【現パロ鯖ぐだ】すれ違う揃いの指先【キャスぐだ】

焦がし木炭@yokko
@yokkkkkkkkkkko

※ぐだの名前を『藤丸立香』で設定しています




(――――……あ)


 不意に視界に映りこんだ鮮やかな青色に、立香は書架へ戻す本を運んでいた足を止めた。一階のフロアを見下ろす窓際に設置されたカウンター席に、一人突っ伏している人影がある。高めの椅子に腰を落ち着けて背中を丸めたその姿は初めて見るが、清潔感のある白いシャツを滑り落ちる青い髪には見覚えがあった。

 静かな館内の空気を乱す音はなく、身じろぎ一つしない様を見るに眠っているようだが、気分を悪くしていたら大変だし、と言い訳染みたことを思ってそっと近付く。細いが筋肉質な腕に預けられたその顔を覗き込むと、立香の思っていた通りの男が静かに寝息を立てていた。


(……初めて見た、かも)


 ある意味では予想通りなのだが、見知った顔の無防備なシーンという意外なものを前に、立香は思わずその顔をしげしげと見た。切れ長な瞳は閉じられ、男らしく直線的な眉は緩まり、薄い唇は僅かに開いて吐息を漏らしている。寝姿だと言うのに美形が崩れるどころか無防備故の可愛らしさまで付加されてパワーアップしているその顔に、立香は、イケメンズルい、と理不尽な感想を抱いた。

 下手な女性より伸ばされた長く青い髪が特徴のこの男の名を彼女は知らない。知っているのは、自身の勤めるこの図書館に週に二回の頻度でくること、古代イギリス史や民俗学、ケルトやルーン文字関係の研究書などをよく借りていること、自身が受付担当でない曜日には毎度見つけて話しかけてくること、美人と形容すべき見た目の割に中身は面倒見のいい兄貴肌であること、ぐらいである。


「……ん……」

「――!」


 不意に身じろぎをした彼に、びくりと小さく肩が跳ねる。一気に早くなった鼓動を自覚しつつ恐る恐る様子を伺うが、青い麗人は未だ眠りの国から戻ってはいないようだった。

 寝顔を見ていたことがバレるという非常に気まずい展開にならずに済んだことにほっと息を吐いた立香は、彼の髪がその口元にかかっていることに気付いた。どうやら身じろぎした時に顔の角度が変わって付いてしまったようだ。吐息の度に僅かに揺れる細い髪に、邪魔そうだな、という感想を抱いた立香は無意識的に男の口元に手を伸ばした。

 柔らかそうな青を指に引っ掛け、そっと肩へ流す。見る度に手触りがよさそうだと思っていたそれは、予想通り立香の指先を絹糸のように滑らかに撫でていった。


(――…………って、ちょっと待って)


 手を引いた瞬間はっと我に返り、さっと顔を青くする。いくら一度くらい触ってみたいなどと思っていたとはいえ、名前も知らない、顔見知り程度の相手に自分はいったい何をしているのか。

 ぶわり、と嫌な汗が出ると同時に『やばい』の三文字がでかでかと頭に浮かび、立香は音を立てないように、しかし可能な限り早い速度でその場を後にした。












 不意に訪れた覚醒の感覚に従い瞼を上げる。徐々にクリアになっていく視界を眺めながら自身がどこに居るのか思い出し、クー・フーリンは小さく、あ、と声を漏らした。


(――――やっべぇ、寝すぎた)


 腕時計で時間を確認すると、既に閉館時間の30分前になっている。窓から見える階下の様子も、人気が無く閑散としていた。

 昨夜の徹夜が祟って思った以上に寝てしまったらしいと察し、溜め息混じりに首を回して立ち上がる。今日は『彼女』が受付ではないため立ち話が出来ると思っていたのだが、時間的に難しいかもしれない。週に二度しかない貴重な癒しタイムを逃した自分に再度溜め息を吐きつつ、彼は荷物を持って民俗学のジャンルの書架へ向かった。せめて本来の図書館的な目的――借りに来た本の確保は済ませなければ。


