視線を上げたら

確か、初めて同じクラスになったのは小学校5年生のころ。

それまでは顔も知らなくて。

クラスの中では、すごく目立っていてみんなの人気者で。

そんなあいつがだんだん気になっていった。


でも私は、教室の端っこでいつも本を読んでいて。みんなの前でも緊張してうまくしゃべれなくて。

あいつとは世界が違っていた。

だから、好きという感情よりも本当は少し羨ましかったのかもしれない。


「私もあんな風になれたら」


きっと見える世界も違うのだろうと思った。輪の中心から見える世界と、私みたいに輪の外から中を伺う世界。

でも、私はこれでいいと思っていた。実際には活発でなくても、本を読みながら空想の世界で私は自由だ。そう思いながら中学生になり、あいつとは同じ学校でも話す機会なんてなかった。


私の1番の楽しみは、図書室で過ごすことだった。図書委員も毎年なっていて、本棚の片っ端から読み漁る。家に帰ってからも、近くの図書館へ行っては片っ端から読み漁る。おかげで図書館の人とはやたらと仲良くなっていた。

「今日は何を読んでるの、賢者さん」

司書のお姉さんが私に声をかける。

「今日からは、ロードオブザリングだよ」

「好きだね、それ。何回目?」

「んー、もう数え切れないくらい」

賢者さんとは、図書館の中でついた私のあだ名だ。本の虫すぎて、将来賢者にでもなるんじゃないかと司書さんたちは思っているらしい。私はそれよりも魔法使いになりたいんだけど…。


「最近、賢者さんくらいの男の子もここによくきてるんだよ。同じ学校の子かな?」

「そうなの?私、周りよく見てないからなぁ…」

「今度見てみて?もしかしたら知ってる子かもしれないよ?」

「私立受験でもするのかな?図書館に来るなんて」


本を読んでいるうちに、気になることが出てきた私は、本を机に伏せて調べものをしに書棚へ向かった。

「えっと…このへんかな…」

見たい本は書棚のかなり上の方にあって、背伸びをしても手が届かない。

あと少しなのに。

指の先に少し引っかかるけれど、はじいてしまう。諦めて踏み台を取りに行こうと思った時、隣に来た人がすっと本を取ってくれた。

「これ?」

そう言って私の届かなかった本をいとも簡単に取って、手渡してくれた。

そう、あいつが。


「あ…えっと…ありがとう…」

なんでこの人がこの場にいるのか、全く理解できなくて、私はぽかんとしたまま本を受け取った。

そもそも、私より背が高かったっけ?なんて疑問を持ったりして。

「意外とチビなんだな、届かないとか」

「小学校の時は、私の方が背が高くなかったっけ…?」

「成長期だから、これでも」

ちょっと笑ってあいつがこっちを見る。

「昔、背が負けてたのは悔しかったからすげー牛乳飲んだんだよ。やっと追い越せた」

「ん?私にコンプレックス持ってたの?」

「背も高くて、頭も良くてさ。なんか悔しかったから。でも一つやっと勝てた」


意外な言葉にびっくりして、思わず吹き出してしまった。

「何言ってるの、私なんか何にもあなたを上回るものはないのに」

「俺にないものいっぱい持ってるだろ?」

ついつい、お互い興奮してしゃべっていたのか、司書のお姉さんから「静かに」と怒られてしまった。


「怒られちゃったな」

「私、相当ここに来てるけど、怒られたの初めてだよ。初体験!」

なんかおかしくなって、笑いが止まらないのを必死で止めようとするけれど、余計に笑ってしまう。

「おい、また怒られるぞ?」

「だって…なんか不思議な感じ。私、あなたに相当コンプレックス持ってたのに、お互いそう思ってたなんて。変なの」

「てかさ、俺今わかんないとこあってつまづいてんだけど、教えてくれない?」

「私で分かるところなら、いいよ?」


思わぬ展開で、一緒に勉強をすることになってしまった。

話してみたら、やっぱり魅力的なところは昔と変わらなかった。

でも、お互い自分にないものを求めるんだなぁと思ったら、自分もまだまだ分かってないことがたくさんあるって気づいた。


本が好きで内向的なのは私の特徴で、それを変えるつもりなんてないけれど、少しだけ顔をあげたら、違う世界もまた見えるのかもしれないなんて、この目の前の人のおかげでわかったのかもしれない。


それはきっと、昔より少し背の高くなったこの人のおかげ。

そして、これから私がこの図書館に来る理由が昔よりも変わるのかもしれない。

なんて思ったりして。


おわり。

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