刀剣男士と私の本丸事情

浦乃皐月(五月兎)
@urano4670

孤独を知り愛を知る/同田貫

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1【たぬき呼びは愛ゆえに】




あんたの背中はいつも寂しそうだった。


――強さだけを求めてきた俺は、あんたにとっての何になり得るんだろうな。


言動で伝えられるようになったのは、俺を顕現させてくれたあんたのおかげだ。


敵をぶった切ってあんたを守る。


刀本来の役割以上に何かできるんじゃねえのかと、俺は思っちまったんだよなあ。




縁側に腰掛けた私は、手持ちの扇子でゆるゆると自分に風を送っていた。


『涼しくならないねー』


誰へともなくぼやきながら、太陽と自分との間に扇子をかざす。


暦の上ではもうとっくに秋のはずなのに、 空気はまだ少しむし暑い。


『……?』


ふと、人の気配がした気がして振り返る。


そこには呆然と立ち尽くしている同田貫正国がいた。


『同田貫?』


「俺はたぬきじゃねえぞ」


反射的に口を開いた彼の耳は、一体どうなっているのだろう。


『言ってないよ、呼んでほしいの?』


呆れ顔で私は聞き返す。


「言ってねえなら悪かったよ」


がしがしと頭を掻く姿は居づらそうだ。


『というかさ。私が目の前でたぬきって呼んだこと、一度もないでしょう?』


言えば同田貫はくっと笑う。


「今呼んだよなあ?」


明らかにからかい口調だった。


『なっ!今のは呼んだって言わない』


心外だと抗議する。


「はいはい、確かに一度も……」


はた、とそこで同田貫は気付いた。


「目の前でってことは、俺がいなけりゃ呼んでるってことか?」


じーっと見つめられて視線を反らす。


『さあ、なんのことやら……』


短刀たちが皆たぬきさんと呼んでいる。


だから仕方ない面もあるんだと、心の中で言い訳をしておく。


『あ、愛称は愛されているから呼ばれるものであって』


何を言い出すかと思えばと、じと目で睨まれた。


「名前に特徴があっただけだろーが」


それもそうなのだけれども。


『それでも呼ぶのは愛ゆえに』


暗に愛しているのだと言ってみる。


「はっ、なんだそれ」


鼻で笑われてしまった。


それでも怒っていないのだから、本当に嫌なわけではないのだろう。


持っていた扇子を閉じて声を掛ける。


『……隣、座らない?』


自分の右側をぽんぽんと叩いた。


「いいぜ。たいした話はできねえけどな」





2【初期太刀は孤独を知る】




隣にどっかりと腰掛けた同田貫は、いつもの黒ジャージを着ている。


極になって帰って来てからの出撃回数はそう多くない。


すっかり見慣れてしまったジャージ姿に罪悪感が湧いた。


『……最近内番ばっかりでごめんね』


「何だよ急に」


実戦刀たる彼の在り方に、私は応えられていない。


『だって同田貫いわく「戦に連れてってくんねーと意味ねえ」んでしょう?』


まあなと同田貫は同意する。


「俺としちゃあ物足りねえが……鍛練の一環だろ、わかってるよ」


最近よく同田貫は考え込んでいるが、出陣の有無が理由ではないらしい。


『じゃあ何か悩んでる?』


「悩んでねえよ」


同田貫はキッパリと答えた。


「だがまあ……」


私を映す金色の瞳が少し揺れる。


「伝えてえことは、あるってこったな」


自分自身に言い聞かせるような口振りだった。


『伝えたいこと?』


聞き返すと、ああと頷く。


「俺は初期刀じゃねえが、あんたの初めての太刀……いわば初期太刀だろ」


何を言われるかと思えば。


『っふふ、なにそれ』


胸を張って言う姿に笑ってしまった。


『今は打刀でしょう?』


初めは太刀の振り分けだったが、刀種が打刀になったのはいつの頃だったか。


「そーだけどよぉ……それはまあ置いといて、だ」


同田貫は居ずまいを正し、視線を合わせる。


「古株の俺はよーく分かってるんだぜ、あんたのことをよぉ」


その眼差しは真剣だった。


「あんたがいなけりゃ、今はなかったってこともな」


一理はあるが、同意しかねた。


『……そうかな』


私という審神者がいなくても、きっと他の誰かが役割を担っていたことだろう。


