンナ、ミキ、ナナ、スズ。』

 5つほどの足音がばらばらと更衣室から出ていく。ここで事件は終わりらしい。


 ちろと視線を遣ると、彼女の小さな手は。ぎゅうとブラウスの腕を抱き締めていた。ふるると小さく震えて。まるで助けを求めているみたいで。


「……ごめんなさい」


 ほろりと硝子の雫が頬を滑り。床で粉々に砕けてしまった。それは幾筋にも増えていき。


「何故黙っていたんですか?…厭だったのでしょう?」

「困らせたくなかったの。これ以上。」

 僕の家で暮らす事を申し訳無く思っている旨を、彼女は。ぽつりぽつり話した。

「…莫迦ですね、貴女は。」

 涙に濡れた瞳が、瞠若として僕を見つめている。僕は微笑を返す。

「困ってなどいませんよ。…貴女がいる。それだけで、僕の毎日は前よりずっと楽しくなりました。」

 濡れたようにしっとり潤った、亜麻色の頭を優しく撫でる。びくりと肩が震えたが、やがて落ち着いて。

 ふと、目を閉じた。


○◎●

 前よりずっと楽しくなりました。


 琴乃が来てくれて本当に良かった。

 その言葉は、壊死しかかった私の心に。すとんと突き刺さり、じわりじわりと潤していく。


 眼が、熱い。眼が電気ケトルになったみたい。次から次へ、お湯が沸いて、溢れ出る。


「う、あ…。」


 久しぶりに、泣いた。否。やっと。やっと泣けた。涙も泣き声も蛇口を思いきり捻ったみたいにどばどば溢れた。

 安吾は優しく背中を頭を撫で撫で、シャツの胸を手巾代わりにして。それで抱き締めていてくれた。


「………、…………。」何かを言っていた。けれど。


 私の声に飲まれて。耳には届かない。泣いて。泣いて。頭がぐわんぐわんと回っていた。頭痛がした。


*‐‐‐‐*

「…っく…。…ごめんなさい、行き成り泣いて。」

「落ち着きました?」

「うん。」


 此処は、仕事部屋。誰もいないから、泣くには丁度良い、と安吾が連れてきてくれた。それから間も無く泣き止んだのだけれど。


「…先は貴女の声で消されましたが…。」

 安吾の温かい手のひらが。優しく涙を拭い去ってくれた。彼はふわりと柔和に笑った。


「僕が貴女を守りますから。…心配しないでください。」

「……。でも私、少し腑に落ちない。」


 口をついて出たのは、私にも予期していない言葉で。


「私が、終わらせる。明日。…でも、」

 でも。

「少し、怖いから。…困ったら助けてくれる…?」

 彼はけらと笑った。

「当たり前でしょう。」


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