「――――無ぇし」


 思わずぽつりと呟く。その視線の先には、ぽっかり隙間が出来ている本棚があった。

 返却した本の続刊を借りるのが今日の目的だったのだが、どうやら先客がいたらしい。あんなドマイナーな本読むやつ居るのかよ、と自分のことを棚に上げてぼやきつつ、無い物は仕方ないので諦めて書架を後にする。日頃からどちらかと言えば不幸性質だという自覚はあるが、多少のお目こぼしぐらい欲しいものだ。

 結局今日は昼寝しに来ただけか。と息を吐いて歩いていると、聞き覚えのある声がクー・フーリンの耳朶を打った。足の向きを少し変えて声を追うと、見覚えのある橙が目に入る。その人はこちらに背を向けていて、棚の影の誰かと話しているようだった。

 今日はもう見ないかも知れないと思っていた相手に遭遇した幸運に、喜ぶべきか後を怖がるべきかと思いながらその背に近付く。ある程度近寄った所で、彼女が話している相手が男であることにクー・フーリンは気付いた。


「――のシリーズはいい。要望の紙にも書いておいたが、直談判の方がいいかと思ってね」

「そうですね、こちらからも掛け合ってみます。私もあのシリーズすごく好きなので」


 ふわり、と彼女が棚の向こうの誰かに向かって笑みを浮かべる。こちらの存在に感付く様子の無い彼女に、クー・フーリンは半ば無意識的にその手を伸ばした。


「――――う、わっ」


 指先がその身に触れる瞬間、彼女が振り向く。目が合って同時に驚き、女は大きく肩を跳ねさせ、男は伸ばしていた手を引っ込めた。


「……あ、えーっと、こんにちは……?」

「…………おう、お疲れさん」


 触れようとした――否、正確には振り向く肩に実際一瞬触れたのだが――ことには気付かなかったのか驚きと戸惑いの入り混じった表情で挨拶をしてくる彼女に、少々気まずいものを感じながら苦笑して返す。声を掛けるより先に触れて気付かせようとした自分にも驚いたが、その瞬間彼女から振り向いたことにも驚いた。知らぬ間に話は終わっていたようで、彼女が話していた相手の気配はもうない。


「見かけたんで声かけようとしたんだが、驚かせちまったな」

「あ、いいえ、大丈夫です……もうお帰りですか?」

「あー、いや、そうだな……」


 その問いかけに、ほんの少し言いよどむ。彼女を見つけるまではそのつもりだったが、ここでイエスと頷くのは少々勿体ない。ついでに言えば、借りる予定だった本の有無も聞いておきたかった。


「『アイルランド古代史研究』の三巻ってまだ貸し出し中か?」

「アイルランド古代史研究ですか? それなら今日返却来ましたよ」


 ちょうど棚に戻しに行くところだったんです、と言いながら、傍にあった返却本のカートの中から一冊の分厚い本を取り出す。それから、あ、と声を上げてもう一冊、ハードカバーの本を取った。


「先週探していたものが昨日返却されたんですが、これも借りていきますか?」


 はい、とその細腕では重いだろう二冊を差し出され、礼を言って受け取る。確かに、自分が探していた本二冊だった。


「ちょうどいいな、借りてくぜ。っつーか、よく俺がこれ探してたの覚えてたな、あんた」


 クー・フーリンの言葉に橙の髪の図書館職員――名札のお陰で苗字が『藤丸』であるということだけ把握できている娘は、ぱちりと一度瞬きした後小首を傾げて少しはにかんだ。


「見つからないの、結構悔しがってたのが印象に残っていたので」


 タイトル見て思い出したので半分は偶然ですけどね、などと付け加えながら笑う彼女に、思わず目元に手を当てて天を仰ぎたくなる衝動に駆られる。そんな顔をするな、やら、そこまで言うほど悔しがってたか俺、やら色んな思いが駆け巡ったが、最終的にクー・フーリンの口から出たのは、そうか、というシンプルな一言だけだった。


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