『同田貫も、他のみんなも居てくれたから今があるんだよ』


遠くの空をみやる。


全ては私一人では成し得なかったことだ。


「謙遜するのはあんたの癖だよなぁ」


『謙遜じゃなくて真理でしょう?』


苦笑しながら答えた。


「真理ねえ」


曇りない瞳が私を見つめる。


「……あんたの心はいつも独りだ、俺はそれを知ってる」


唐突に告げられたことは……事実だった。


誰といても、何をしていても埋まらない何かが心にはあった。


『なに、それ』


心の闇が露呈してしまったような心境になり、唇が震える。


「生き物ってのは皆孤独なもんさ、独りで生きて独りで死んでいく」


それでも、と同田貫は続ける。


「あんたの孤独を知ってる俺は、ここにいるぜってなあ」


それを伝えたかったのだと言う。


『……っ』


大きく息を吸い込んでも胸が苦しい。

目頭まで熱くなってきた。


「一人じゃねえって言っても、あんたは納得しねえだろ?」


確かに、同田貫は私のことをよく分かってくれていて。


『……そうね』


言いながら涙を隠すように、右手で目を覆った。


「だよなあ……」


すすり泣く息が聞こえているはずなのに、同田貫は暫くただ隣にいるだけだった。





3【愛しい私の付喪神】




『……』


同田貫の手が私の腕に触れる。


「っ」


戸惑ったように一度離れて、今度はそっと腕を掴まれた。


「もう隠さないでくれよ」


腕を引かれ、目を覆っていた手が外れる。

涙でぐしゃぐしゃの顔で同田貫と見つめ合った。


『なんで外しちゃうの』


左手で涙を拭う。


「知ってる俺には、見せてもいいんじゃねえの?」


にっと口角を上げて笑った同田貫は、そのままそっと手の甲に口付けた。


――ちゅっ。


『う、そ』


同田貫、あの質実剛健を謳っている同田貫が今キキキス、なんでっ!?


驚きと困惑で涙が引っ込む。


「とめて欲しそうな顔だったからよぉ」


『とまったけど!そうじゃなくて!』


予想だにしていなくて、思考がまとまらない。


「っへへ、俺がこんなことすると思わなかったみてーだな?」


快活に笑う同田貫を見ていたら、なんだかどうでも良くなってきた。


『はぁ……バカ』


「へいへい、照れ隠し照れ隠しぃ」


同田貫正国、私の初めての太刀。


彼は私をよく理解していた。

だから知っていると、傍にいると、わざわざ言葉で伝えてくれた。


愛しい私の付喪神。


『ありがとうね』


言って頬にキスしてやる。


「おいおい今っ!?」


『仕返しー』


立ち上がってこの場から逃げようとする。


「ああおい!扇子落としてるって」


『え』


慌てて振り向いても扇子は見当たらない。


「嘘だよバーカ」


ピンっとおでこを弾かれた。


『あーひどい、痛い』


涙なんてもうすっかり乾いていて。


そんな私を同田貫は楽しそうに見ていた。





4【これが愛というやつか】同田貫視点




「ちょっとやりすぎたかぁ?」


赤くなってしまったおでこを突つく。


『もー、つつかないでってば』


額をさする姿が可愛いと思ってるなんて、言えねえよなあ。


「なあ」


『ん?』


俺を見上げるその瞳に問う。


「俺はあんたの何にならなり得るんだろーな」


俺はあんたの孤独を知っていたが、あんたは俺の求める答えを知っていた。


『あなたは私の大切な同田貫でしょう?』


ほんと、敵わねえよなぁ。


「っはは、違いねえや」


俺はあんたの愛刀、同田貫正国。

あんたが愛した付喪神だ。


『悩みは晴れた?』


だから悩んでねえっての。


「俺は愛されてたんだよなぁ」


『何を今更。私は最初から言ってたでしょう?』


愛ゆえに、ってか?


「わかってなかったのは俺だな」


よしよしと頭を撫で回す。


『……髪が乱れるのは嫌だけど、嫌いじゃないよ』


いつもはやめろって騒ぐくせによぉ。


「こーいう時は、好きだって言うもんじゃねえのかよ」


『はいはい好きですよー』


唇を尖らせる姿でさえ、眩しい。


「俺も好きだぜ」


好意を乗せた言葉は、あんたに届いただろうか。


『ふふ、知ってる』


結局俺は、あんたが笑ってりゃあそれでいいんだよなぁ。


これが愛というやつか。



<終>