‎Memorial Wine

 銀髪の彫りの深い顔立ちの男が一人。


 午後の日差しを遮るように木陰で幹に背を預けて地面に座り、書物を読み耽っていた。

分厚い装丁の黄味がかった紙面に書き連らねられている文字列に切れ長の瞳の視線を滑らせて、その長い指先で新たなページを捲る。


 時折、木の枝に留まり羽根を休めている鳥達の歌うような囀りが耳に届く。久し振りの休日を、想いのまま趣味に没頭して過ごすのも悪くはない。


「こんな所に居たのかよ」


 軽い口調と共に、シードがワインボトルを片手に姿を見せる。芝生の上に詰み重ねてある分厚い本の束をチラリと見るなり「枕にするのに丁度良さそうな高さだな」と、からかうように言葉を付け加えた。


「また、勝手に持ち出して来たのか」


 シードが手にして居るボトルを見ると、それがどこから調達された物なのかをクルガンは瞬時に察した。 ――いい加減、もう慣れてしまっている。

 彼が傍に来た時点で読書を中断せざるを得なくなり、読みかけの書物の隙間に栞を挟むと表紙を閉じる。


「アンタが時々、このボトルを布に包んで大切そうに撫でながら拭いているのを見かけてな。

他とは違う、上等で格別に美味いヤツなのかと思って持って来たんだが……」


 そう言いながらクルガンの隣に当たり前のように腰を下ろし、木の幹に背を凭れさせる。ボトルの表面に貼り付けられているラベルに記された数字を見るなり、シードは眉を寄せて首を捻った。


「やけに新しい年代の物だな。まだ熟成が足りてないんじゃねえか?」

「それは―― 、 ‎"Memorial Wine" だ」

 

 心地良い風にサラリと靡いている赤髪に思いを馳せ、過去に見た同じような情景を重ねると

クルガンは、懐かしそうな眼差しで呟く。 


「あ? メモリアル?」

「……お前は、変わらんな」


 シードは怪訝そうな声を上げると、訳が分からんと言う態度をあからさまに表に出した。

あの頃と少しも変わらず自身の思うがまま自由奔放に振る舞う赤髪の相方の素直な反応に、

クルガンは口元を緩ませる。


「何の記念なんだ?」

「気にするな」


 シードからの問い掛けを受け流す様に答えると、クルガンは隣に居る人物を見つめたまま沈黙する。『お前と出会った年代に造られたワインだ』とまでは、敢えて言葉にはしない。


「んじゃ、遠慮なく飲むぜ」


 懐から取り出した "コルクスクリュー" と呼ばれている栓抜きの螺旋状になっている金属針の先端をコルクの中心部に捩じ込んで柄を捻り、手慣れた手付きで取り除いた。


「グラスは持って来なかったのか?」

「こうやって飲めば、いらねえだろ」


 シードは口端を吊り上げて不敵な笑みを見せ、ボトルに口を付けてワインを軽く口に含む。

クルガンの首元に巻かれているスカーフを強く手前に引っ張り、顔を寄せて近付けると強引に唇を重ね合わせ、その隙間からワインを流し込んだ。

 

 赤い液体が口内へ注ぎ込まれた瞬間、微かに芳醇な甘い香りが広がる。


「思っていたよりも、味は悪くないな」

「まったく、お前という奴は……」


 唇が触れ合う至近距離のまま、シードの赤い瞳が熱を帯びて揺れる。

クルガンは溜め息と共に呆れた口調で告げた後、ふっと柔らかい笑みを浮かべて再び口付け直し――もう一度、その濃厚な味を堪能した。



                              【終】





              BGM: Fairy Story - GLAY


※幻水世界に「早飲みタイプ」のワインもあるんだろうな、

とは思うのですが。「熟成タイプ」のワインの方で書いています。


曲のタイトルがクルガンさんが読んでいた本のタイトル。

お伽噺。

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